名残り









瀬里奈は昼休みに同級生達と屋上にいた。

学校にも関わらず煙草を吸っていて
スカート関係無しに胡座をかいて
周りにいる女の子達も髪がベージュ系で明るくて
瀬里奈は比較的薄いが周りの女の子は化粧が濃く
いわゆるギャルの分類で長い爪に携帯をカチカチと
誰かと連絡を取り合っていたりネットを見ていた。



「でさーこの前はタクミが店員にキレ出してさー」

「えーさいあくじゃーん」

「でーその店員ビビって泣きだしてんの(笑)」

「うわカワイソ(笑)」

「でも注文間違えたソイツが悪くない?」



そう言って高い声で笑い合うギャル達を置いて
瀬里奈はポチポチと携帯をいじっていた。



「ねー 瀬里奈聞いてる?」

「愛菜。昨日なんで仕事サボったの?」

「!」ビクッ



瀬里奈は携帯を見ながら少し端にいて
もう一人静かだった愛菜に声を掛けた。



「ね 聞いてんだけど。」

「き、昨日は生理痛重くて…辛くて…だから…(汗)」

「誰のおかげで高校生が
高いクラブで働けてると思ってんの?」

「ごめん…」

「今のとこ辞めて今のペースで
アンタと逃げた男の借金返すとしたら
ソープとかじゃないと返せないけど、」

「ぜ、絶対もう休まない!
だからクビにしないで!(汗)」



愛菜は必死に縋るように瀬里奈に言うと
瀬里奈は携帯を閉じて愛菜を見た。



「……うん。愛菜は、ちゃんとしてくれるよね?」



瀬里奈が優しく言うと愛菜も周りの女の子達も
ビビって何も言えなくなってしまって
逃げるように屋上から出て行ってしまった。

瀬里奈の紹介で夜の店で働く女の子は多い。
自分の学校以外でも他校からでも。
そういう子はお金に困っている子が多くて
その理由がだいたい男だったり家庭環境だったり
瀬里奈は人助けという名目でやっていた。

自分が紹介すればある程度安全で手取りも良い。
唯一といえばしっかり働かなきゃいけない事。
それが出来ないと汚くて安い風俗に飛ばされる。

これは瀬里奈が個人でやっている事だから
マイキーも東卍の人間も誰も知らない。












ーーーーーー…*°





「うん 今日は自分の家帰るから夕飯良いよ。
エマに伝えといて。ありがとうマイキー。」



夕方 瀬里奈が用を済ませて歩いていると
見慣れた三人を見つけて一人は担がれていた。
タケミっちとヒナ そして弐番隊副隊長の八戒という
珍しい組み合わせで何よりタケミっちが怪我をしていた。



「タケミっち?」

「瀬里奈さん!」

「瀬里奈さん…(汗)」



三人が瀬里奈に気付いて八戒が立ち止まると、
瀬里奈から三人へ近づいて来た。



「どうしたの?ヒドい怪我。」

「瀬里奈さん…実は…」



瀬里奈は八戒が歩きながら
タケミっちから事情を全て聞いた。

ボーリング場で八戒とタケミっちが仲良くなり、
家に招かれたのだが運悪く黒龍が居て、
黒龍のトップであり八戒の兄の柴 大寿にボコボコにされ、
それを止めるために八戒が東卍を辞めて
黒龍に入るという交渉で話がついたらしい。



「……それで良いの?八戒。」

「……」

「三ツ谷はどうすんの?」

「……(汗)」

「あ、そっか。柚葉以外の女ダメなんだっけ?
アタシ責めてるわけじゃないよ。
ただ 三ツ谷が寂しがるし、
それを見るマイキーも悲しいと思う。」

「瀬里奈さん…」

「八戒は東卍を裏切るような子じゃないって
そう思ってるから心配してるんだよ。」

「……はい…」



瀬里奈はそう言うと八戒は強制フリーズせず
軽く重い返事をして気まずそうな顔をしたまま
タケミっちを家の近くまで送った。













八戒はタケミっちを送った後
ごめんなとだけ言って夕日を歩いて行った。
タケミっちの手当てはヒナに任せて
瀬里奈は自分の家では無く、
いつもの場所に向かって古い扉を開けて入った。



