変化









今日は参番隊隊長の任命式だった。

マイキーはドラケンとタケミっちと銭湯寄って
他の隊長達と武蔵神社に向かうからと
今日は瀬里奈を連れて行かず
瀬里奈は自分の家のベランダで煙草を吸ってた。

もう秋も深まって来て肌寒くて
ロンTの上にオーバーサイズのパーカーを羽織って
ぼんやりと外を眺めていると
バブーっとマイキーのCB250T(バブ)の音がした。

瀬里奈は灰皿に煙草を押し付けて
玄関に行って家を出ようとすると
カンカンカンと軽い鉄筋の階段を上がる音がして
ドアを開けたらちょうどマイキーが来ていた。
然し雰囲気がいつもと違っていた。



「……なんかあった?マイキー」

「場地が東卍を抜けた。」



マイキーの口から場地の事を聞くと
瀬里奈はピタリと動きが止まった。



「辞めて芭流覇羅に行くって。」

「……マイキーの事 裏切ったの?」

「………」



マイキーは黙って何も言い返さなかった。



「寒いから取り敢えず入る?」

「うん」



瀬里奈はマイキーを家の中に入れて
ベランダの窓も閉めに先に奥へ行った。

自分がいつもマイキーの部屋に泊まるから
マイキーがこの部屋に来るのは数回しかない。
瀬里奈自身もこの家は本当は好きじゃない。
母親とも暮らして捨てられて父親に殴られ続けた部屋だ。

ローテーブルがあり、敷きっぱなしの布団があり
狭い6畳の和室で煙草と畳と少しカビの匂い。



「座る?」



瀬里奈がそう言うとマイキーは
ローテーブルの前の座布団に座った。
瀬里奈も斜め前に座って
ずっと考え事をしているような
マイキーの表情を見ていた。



「タケミっちが稀咲を殴ったんだ。」

「タケミっちが?」

「そこに場地が横から出てきてタケミっちを殴って
そのまま東卍を辞めて芭流覇羅に行くって…」

「…マイキーはどうするの?」

「タケミっちに頼んだ。
場地を連れ戻して欲しいって。
俺やっぱアイツの事が好きだから
出て行って欲しくないんだ。」



マイキーは少し寂しそうな顔をして笑っていた。



「……そっか。」

「ごめんな」

「なんで謝るの?」

「だってお前ずっと…」

「マイキーが決めた事なら何も言わないよ」



瀬里奈はマイキーが言おうとしていた事を止めた。



「…マイキーが場地を大切なように
場地はアイツが大切なんだね。」

「……」

「………ごめん。やっぱ出てくる言葉が矛盾する…
アタシ、まだアイツの事殺したいんだ。」



そう言って笑う瀬里奈に
マイキーの表情は変わらず
自分もその気持ちを持っていて
それを場地が諭してセーブしていたから
それが無くなった時 少し怖かった。



「……場地とはこっちでかたつける。
だから前みたいに瀬里奈は出てくるな。」

「うん…分かった。」



瀬里奈はそう言ってマイキーと約束した。














ーーーーーー…*°




次の日 瀬里奈は高校の屋上で煙草を吸って
意外と自然だったり住宅街や団地がある世田谷を見渡す。

"心が追いつかない"

それが正しいのか。
マイキーを裏切った場地にイラついているのか
それともアイツが出てきてイラついてるのか
両方の方が等しかったりする。

でも東卍と芭流覇羅の問題だから
瀬里奈は自分は何もする事は出来ない。



「……寒くなってきたな…」



もう直ぐ11月になる。
カーディガンだけでも肌寒くなってきて
袖を伸ばして出来る限り指先を温める。
さっき買ったカフェオレもすっかり冷めた。

授業はダルいけど暖房の効いた教室で
ぬくぬくと寝るほうがいいと思って
煙草の火を消して携帯灰皿にしまった。

そして屋上の出口に足を進めると、

ガチャ、

扉が開いて一番会いたくない人が出てきた。



「……何の用?」



首筋に虎のタトゥーに黒髪に金のメッシュで
顔に前髪がかかって少しだけ見える
整った甘い憎たらしい顔にリンと鳴る鈴のピアス。
羽宮一虎。瀬里奈が会ってはいけない人だった。
どうしても、どうしても、殺したくなっちゃうから。



「藤井瀬里奈だな?」



名前を聞かれて瀬里奈は思い出した。
そうだった。自分はマイキーのモノになるまでは
マイキーと場地しか東京卍會と関わらなかった。
それからドラケンや三ツ谷・パーとも会ったんだった。

