恋人









瀬里奈は煙草を吸いながらマイキーの部屋で待っていると
GSX400FS(インパルス)の音が聴こえて
三ツ谷のバイクだと直ぐに分かった。

少し間が空いてまた走り去る音がすると、



「瀬里奈」



マイキーが帰って来た。



「三ツ谷に送ってもらったんだね マイキー」

「うん。瀬里奈もGSX400FS(インパルス)分かるんだ。」

「ZEPHYR(ゼファー)も分かるよ。
でもCB250T(バブ)が一番耳に残ってる。」

「当たり前だろ。」



マイキーはそう言うと瀬里奈の隣に座って
しっかりと肩に寄り掛かって身を預ける。



「三ツ谷のとこの八戒がさ、東卍抜けて黒龍に入る。
兄貴が黒龍の頭なんだって。」

「…そっか。」

「それで三ツ谷が兄貴の大寿君に話をつけてきて、
利用してる柚葉を解放する条件で八戒を黒龍に渡した。」

「…うん。」

「俺は八戒が抜けようがどっちでも良い。
黒龍とモメて三ツ谷がいなくなったらと思うと怖い。
もう誰もいなくなってほしくないから…」



そう言って縮こまるマイキーの姿は
とても東卍の総長とは思えない姿で
弱々しくて愛おしかった。

すると瀬里奈は煙草を灰皿に押し付けて
前のめりになった拍子にマイキーが身体を起こすが
瀬里奈がまたソファに寄り掛かって
真っ直ぐ向いた状態でふと、思いついた事を言った。



「…イブは、二人でデートしよっか?」

「え?」

「ツーリング以外出掛ける事無いでしょ?
だから今年は恋人らしい事しよ。」



急に彼女らしい事を言い出したから
マイキーはキョトンとした顔をしていた。



「イブはイルミネーション見に行こ。」

「瀬里奈…」

「クリスマスはアタシはエマといつものトコ行くから、
マイキーはどうしよっか?…そうだ。
ドラケンと走りに行きなよ。
暖かくしてさ、お守り持ってバブで走って、
三ツ谷も誘って 皆んなで行ったらきっと寂しくない、よ」



瀬里奈が話してる途中でマイキーは押し倒して
そのまま流れるように噛み付くようなキスをした。



「…そうする。」



見下ろすマイキーの表情は、
晴れたように穏やかになっていた。



「イブ楽しみだね。」

「うん。」



瀬里奈がマイキーの頬に手を添えて優しく言うと
マイキーは返事をしてまたキスをして
二人はベッドに移動してそのまま求め合った。

マイキーの身体は体温が低くて
瀬里奈は暖めるように優しく抱き締めて包み込む。
二人の吐息が混ざり合って、体温が移って
熱くなるほど愛し合った。



「瀬里奈」

「ん?」

「ありがとう。俺、瀬里奈が居てくれて良かった。」

「うん アタシもだよ。」



マイキーはその日お気に入りのブランケットではなく、
瀬里奈を離さず胸の中に包み込み深く眠れた。














ーーーーーー…*°




そしてイブの日、
各々が大切な人と過ごしたり
一人でゆっくり家で過ごしてたり
大切なモノの為に戦う準備をしたり、

大切な人の為に別れを告げる人がいた。











          "別れよう ヒナ"













「見て マイキー。蒼くて綺麗。」

「うん。」



瀬里奈とマイキーは渋谷にあるイルミネーションを見ていた。

前にエマに勧められて買ったミニスカートを
雪で生足が冷たくても我慢して履いて
黒いショートブーツを履いて
白いニットに黒いダウンを着て
いつもよりラメを多めにキラキラしたアイメイクにして
長い睫毛がくるりと上を向いて
瞳にはイルミネーションの青色が映っていた。

珍しく夢中になっている瀬里奈を見て
マイキーの表情は穏やかなようで
少し静かで瀬里奈はそれに気付いて歩み寄った。



「マイキー 寒い?それか眠い?」

「なんで?」

「違うこと考えてる。」

「……」



瀬里奈の真っ直ぐな目と合うとマイキーは
視線が落ちて青が反射した瞳が深い黒になる。



「瀬里奈 俺今幸せだと思った…」

「うん。」

「でもこの時間がいつか無くなりそうで怖い。
幸せだと感じると怖くなる。」

「……せっかく綺麗なのに。」



瀬里奈はそう言ってイルミネーションを見上げる。

木に巻きついて光る青色に
周りにいるカップルは幸せそうに二人で見て
身体を寄せ合って写真を撮ったり
楽しそうに会話をしていたり、
同じカップルなのに瀬里奈とマイキーは違った。



