愛で溶かす
▽
「WシャンブルズW」
手にしていた刀の柄を前方に投げ、俺は能力を使った。
瞬く間に刀の柄と部屋にあった大岩の位置が入れ替わる。
当然、バッカの光線は目の前の大岩を直撃する。
「はっ!そんなもの、Wすべてを溶かす愛Wを受ければ
あっさりと溶け……溶け……溶けないいいいいっ!?」
光線は、岩の中心あたりで掻き消えた。
そのタイミングで、岩を飛び越えるようにして
バッカの懐へと潜りこむ。
「てめえが言ってたことだろ。
強酸を使うのは体力を消耗するってな。
これが最初の一発だったら、俺は岩と一緒に溶かされてた。
けど、光線で空いた穴の大きさが
だんだん小さくなってるのを見て分かったのさ。
てめえの光線にはもう、十分な力がないってな」
「そ、それがどうしたあっ!
俺が有利な状況にはなんの変わりも……」
「そうだな。俺に攻撃手段が残っていなければ、
勝負はてめえの勝ちだった」
バッカに物理攻撃は効かない。
今のところ確認できている有効な攻撃は、
ヴォルフに渡された電撃をまとった刀によるものだけ。
けど、刀が折れたからって、
俺が電気を使えなくなったわけじゃないんだ。
人間の体内には、微弱な電流が流れている。
俺はそれを感じとることができる。
意識のすべてを、右手の親指へと向けた。
全身の電気を、親指へと集め、凝縮し、増幅させる。
「てめえの安い覚悟に負けるわけにはいかねェ。
金と権力を欲しがるだけの覚悟なんかに屈したら、
コラさんに申し訳が立たねえんだよ」
バチバチと、弾けるような音が鳴る。
溢れ出る電気で、親指が光り出す。
これが、最後の一撃。
「ま、待てえっ!!」
「喰らいな……WカウンターショックW!!」
右手を前に突き出し、電気を帯びた親指を
バッカに突き刺した。
液状になっているバッカの全身に、強力な電流が流れる。
「ゲパアアアアアアアアアアッ!!」
光が、爆ぜた。
ぷすぷすと肉の焼けるような音がした。
そのままバッカは、一言も発することなく倒れた。
「終わりだ」
勝負はついた。
これで町の人たちもW溶解波Wの能力から
解放されるだろう。
ただ、俺の方もすぐには動けそうにない。
座りこんで、大きく安堵の息をついた。
ふと、意識を取り戻したヴォルフが
こちらに歩いてくるのが見えた。
いや、俺の方に向かってきてるんじゃない。
じいさんは、倒れているバッカのそばに座り、
懐に忍ばせていた短剣を取り出した。
そして、そのままバッカの胸に短剣を突き刺そうと
「やめろよ」
振り下ろそうとしたヴォルフの腕を、俺は掴んでいた。
「放せ、ロー」
「殺すつもりか」
「そうじゃ」
「完全に気を失ってる。
これ以上、何かする必要はねェだろ」
「ワシには責任がある。二十年前も、今回も、
バッカによって町とそこで暮らす人々が危険にさらされた。
ワシは、償わなければいかん。だから、その手を放せ」
「放さねェよ」
ヴォルフが考えてることなんか、俺には分からない。
どれだけの罪悪感があるのか、葛藤があるのか、
苦しみがあるのか、俺がちゃんと理解してるわけじゃない。
それでも──「あんたは、こいつの家族だろうが」
絶対に、この手を放してはいけないという確信だけがあった。
「どれだけ外道に成り下がったとしても、
バッカとあんたは親子だ。
理由なんて、それだけで十分だ。
……俺の恩人は、実の兄に殺された。
もう、家族が家族を殺すところなんて、俺は見たくない」
ヴォルフは何も言わなかった。
俺もそれ以上、言葉をかけなかった。
やがて、握っていたヴォルフの手から短剣が滑り落ちる。
ヴォルフは自分の顔を手で覆い、それから涙を流した。
じいさんがこんな風に静かに泣くってことを、
俺は初めて知った。
△
>「WシャンブルズW」
手にしていた刀の柄を前方に投げ、俺は能力を使った。
瞬く間に刀の柄と部屋にあった大岩の位置が入れ替わる。
当然、バッカの光線は目の前の大岩を直撃する。
「はっ!そんなもの、Wすべてを溶かす愛Wを受ければ
あっさりと溶け……溶け……溶けないいいいいっ!?」
光線は、岩の中心あたりで掻き消えた。
そのタイミングで、岩を飛び越えるようにして
バッカの懐へと潜りこむ。
「てめえが言ってたことだろ。
強酸を使うのは体力を消耗するってな。
これが最初の一発だったら、俺は岩と一緒に溶かされてた。
けど、光線で空いた穴の大きさが
だんだん小さくなってるのを見て分かったのさ。
てめえの光線にはもう、十分な力がないってな」
「そ、それがどうしたあっ!
