遠くの声









子どもの泣き声、人々の悲鳴、燃える町。 
かつて慕った両親、妹のラミ、俺の家族。 
誰も救えず、何も守れず、すべてが業火の中に消えていく。
俺は町の中を駆ける。
誰かを助けようと、ひとりでも助けたいと。
けれど願いは叶わない。

灰となった世界だけが俺の前に残される。
黒く焦げた沢山の死体が、足元に転がっている。

そんな夢を見た。
飛び起きると、寝間着の中にびっしょりと汗を掻いている。
呼吸も乱れていて、一瞬、これが現実なのか、
それとも悪い夢の続きなのか分からなくなる。



「ローさん……」 



すぐ横で寝ていたベポが心配そうに声をかけてくる。



「悪ぃな。起こしちまったか」

「いいよ。飲み物、取ってくるな」

「ああ、助かる」 



……この数日、まともに眠った日はほとんどない。
なかなか寝つけないし、ようやく眠れたと思えば、
悪夢にうなされ目を覚ます。そんな日々が続いていた。

原因ははっきりしている。
五日前の新聞で、大々的に報じられた記事のせいだ。 
ドレスローザについての、一面記事。




      『ドレスローザに新たなる王が誕生!
        その名はドフラミンゴ!!』




その見出しだけで、眩暈がした。 
すべての点が一本の線として、繋がるような感覚があった。
俺がファミリーにいた頃から、
ドフラミンゴはずっとこれを狙っていたんだ。 
記事はこんな風に続いていた。

『ドレスローザはW平和の象徴Wと呼ばれる国だったが、
先日、王が乱心し国民たちを虐殺した。
それを海賊ドフラミンゴが止め、
新しい王として君臨した結果、今
は落ち着きを取り戻している……』

すべて、仕組まれていた。
明確な根拠はないが、俺は直感的にそう思った。

おそらくは王の乱心というのも、ドフラミンゴが裏で
何かしら手を回した結果として起きたことのはずだ。
そして同時に、分かってしまった。
コラさんはこれを防ごうとして、俺に文書を託したんだ。
そこに記された内容がドレスローザという国を
救うことになると信じて。 
……やりきれない気持ちになる。
俺が声をかけた海兵がドフラミンゴの仲間じゃなかったら。
もっと早く、俺がコラさんの考えを知っていれば。
いや、そもそも、俺がコラさんと出会っていなければ。 
いくつもの「if」が、頭の中を駆け巡る。
こんな考え方をしたところで、
コラさんが喜ばないってことくらい分かってる。 
でも、それでも、自分の無力を嘆かずにはいられなかった。

ベポがヴォルフの育てたハーブから作ったお茶を
淹れてくれた。香りが良くて心が少し落ち着く。
ベポやシャチやペンギンそしてアメリに心配をかけている。
アメリに関しては直ぐに聞いてきそうなのに
無理に話を聞きに来ようとはしなかった。
他の奴らもそうだ。俺が話せるようになった時、
それまで待ってくれている。

いつかは話したいけど、心の整理が追いつかない。

このままここに居て良いのか、そんな事を考える。
でも、俺には今ここで守るべき日常がある。
守るべき世界がある。
それは絶対に忘れちゃいけないことだろうと、強く思った。











翌日、ベポの淹れたお茶のおかげで目覚めが良かった。
先にリビングに降りると3年間ずっと1番早起きのアメリが
朝から裁縫をしていた。



「おはよう」

「ああ、おはよう。それベポのか?」

「うん。袖のとこ破れちゃったんだって。
だから直してあげてるの。」

「そうか」

「…良かった。今日は悪い夢見なかったんだ。
ヴォルフが栽培したハーブのおかげかな」

「…昨日起きてたのか」

「うん。ごめんね、
盗み聞きしたみたいになって…でも
私まで声掛けたら起こしたと思って
悪いと思っちゃうでしょ?だから声はかけなかった。」

「そうか…」

「…ロー、どこか行きたいの?」



アメリの言葉に心臓が強く脈を打った。
俺がベポに今何をしたいか聞いていた話だ。
ベポはいつか兄に会いにまた海に出たいと言った。
それに対して俺もいつか
ドレスローザに行ってみたいと思った。
それをアメリには見透かされているようだった。



「ベポもそうだよね。
お兄ちゃんに会いに海に出たんだもん。
航海術も沢山学んでるし海図も書けるようになったし…
…2人が話してるのを聞いて、
未来の私は何を望んでるのかなって
そう思ったら眠れなくなっちゃった…」

「寝てないのか?」

「うん…でも、今日は休みだから大丈夫だよ。
ローも珈琲いる?そろそろ朝ごはん作るけど…」

「いや、水でいい。」

「分かった。」



話してくれたアメリは何処か寂しそうで
コップに水を入れて俺の前に置いてくれた。
そして朝食を作り始めようと冷蔵庫から野菜を取り出す。
シャチやペンギンの料理の腕も上がったが、
味噌汁に関してはアメリが一番美味かった。
単純な料理なのに何かコツがあるのだろうか。



「ロー、私はローが選んだ事なら一番に応援するよ。」



……お前はそういう奴だよな。

     俺が安心する言葉をお前は言ってくれる。















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