だから羽宮一虎は瀬里奈を知らない。
誰のモノになるはずだったか知らない。
ただ今マイキーの女だという情報しか知らない。
自分が一方的に知っていて
一方的に殺意を持っていたんだった。
それほど腹正しい事は無かった。



「そうだけど。」

「ちょっと来て欲しいとこがあるんだよね」

「……どこのチームの人?」

「芭流覇羅だよ 俺は羽宮一虎。」

「ごめん。マイキーから関わるなって言われてるんだ。」



殺意しか無い自分を抑え込むのは億劫だ。
早く穏便に目の前から消えて欲しいのに
一虎は一歩も引かず寧ろ近づいて来る。
そして屋上の入り口からMA-1を着た男が2人。
穏便には終われそうに無かった。



「…知らないからね。」



"死んでも"



瀬里奈はそう言って一虎と男2人について行き
渋谷公園通りから外れた路地の潰れたゲームセンター。
芭流覇羅のトレードマークである頭の無い天使の絵に
中に入ると同じMA-1を着た男達が屯っていて
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべて
一虎について行き奥へ進む瀬里奈を見ていた。
そして奥にはこの間マイキーと喧嘩していた半間がいた。



「お前がマイキーの女?」

「東卍とやり合う前に女潰す気?」

「メンツはまだ揃ってねェから
まぁ此処で少し寛いでろよ。」



半間はそう言って煙草に火を付けて吸い始め、
一虎はまた誰かを連れて来るのか
ゲームセンターの外へと出て行った。

瀬里奈は仕方ないからポケットから煙草を取り出し
ライターで火をつけると周りが少しどよめいた。



「ヒャハ♡お前この状況で普通吸う?」

「ごめん。アタシ普通じゃないんだ。
可愛げなくて申し訳ないけど。」

「いや、楽で良いわ♪」



瀬里奈は勝手に自由に歩き出して
ゲーセンの椅子に座ってリラックスしていた。
半間は面白いとだけ思っているが
他の奴らは明らかに動揺している。

肝が座ってるとかそういうもんじゃない。
敵地に連れてこられてこんな落ち着いてる奴がいるかと
瀬里奈に対して怖いという印象を持つ者もいた。
これが無敵のマイキーの女だと思った。



「連れてきたよ。半間クン………瀬里奈…」

「!、瀬里奈さん!(汗)」

「場地…千冬…」



瀬里奈が来て少しすると場地と千冬が来て
裏切ったのは場地だけだと聞いていたけど
副隊長も一緒なのかと瀬里奈は思った。



「瀬里奈、なんでテメェが…」

「俺が連れてきた。お前を試す為だ場地。」

「……」

「先ずは腹心である一番隊の副隊長を今此処で殴れ」

「場地さん…!(汗)」

「悪りぃな 千冬」



場地はそう言って千冬を殴り飛ばして
千冬は芭流覇羅が囲む中心で倒れる。

瀬里奈は煙草を吸うのをやめて立ち上がり
冷たくその様子を見ていた。

場地は長い髪を束ねて馬乗りになり
千冬の顔を殴り続けていた。

もう何発も殴り続けて
千冬はグッタリとただ殴られ続けて
その間に一虎が戻って来ると



「え……」



タケミっちが一虎に連れてこられていた。

場地が東卍の特服を来た人を殴っている。
その状況だけでなく、
見覚えのある白髪に目を向けてさらに驚く。



「瀬里奈さん!?(汗)」

「タケミっち…」

「一虎くん……何やってんスかこれ…(汗)」

「何って…踏み絵だよ」

「踏み絵」

「場地の"信仰"を試してんだよ。
東卍から芭流覇羅に"宗旨替え"するなら
それなりの覚悟が必要だろ。
今 場地が殴ってんのは東卍の一番隊副隊長 場地の腹心だ。」

「壱番隊の副隊長!?(汗)」

「東卍は芭流覇羅の敵。
"神"(マイキー)を裏切るなら
信じる"絵"を踏まねえとなぁ」

「(元々自分についてきてくれた人を半殺しに…(汗))」

「どうよ?これで認めるだろ?
半間クン。俺の芭流覇羅入り。」

「…一虎あ!」

「ハーイ」

「用意出来た?」

「うん。こいつが、」

「え?(汗)」

「花垣タケミチ。東卍の新メンバー。」



次の踏み絵は自分かと
タケミチは大きく唾を飲み込んだ。