出航前日
▽
退院して帰ってきたその日の夜
ローはベポ達にも海賊になる事を伝えた。
ベポ達も何となく気付いていたらしく
驚く事なく冷静に受け止めていた。
そしてベポ達も海賊になる決断をして、
私たち全員ここから出て行く事が決まると
ヴォルフに報告をしてヴォルフは小さく
「そうか、」と言うだけだった。
それから一週間私たちはいつも通りの生活に戻り、
朝起きて全員で食卓を囲み、ヴォルフは研究所へ向かい、
私たちは町に行き、職場の人に事情を説明してから、
これまでの恩を返すつもりで、全力で働く。
そうして夜になったら家に戻り、
また馬鹿騒ぎをして、疲れたら寝る。
誰もそのあいだ、海賊の話題は出さなかった。
出航に使う木造の安い船を、町で買ったくらいだった。
あっという間に出航日の前日になり、
私たちはヴォルフに研究所へ呼び出された。
町での仕事を終わらせ、お世話になった人たちに
最後のあいさつをしてから、研究所へと向かう。
「おう、来たか」
「なんだよ、こんなとこに呼び出して。
はっ!……てめェ、まさか海に出る前に、
俺たちに妙な実験をしようとしてるんじゃ……」
「あほう!どんなマッドサイエンティストじゃワシはっ!!
ええい、くだらないことを言っていないで、
ちょっとついてこい!」
ヴォルフと一緒に階段を下り、洞窟に出る。
灯りを点けると、そこには前と同じように、
黄色い潜水艦が浮かんでいた。
大地をぶち抜いて神殿に突っこんだ割に、
船体はきれいなものだった。でも前と違う部分があった。
ひとつだけ大きく見た目が変わっていることに気づいた。
船の胴体部分に、大きなドクロのマーク
海賊であることを示すマークが堂々と描かれている。
「なっ……!」
思わず、ローが驚きで声が漏れた。
「ガラクタ屋、どういうことだ!」
「お前、夜中に食卓で海賊旗に描くマークを
考えていたじゃろう」
「ど、どうしてそれを……」
「ふん。ゴミ箱に何枚も試し描きした紙が
捨ててあったからのう。バレバレじゃわい。
ついでに、お前がこのマークに赤字で『決定!』と
描いてたことも知っておるぞ」
「くっ、マジか……いや、問題はそこじゃねェよ!
なんで、潜水艦にそのマークが描かれてるんだ!」
そう言うと、ヴォルフはにやりと笑った。
「海賊の乗る船に、マークがなければ
恰好がつかんじゃろう?」
「……は?」
「ロー、アメリ、ベポ、シャチ、ペンギン。
この船を、もらってくれ。そもそもこいつは、
ワシが『いつか』また冒険に出る時のために造り、
整備していたもんじゃ。だから、
お前たちに連れていってほしいんじゃよ。
ワシが果たせなかった夢の欠片を、
お前たちの冒険に付き合わせてやってほしいんじゃ」
「……いいのか?」
「ふんっ!木造の船で海に出て、あっさりおぼれ死んだ
なんて話を聞いたらワシも寝覚めが悪いからなっ!
まあ……単なる気まぐれ、ってやつじゃ」
ヴォルフの優しさに私は思わず涙ぐんだ。
皆んなも同じ気持ちだったと思う。
本当に私たちはこの人に拾われて良かったと思った。
世の中悪い人達だけじゃない事を教えてくれた。
感謝しても仕切れないこの気持ちを
どう消化させればいいか分からなかった。
「仕方ないな。
老い先短いじいさんの頼みごとじゃあ、断れねェ」
「ふん。ワシはあと五十年は生きてみせるわい!