俺が有利な状況にはなんの変わりも……」
「そうだな。俺に攻撃手段が残っていなければ、
勝負はてめえの勝ちだった」
バッカに物理攻撃は効かない。
今のところ確認できている有効な攻撃は、
ヴォルフに渡された電撃をまとった刀によるものだけ。
けど、刀が折れたからって、
俺が電気を使えなくなったわけじゃないんだ。
人間の体内には、微弱な電流が流れている。
俺はそれを感じとることができる。
意識のすべてを、右手の親指へと向けた。
全身の電気を、親指へと集め、凝縮し、増幅させる。
「てめえの安い覚悟に負けるわけにはいかねェ。
金と権力を欲しがるだけの覚悟なんかに屈したら、
コラさんに申し訳が立たねえんだよ」
バチバチと、弾けるような音が鳴る。
溢れ出る電気で、親指が光り出す。
これが、最後の一撃。
「ま、待てえっ!!」
「喰らいな……WカウンターショックW!!」
右手を前に突き出し、電気を帯びた親指を
バッカに突き刺した。
液状になっているバッカの全身に、強力な電流が流れる。
「ゲパアアアアアアアアアアッ!!」
光が、爆ぜた。
ぷすぷすと肉の焼けるような音がした。
そのままバッカは、一言も発することなく倒れた。
「終わりだ」
勝負はついた。
これで町の人たちもW溶解波Wの能力から
解放されるだろう。
ただ、俺の方もすぐには動けそうにない。
座りこんで、大きく安堵の息をついた。
ふと、意識を取り戻したヴォルフが
こちらに歩いてくるのが見えた。
いや、俺の方に向かってきてるんじゃない。
じいさんは、倒れているバッカのそばに座り、
懐に忍ばせていた短剣を取り出した。
そして、そのままバッカの胸に短剣を突き刺そうと
「やめろよ」
振り下ろそうとしたヴォルフの腕を、俺は掴んでいた。
「放せ、ロー」
「殺すつもりか」
「そうじゃ」
「完全に気を失ってる。
これ以上、何かする必要はねェだろ」
「ワシには責任がある。二十年前も、今回も、
バッカによって町とそこで暮らす人々が危険にさらされた。
ワシは、償わなければいかん。だから、その手を放せ」
「放さねェよ」
ヴォルフが考えてることなんか、俺には分からない。
どれだけの罪悪感があるのか、葛藤があるのか、
苦しみがあるのか、俺がちゃんと理解してるわけじゃない。
それでも──「あんたは、こいつの家族だろうが」
絶対に、この手を放してはいけないという確信だけがあった。
「どれだけ外道に成り下がったとしても、
バッカとあんたは親子だ。
理由なんて、それだけで十分だ。
……俺の恩人は、実の兄に殺された。
もう、家族が家族を殺すところなんて、俺は見たくない」
ヴォルフは何も言わなかった。
俺もそれ以上、言葉をかけなかった。
やがて、握っていたヴォルフの手から短剣が滑り落ちる。
ヴォルフは自分の顔を手で覆い、それから涙を流した。
じいさんがこんな風に静かに泣くってことを、
俺は初めて知った。
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