決断の時









入院中、俺はヴォルフがいる病室に向かった。
さっき先生の診察で明日退院する事が決まったからだ。
家に帰る前に2人で話さなきゃならない事がある。 
病室をノックして中に入った。



「じいさん」

「ん、なんじゃ?退院なら明日ワシも今さっき聞いたぞ。」

「いや……ちょっと話したいことがあるんだけど、いいか」

「……ああ、かまわんよ」



ヴォルフに許可をもらってベッドの横にある椅子に座る。



「三年じゃなあ」、とヴォルフが言った。

「最初にアメリを拾って次にお前を拾って、
そこからさらに3人ガキが増えて……
まったく、やかましい毎日になったもんじゃ」

「へっ。お人よしってのは、損するようにできてるんだよ」

「だがまあ、悪くない時間じゃった。
大勢でにぎやかに食卓を囲むのが当たり前になるなんて、
ずうっと長いあいだ、考えたこともなかったからな」

「なんだよ、急にしめっぽい話しやがって」

「ロー、お前、島を出るつもりじゃな」

「……っ!」

「ふん。伊達にお前がチビだった頃から
面倒を見てきたわけじゃないわい。
何かを決意したような表情、それに
わざわざ改まってワシの病室に来たってのは、
それだけ大事な話があるんだろうと、簡単に予想できる」

「じいさん」

「ん」

「俺は、海に出る。海賊に、なるぞ。
海賊になって、経験を積んで、力をつけて、
コラさんの願いを叶える。
バッカみたいには、ならない。
俺は信念を曲げずに、
あんたを失望させないような海賊になってみせる」

「そうか」

「反対、しねェんだな」

「海賊の世界はおっかないもんじゃ。
荒れ狂う海、不安定な天候、
食料や水の不足、凶悪な敵との戦い、
そして仲間とのいさかい……そういったものが原因で、
心を荒ませてしまう者も少なくない。
……バッカのようにな。それを分かった上で
お前が決めたことなら、ワシは止めたりせんよ」



ヴォルフの声はやわらかかった。
まるで巣立つヒナを見送ろうとするかのような。



「じいさん、俺はあんたに助けられて、
たくさんのものを手にした。
友達と呼べる連中ができた。
生きることの楽しさを教えてもらった。
けど、そういう暮らしの中でも自分の胸にドス黒い
『よどみ』みたいなものが残ってるって分かるんだ。
ドフラミンゴへの憎しみや、
コラさんの願いを叶えなければいけないっていう
焦りが、おれを責め立ててくる」

「一度抱いた憎しみや悲しみは、
そう簡単に消えるもんじゃない。それは、
20年間苦しんできたワシが、一番よく分かっておる」

「このままじゃ駄目だと思った。
俺は『いつか』ドレスローザに行けばいいと、
なんとなく考えてた。けど、バッカと戦って思ったんだ。
W本当の自由Wが知りたいって。
コラさんが伝えたかった自由の意味を、
俺はちゃんと理解しなくちゃいけねェ。
だから、おれは『今』、海に出る。
そうしなきゃいけないって、思うんだ。」

「あいつらには、いつ話すつもりじゃ」

「アメリには見舞い来た時に伝えた。
俺にはアイツが必要だから…連れて行く。」

「ふん…そんな事だろうと思ったわい。」



ヴォルフはお見通しだったようだ。
フンッと鼻を鳴らして顔がムスッとしていた。



「ベポ達には今日の夜、話すさ。
あいつらがどういう反応をするのかは分からねェ。
けど、ついてきてくれるかどうかは、
訊いてみようと思う。でも多分あいつらは…」

「……出発は、いつじゃ」

「一週間後だ。この島でやっておくことがあるからな。
町の連中……世話になった先生やラッドには、
ちゃんとあいさつをしておきたい」

「寂しくは、ないのか?」



ヴォルフが横を向き、俺に尋ねた。



「お前は、あの町を気に入っていたじゃろう。
辛く思う部分もあるんじゃないのか」

「何も感じないってわけじゃねェよ。
けど、感傷に引きずられて、自分のやるべきことに
ブレーキをかけるってのは違うだろ」

「そうじゃな。」

「なぁ、あんたは……また海賊をやりたいとか、
思ったりしないのか?」

「ワシはここに残るさ。なんだかんだで、
ワシはこの島も、町も、気に入っている。
発明に精を出して、たまに町に出かけるような暮らしが
性に合っとるんじゃ。海賊としての冒険は、
お前らガキんちょどもに任せるとするわい。カッカッカ!」



そう言ってヴォルフは笑った。



「アメリの事、頼んだぞ…」

「ああ、何があっても守るよ。
アイツは守られるのを嫌がるけどな」

「カッカッカ!ずいぶん勝気な娘に育ったもんじゃわい!」

「アイツは昔から強いやつだよ…
俺が甘く見てたんだ。」

「そうじゃな。暮らし始めた時から
全く泣かず、力仕事もこなす奴じゃった………、
フン…そろそろ部屋に戻らんと怒られるぞ。」



ヴォルフはそう言って背を向けたままだった。
寂しいと思ってくれているんだろう。
俺らとはまた違うアメリに対しては孫のように
可愛がってたから海に誘うのに引け目を感じていた。
だから絶対何があっても大事にするって決めている。

俺の船でも泣かせたりしない。













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