せいぜいお前たちは、その前に海で
魚のエサにならないよう気張るんじゃなっ!!」
ヴォルフはカッカッカと笑う。
シャチもベポもペンギンも、
目をきらきらと輝かせながら潜水艦に見入っている。
「まあ、この天才発明家の最高傑作を託すんじゃ。
お前たちにはこの花マル無敵号を操って
立派な海賊になる義務が……」
「よし、この船の名前はポーラータング号だ!」
ヴォルフの台詞へかぶせるようにして、
ローは思いついた名前を言った。
ダサいネーミングは即却下された。
「カッケェ!」「すげェ!」「イケてる!」
「貴様らあああっ!ワシの花マル無敵号を
そんなチャラついた名前に……
はあ……もうなんでもいいわ。
お前たちの船じゃ、好きにせい。ふん……
ポーラータング、か。ガキんちょが考えた割には、
まあまあのセンスかもしれんな……」
あきれたような、けれどどこか嬉しそうな表情を、
ヴォルフは浮かべていた。
「使わせてもらうぜ、ガラクタ屋」
「ああ、この天才の偉大さを、世に見せつけてこい」
そう言って、おれたちは全員で拳を合わせた。
私たちは明日出航する。この船で。
ヴォルフが手掛けた最高の船で。
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>退院して帰ってきたその日の夜
ローはベポ達にも海賊になる事を伝えた。
ベポ達も何となく気付いていたらしく
驚く事なく冷静に受け止めていた。
そしてベポ達も海賊になる決断をして、
私たち全員ここから出て行く事が決まると
ヴォルフに報告をしてヴォルフは小さく
「そうか、」と言うだけだった。
それから一週間私たちはいつも通りの生活に戻り、
朝起きて全員で食卓を囲み、ヴォルフは研究所へ向かい、
私たちは町に行き、職場の人に事情を説明してから、
これまでの恩を返すつもりで、全力で働く。
そうして夜になったら家に戻り、
また馬鹿騒ぎをして、疲れたら寝る。
誰もそのあいだ、海賊の話題は出さなかった。
出航に使う木造の安い船を、町で買ったくらいだった。
あっという間に出航日の前日になり、
私たちはヴォルフに研究所へ呼び出された。
町での仕事を終わらせ、お世話になった人たちに
最後のあいさつをしてから、研究所へと向かう。
「おう、来たか」
「なんだよ、こんなとこに呼び出して。
はっ!……てめェ、まさか海に出る前に、
俺たちに妙な実験をしようとしてるんじゃ……」
「あほう!どんなマッドサイエンティストじゃワシはっ!!
ええい、くだらないことを言っていないで、
ちょっとついてこい!」
ヴォルフと一緒に階段を下り、洞窟に出る。
灯りを点けると、そこには前と同じように、
黄色い潜水艦が浮かんでいた。
大地をぶち抜いて神殿に突っこんだ割に、
船体はきれいなものだった。でも前と違う部分があった。
ひとつだけ大きく見た目が変わっていることに気づいた。
船の胴体部分に、大きなドクロのマーク
海賊であることを示すマークが堂々と描かれている。
「なっ……!」
思わず、ローが驚きで声が漏れた。
「ガラクタ屋、どういうことだ!」
「お前、夜中に食卓で海賊旗に描くマークを
考えていたじゃろう」
「ど、どうしてそれを……」
「ふん。ゴミ箱に何枚も試し描きした紙が
捨ててあったからのう。バレバレじゃわい。
ついでに、お前がこのマークに赤字で『決定!』と
描いてたことも知っておるぞ」
「くっ、マジか……いや、問題はそこじゃねェよ!
なんで、潜水艦にそのマークが描かれてるんだ!」
そう言うと、ヴォルフはにやりと笑った。
「海賊の乗る船に、マークがなければ
恰好がつかんじゃろう?」
「……は?」
「ロー、アメリ、ベポ、シャチ、ペンギン。
この船を、もらってくれ。そもそもこいつは、
ワシが『いつか』また冒険に出る時のために造り、
整備していたもんじゃ。だから、
お前たちに連れていってほしいんじゃよ。
ワシが果たせなかった夢の欠片を、
お前たちの冒険に付き合わせてやってほしいんじゃ」
「……いいのか?」
「ふんっ!木造の船で海に出て、あっさりおぼれ死んだ
なんて話を聞いたらワシも寝覚めが悪いからなっ!
まあ……単なる気まぐれ、ってやつじゃ」
ヴォルフの優しさに私は思わず涙ぐんだ。
皆んなも同じ気持ちだったと思う。
本当に私たちはこの人に拾われて良かったと思った。
世の中悪い人達だけじゃない事を教えてくれた。
感謝しても仕切れないこの気持ちを
どう消化させればいいか分からなかった。
「仕方ないな。
老い先短いじいさんの頼みごとじゃあ、断れねェ」
「ふん。ワシはあと五十年は生きてみせるわい!
せいぜいお前たちは、その前に海で
魚のエサにならないよう気張るんじゃなっ!!」
ヴォルフはカッカッカと笑う。
シャチもベポもペンギンも、
目をきらきらと輝かせながら潜水艦に見入っている。
「まあ、この天才発明家の最高傑作を託すんじゃ。
お前たちにはこの花マル無敵号を操って
立派な海賊になる義務が……」
「よし、この船の名前はポーラータング号だ!」
ヴォルフの台詞へかぶせるようにして、
ローは思いついた名前を言った。
ダサいネーミングは即却下された。
「カッケェ!」「すげェ!」「イケてる!」
「貴様らあああっ!ワシの花マル無敵号を
そんなチャラついた名前に……
はあ……もうなんでもいいわ。
お前たちの船じゃ、好きにせい。ふん……
ポーラータング、か。ガキんちょが考えた割には、
まあまあのセンスかもしれんな……」
あきれたような、けれどどこか嬉しそうな表情を、
ヴォルフは浮かべていた。
「使わせてもらうぜ、ガラクタ屋」
「ああ、この天才の偉大さを、世に見せつけてこい」
そう言って、おれたちは全員で拳を合わせた。
私たちは明日出航する。この船で。
ヴォルフが手掛けた最高の船で。
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