「瀬里奈」



元々真一郎のバイク屋だった廃墟。
中の古いソファでくつろぐのは
黒龍のイヌピーとココだった。



「最近よく来るんだな。」

「うん。ダメ?」

「いや…」



瀬里奈はそう言っていつもの離れた場所に
片膝を立てて座り煙草を取り出し、口に咥えて火をつけた。



「さっきタケミっちと八戒に会ったんだ。」

「タケミっち?」

「あぁ 花垣武道だろ?」

「あれが隊長とはね。どんなトリック使ったんだ?」

「うちの奴でも余裕で勝てるぞ。」

「タケミっちの魅力は喧嘩じゃないから」

「は?」

「八戒 黒龍行くんだってね。」

「ボスの弟なんだ。当然だろ?」

「俺は認めねえけどな。」

「戦力として十分だ。
後はボスがなんとかするだろ。」

「八戒は大寿より良い子だよ。」

「おい。」



瀬里奈がそう言うと忠誠心の高いイヌピーは立ち上がり
スタスタと歩み寄って持っていた刃物を向けた。



「テメェ 調子に乗ってんなよ?
瀬里奈だからと言ってボスを貶す事は許さねェぞ。」



瀬里奈は刃物を向けられても空気は変わらなかった。



「……夏が懐かしいな。
刃物使われたから刺しただけなんだけど、
マイキーに怖い顔で怒られたっけ…」

「何言ってんだテメェ…」

「マイキーはね、優しいの。
アタシがダメな事しても怒るけど殴らないし、
優しく強く抱き締めてくれるの。真一郎みたいに……」

「……」

「ねェ イヌピー あんなのが黒龍の名前使ってて満足?
その前はマイキーに潰されて…
その前だって利用されただけで、」

「ッ…!」バッ



カチッ



「!」

瀬里奈が煽るとイヌピーは刃物では無いが
拳を振り上げて殴りかかろうとすると、
瀬里奈はポケットから取り出したライターを
イヌピーの目の前で付ければピタッと止まり
怯えたような目でライターから目が離せなかった。



「怖いよね?触ると熱いの知ってるよね?
せっかく綺麗な顔なのにね。ねェ どうしたの?」

「はあ…はあ!はあ!(汗)」

「瀬里奈」



イヌピーが発作のように呼吸が浅くなると
ココがライターを持つ瀬里奈の腕を掴んだ。
しっかりと強くて怒りがこもっているが
瀬里奈は涼しい表情でココを見上げた。



「優しいね ココは。」



瀬里奈が火を消すと手が離されて
イヌピーの呼吸が少しずつ落ち着いてきて
ずるずると地面へヘタリの座り込んだ。

それを見た瀬里奈もしゃがんで
イヌピーをふわりと抱き締めて
真一郎の香りがフワッと香った。

すると刃物を落としてイヌピーは
ギュッと瀬里奈の事を抱き締めた。



「ごめんね 意地悪だったね。
もっとアタシの事嫌いになった?」

「瀬里奈… 俺…どうすればいい……?
どうすれば良かったんだよ……」

「イヌピーの気持ちは分かるよ。
だから今まで自由にさせていたんだよ。
でもね、分かってるでしょ?
代わりに誰を置いても誰もなれないの。
だから黒龍はマイキーのモノにした方がいいの。」



そう言うと瀬里奈は少し距離を空けてイヌピーを見つめると
綺麗な顔が泣きそうな顔をしていて
その顔が愛おしくて瀬里奈はにっこりと優しい表情をするが、










「イヌピーがもう頑張らなくても良いんだよ?」








その瞳の黒は深くて濃くて冷たかった。













「……黒龍も東卍に潰されるのか?」

「どうだろ?仲良くなるかもよ?」

「……」



瀬里奈は何か知ってるのか企んでいるのか
どちらにせよイヌピーはそれ以上追求はしなかった。
そして自分は立ち上がって瀬里奈から離れる。



「イヌピー、次からは刃物向ける相手には気を付けてね。
アタシに何かあったらココに迷惑かかるから。」



ブー!ブー!!



「「!(汗)」」

瀬里奈が言った瞬間
ココの携帯が鳴ってタイミングに二人は驚く。



「ほら、良かったね。お金が溜まるよ。」



そう言ういつも優しい声ほど、
怖いと思わせるものは無かった。