楔を切る










「あいにくだが、ワシはあんた方の元へ返すために、
こいつらを連れてきたわけじゃないわい」

「はあ?」



重たく刺すような空気の中ヴォルフは話を続ける。



「お前たちは、ペンギンとシャチに悪事を働かせていたな。
武器の密輸から宝石店への強盗まで。それは事実か?」

「……っ!クソガキども!おめえらが話したのか!?
……ふざけた真似をしやがって……
教育が足りてなかったようだなあ!」



男は怒り狂った様子で、
ペンギンとシャチに向けて拳を振り上げた。
二人とも、恐怖の記憶が植えつけられているのか、
身体が硬くなってよけることもできず、突っ立っている。
けど、その拳はヴォルフによってあっさりと受け止められた。



「おい、放せよじじい!……っ!
な、なんだこいつ……すげえ力だ……
や、やめろ! 手が潰れちまう!」

「あんたはそうやって、
何度もこの子たちを殴ってきたのか……?」

「……ああ!そうさ!それの何が悪い!
両親の死んだみじめなガキどもに
住む場所を与えてやったのはこの俺だ!
世の中のゴミみたいなやつらを、
上手く使ってやったのはこの俺だ!
失敗したら殴りもするさ!そうやって、
もっと使える『道具』に仕上げていくんだよ!
単なるゴミを立派な『道具』にしてやる!
いいことじゃねえか!」



男が怒鳴り上げて私は怖かった。
力のある大人が子どもを押さえ付ける理不尽を
母国では大人も同じような扱いを受けていた事を
私は知っているから余計に怖い。
人を蔑む事しかしない人たちが怖い。



「アメリ…大丈夫か……」

「ベポ…お願い、このまま後ろにいさせて…怖い……」

「うん。勿論だよ。」

「ふざけんな!!」



ベポの背中にしがみついていると、
ローが大声を上げた。



「そいつらは俺の大切な子分だ!
てめえみたいなゲスが!
勝手にそいつらを『道具』なんて呼ぶんじゃねェ!!」

「ローさん……」

「てめえは……こいつらの気持ちが分かんねェのか……?
両親が死んで……頼れる『大人』もいなくて……
悪いことを無理やりやらされて……
それがどんなに辛いことか、分からねェのか!!」

「知ったような口をきくガキだ……いいか!
俺がこいつらを引き取ってやったんだ!
家も寝床も食事も与えてやった!
ああ、食事って言ってもネズミのエサみてえなもんだが……
クズにはそれで十分なんだよ!」

「このっ……!」

「もういい、喋るな」

「お……ごっ……」



ローが男を殴ろうと前に出ると
ヴォルフの拳が先に、男の腹にめりこんでいた。
そのまま、男は前に倒れて気を失った。



「シャチ!ペンギン!お前らは道具なんぞではない!
クズなんかではない!いらない存在なんかではないんじゃ!
ワシにとって!お前らは大切な同居人じゃ!!
こんな男の台詞でお前たちが傷つく必要は微塵もないっ!!」



私はベポの背中から少し顔を出す形で前を見ると、
ローとベポとその場に立ち尽くしていた。
シャチとペンギンは、地面に膝をついて泣いていた。



「ヴォルフ!何があった!?」



そこへ騒ぎを聞きつけたのか、息を切らしながら
さっき駐在所で会ったラッドが走ってくる。

ヴォルフは事情を説明して、
さらに悪い事をしていた証拠品を見せて
あっという間に何人もの駐在が集まり、
家の中へ入っていった。
ヴォルフの情報通り、シャチの叔父と叔母の部屋からは
犯罪の証拠が大量に見つかった。
シャチやペンギンから聞かされていたものだけでなく、
違法ドラッグの売買、さらには子どもを誘拐して
島の外に売り飛ばす計画まで立てていたらしくて、
その場で二人は逮捕され、駐在に連行されていった。



「手間をかけさせたな、ヴォルフ」



そう言って、ラッドは帽子を取って頭を下げた。



「ふん。ガキどもが思ってた以上に
きっちり働いてくれたからな。
ボーナスを払ってやっただけのことよ」

「変わらんな、あんたは…自分だけが
しんどい思いをするようなやり方ばかり、選んでいる」

「余計なお世話じゃ。ワシは、この生き方でいいんじゃよ」



それを聞いて、ラッドは笑っていた。
ヴォルフの方は口をへの字に曲げて視線を逸らし、
照れている顔をこちらに見せないようにしていた。



「「ヴォルフ!!」」



そこへ、ペンギンとシャチが駆け寄った。



「おう、小僧ども。
……嫌なものを見せてすまなかったのう。だが、
こうしてあいつらのやっていたことが表沙汰になった以上、
お前たちが責められるようなことはない。
安心して、働くことができる」


ヴォルフは、二人の前にしゃがみこんだ。
そうして、右手をシャチの頭に、
左手をペンギンの頭に、それぞれ置いた。

髪がくしゃくしゃになるような勢いで二人の頭を撫でた。



「もう、お前たちを怖がらせる人間は、どこにもおらんよ」



言い終わるかどうかのうちにペンギンとシャチは
ヴォルフの胸に飛びこむようにして、大声で泣いた。
ヴォルフの方はにこやかに笑いながら、
鼻水とよだれでぐしゃぐしゃになった二人を
抱きかかえていた。














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