温かいスープ









「ん…どこだ、ここ」



洞窟の中で自身を苦しめた病気 珀鉛病を
オペオペの実と自分の医学で手術し
治したところで眠ってしまっていたが、
目が覚めると木造の天井が目に映り、
柔らかいベッドに暖かい布団がかけられた状態だった。

身体を起こして周りを見渡すと
部屋の中には机と椅子に沢山の本が詰まった本棚と
優雅に泳ぐ金魚の水槽に暖かい暖炉。
誰かの家に連れてこられたという状況は理解出来た。



「おう、やっと起きたか」



扉が開くと冬の島に似つかわしくない
真夏のリゾート地にいるような格好のじいさんが
スープをトレーに置いてやって来た。



「腹が減ってるじゃろう」



じいさんはベッドの脇にトレーを置いた。
フワリと香ばしい匂いが鼻を刺激して
思わずゴクリと唾を飲み込むが自分も馬鹿じゃない。

俺は一瞬でじいさんの背後に回った。
左腕で首を絞めるような体勢のまま、
メスを相手の喉元に突きつける。



「何が狙いだ、じいさん」 



体力はあまり回復していないが、
じいさんひとりに後れをとることはないだろう。
そう思って、俺は相手の目的を訊き出そうとした。
しかし、老人はまったく動じない。



カチャ…

Σ「!!」



しまった、他にも仲間がいたのか!



「その人をケガさせたら許さないんだから」



女の声だ。俺はそれに気を取られると、
「ふんっ!」と言う声と共にフワリと身体が浮き、
背中から床に叩きつけられた。



「年老いたとはいえ、かつては十二分に鍛えた肉体よ。
小僧に背後をとられたところで、
負ける道理なんぞありゃせんわい。」



一瞬何が起きたか分からなかったが、
俺はじいさんに投げられたらしい。
素早く起き上がって、じいさんと向き合う。
気圧されないよう両目を見開いて、ぎろりと睨みつける。

するとじいさんの後ろには自分に銃を向けた
自分と同じ背丈の子どもが立っていた。



「アメリ、人に銃を向けるんでない。」

「だってこの子ヴォルフにナイフ向けた!」

「間違って発砲したらどうする。やれやれ…
荒んでるのう。まるで飢えたケダモノの目じゃ。」



"アメリ"と呼ばれた女は銃は下ろしたが、
ヴォルフというじいさんに声を荒げた。

じいさんは俺に攻撃を仕掛けるでもなく、
スープ皿とスプーンを手に取った。
そしてそのまま、俺に近づけてくる。



「食え。お前さんの身体は冷えきっていた。
ロクに栄養もとっとらんのじゃろう。」



出されたスープを見ると中には鳥だか牛だかの肉や
色とりどりの野菜が入っていて美味しそうだった。
自分で釣った魚を食べ損ねて空腹も限界の限界だが、
それでも怖かった。
食べたらまた眠らされて、
もしかしたらドフラミンゴを呼んでいるんじゃないかと。

せっかくコラさんから貰った命だ。
絶対何としてでも生き延びなきゃいけない。
心なんか許すもんか。



「変なものでも入ってないかと疑っとるのか……ふん。
他人が、信じられんのだな」 



俺は何も答えず、じいさんから目を逸らさないよう
必死だった。するとじいさんは、
目の前で、スープに口をつけた。
一口、二口、美味そうにスープをすする。



「これで、毒なんぞ入ってないと分かったろう。
……だいじょうぶじゃ。ワシはお前の敵じゃない。
正義の味方を気取るつもりはないが、
死にかけのガキを相手に駆け引きするほど、
腐ってはおらんわい。」



そう言ってじいさんがもう一度スープを差し出してくる。
俺は無意識に左手はスプーンを握っていて
右手のメスはじいさんに向けたまま、スープに口を付けた。

口の中いっぱいに、旨味が広がった。

全身に栄養が染みこんでいくような感覚があった。 
気がつけば、俺は泣いていた。
スープが美味くて、あたたかくて、
命が助かったことを知って。
そうした感情のすべてが混ざり合い、
涙をこらえきれなくなっていた。



「ちくしょう……美味ェ……美味ェ!!」



一度口にすると勢いは止まらなかった。
メスを脇に置いて、俺は肉や野菜を掻きこむようにして
スープを飲みほした。腹が減ってるせいか、
それはこれまで口にしてきたどんな料理よりも
尊いものに感じられた。



「すぐに、おかわりを持ってきてやるわい。
あぁ、ちなみにお前を見つけたのはアメリじゃ。
ちゃんとお礼は言うんだぞ。
スープもアメリが作ったものじゃ」



じいさんはそう言って笑いながら部屋を出て行き、
俺はチラリとアメリを見上げると
さっきとは違って表情が柔らかくなっていて、
ジッと見つめられているとなんだか落ち着かなかった。










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