「………アタシは隣にいるよ?」



振り返って瀬里奈がそう言うとマイキーは顔を上げた。
そして瀬里奈を見るといつもの穏やかな表情で、
鼻が少し赤くて寒いのかと思うくらいの変化で、
昔から変わらなく、瀬里奈はいつもどんな時でも
その人形の様な整った顔が崩れる事はなかった。

白髪にも青色が反射して溶け込むような
幻想的に近いその姿に、マイキーを余計に不安にさせた。



「マイキーが側にいさせてくれるなら。」



まるで自分がいつか手放すかのような言い方に
マイキーは瀬里奈の考えが分からなくなる。



「瀬里奈 何でいつも俺が手放すような言い方すんの?」

「……アタシがマイキーのモノでいるのは
アタシの我が儘だったから。」

「俺はお前を手放さないよ。」

「うん。」

「お前が例え別の男を好きになったとしても
ソイツを俺は殺す。もしも、俺の事嫌になって
逃げたくなっても、俺はお前の事絶対に逃がさねえし、
それでも消えるとしたら、俺はお前の事も殺すと思う。」

「…殺して良いよ。」



とてもイブに過ごすカップルとは思えない会話だが、
殺意さえも愛情と感じる瀬里奈はおかしかった。



「俺がお前の事 嫌になる事も絶対にない。
それくらいお前の事大切なんだ。」

「………マイキーは優しいね。」



少し考えた後 瀬里奈が小さな声で漏らした言葉

その時俯いて前髪が目にかかってたから
よく見えなかったけど、空気がいつもより
寂しそうに感じたのは気のせいでは無かったんだろうと
マイキーは後から思い出した。



「寒くなって来たし、そろそろ帰ろっか?
甘いケーキ買って家でココア飲も。」



パッと顔を上げた瀬里奈の表情は、いつもと同じだった。

そして歩み寄ってマイキーの手を取ると
ヒンヤリと冷たくて瀬里奈は愛しい赤子を見るような
優しい目でマイキーを見つめて冷たい手を両手で包み込んだ。



「マイキーがアタシを殺したくなったら、
その時は殺していいからね。
アタシにとってマイキーは全部だから。」



この愛がどんなものであろうと、
二人が二人でいる確かなものはこの温もりにあった。


















「遅れてゴメン!」



渋谷の喫茶店でタケミっちは待ち合わせに合流した。



「テメェよぉー 決戦前夜だぞ?タルみすぎじゃね?」

「つかタケミっち…どうしたそのカオ(汗)」

「へ?」



ヒナに別れを告げたタケミっちは
たくさん泣いたせいで目がガッツリ腫れているのと
顔を殴られて赤くなった頬に鼻水の跡の赤鼻。
髪のセットもぐしゃぐしゃな状態だった。

そして喫茶店で待ち合わせたメンバーは
千冬と稀咲と半間という、
決して混じり合わない4人で
明日 八戒を黒龍から連れ戻す計画をしていた。



「決行の場所は渋谷にある宇多川キリスト協会。
都合のいい事に大寿は人のいない深夜に礼拝堂に行く。
八戒が大寿を襲うならゼッテェ此処しかねェ。
俺らは礼拝堂の前で大寿を待ち構える。
八戒は先に教会の中にいるはず。タケミっちが説得しろ!」

「!」

「アイツ(八戒)を止めるのは
仲のいいお前が一番の適役だろ?
そして八戒と大寿が鉢合わす前に
外で俺ら3人が大寿を叩く!」

「……」

「まーとにかく明日の対黒龍 隠密作戦はほぼ決まった。
何があったか知らねェけど、その鬱憤
明日全部ぶつけてやれ!」



千冬はそう言ってタケミっちに言うと
タケミっちの気合いが入り目の色が変わった。

別れを告げた理由は自分が不良であるから
それに巻き込まれないように選んだ事だった。
未来でもイブにタケミっちは別れを告げていた。
それでも別れが正しいモノだと
ヒナの父親と話して将来死ぬと分かっているから
この人たちが悲しむ未来が待っているから
それから切り離そうとタケミっちは選んだ。

大寿を死なせなければ未来は変わる。
然し、その選択は今のヒナは知らない事で
イブの度に思い出す酷く辛い事だった。