失う









「瀬里奈」

「マイキー。制服学ランなんだね。」

「うん。また煙草吸ってると真一郎に怒られるぞ。」

「飴あげるからナイショね」

「しょーがねーな」



初めから飴を貰う気で来てたのだろう。
マイキーはチュッパチャプスを受け取ると
直ぐに包装紙をとって口に入れた。



「またラムネ?俺コーラが良い」

「自分で買えよ」



マイキーとは真一郎の家に寝泊まりした日
部屋を訪れてバレて真一郎が女を連れ込んでるって
街中に言いふらして真一郎が追い掛けてた記憶が新しい。
本当は佐野万次郎ってガッツリ和性なんだけど
一つ下に佐野エマっていう妹がいて
その子に合わせてマイキーって名乗るようにした
妹思いの優しい家族だった。

正直真一郎の家が羨ましいって思った事もある。
でも自分の生まれを妬んだところで
その家に生まれたから自分が在るべきなんだと
別の裕福な家だったら自分が自分じゃなくなって
真一郎とも出会ってないと思うと
今この場にいる事が良かったと思うようになった。

そういう風に考えられるのも
真一郎のおかげだと思う。



「というか何の用?
学校サボると真一郎に怒られるよ」

「お前もだろ。」

「良いんだよ。根が頭いいから。」



お気に入りの河川敷で煙草を吸ってたら
原付にマイキーが乗ってきてアタシの隣に座った。
真一郎は身長高いのにマイキーはまだアタシと
そんなに変わらなくて小学生の名残がある。

目付きは一丁前に高校生もビビらす程気迫があって
そのまま喧嘩も強い所も真一郎と似ていなかった。
でも真一郎とは違った人を惹きつける魅力っていうのは
マイキーを囲むドラケンとか場地とか見て分かる。



「チーム(暴走族)創るんだ。」

「チーム?ふーん…」

「一虎が黒龍とモメてんだ。
仲間が一人で戦ってて見捨てるわけがねえ。
やるんだったら大義名分が欲しい。
そこで場地が提案してチームを創る事にした。」

「良いの?黒龍壊して。」

「真一郎にも言ってある。好きにしていいって。
それにもうあそこは真一郎が残したチームじゃない。」



黒龍は真一郎が創ったチーム(暴走族)だった。
総長だった真一郎は皆んなに憧れていて
バイク屋に通う大人達は黒龍のOBだ。
その頃の真一郎を見てみたかったと思うほど
話を聞けば聞くほどカッコ良かった。

でも今の黒龍はクソだ。

犯罪や詐欺、強姦、賭博
親父の組がやっているような事を
1つ2つ上の世代が平気でやっている。
真一郎が創ったものを汚した奴らを
マイキーがぶっ倒すならアタシも賛成だ。



「真一郎が良いって言うなら良いんじゃない?
チーム名決めたの?」

「東京万次郎會!」

「ダッサ」

「ぁ"あ"!?(怒)」

「絶対アタシ個人の意見じゃ無いと思う」

「……そんな事ねえし(怒)」

「……(ゼッテーダサいって言われたな)」



マイキーの不貞腐れを見て直ぐに分かった。



「東京卍會は?」

「まんじ?」

「卍。家紋とかでも使われる字で
太陽の象徴とも言われるし仏教だと幸福って意味もあって
割と便利な漢字。万次郎じゃまんまだから卍。
人を惹きつけるマイキーにピッタリじゃん?」



アタシはそう言って携帯に卍を打って見せると
マイキーは結構食い付いて字をしっかり見ていた。



「カッケェ。これにする。」

「お?採用?じゃあアタシが名付け親だな。」

「場地が創って名付けは瀬里奈か。なんか良いな。」

「その先をマイキーが創るんでしょ?」



アタシがそういうとマイキーは嬉しそうな顔をしていた。

これが東京卍會の始まりであり、
アタシとマイキーの始まりでもあった。

















ーーーーーー…*°




東京卍會によって黒龍は解体された。
昔アタシを泊めて処女を奪った奴も
そいつの紹介からアタシを泊めて性欲を満たした奴も
皆んなマイキー達に倒された。

泊めてくれた事には感謝しているよ。
でもいい気味。あれからしつこく声を掛けた奴もいたから。

あと2年したらアタシは真一郎のモノになる。
身体も心も全て真一郎のモノに。
それまであと少し、この夏を過ぎて
次の夏さらに次の夏にはアタシは真一郎の隣にいる。

その日が来た時アタシはやっと幸せを手に入れられる。
この贅沢な幸せを手に入れられる。
そう思ってた。なのに、

アタシには幸せになる権利は無いらしい。










真一郎の部屋で眠っていたら
複数台のパトカーの音が煩くて目が覚めた。
事件があったのか近所も騒がしくて
一度深く眠った重たい瞼を擦って身体を起こし
嫌な予感がして駆け足で開けた場所に出ると
騒ぎで向かう人の流れのまま向かった。
その先は真一郎のバイク屋だった。
そして人混みの最前列にマイキーが既にいた。



「マイキー!」

「瀬里奈…これ…」



店の前には大勢の警察がいて
黄色いテープで遮られていて
店から出てきたのは黒い服を着て
フードを被った少年と、場地だった。



「場地!!」



マイキーが場地の名前を呼ぶと振り向いて
こっちを見ると涙が一気に溢れ出していた。



「どうした!?」

「ごめんっ」



……おい 待てよ。謝罪とかより状況言えよ。
真一郎の店からなんで深夜にいたんだよ。
なんで警察に捕まってんだよ。
そこで何をしてたんだテメーらは。



「負傷者一名!!」

「ヒドイ出血だ!早く救急車を!」











ねえ。

アタシからこれ以上奪えるモノある?












真一郎。

結局抱き締めてくれたのは
初めて会った日が最初で最後だったね。












「マイキー…」

「……」

「アイツら殺して良いよね?」



アタシの中の何かが壊れて
殺意しか湧かなかった。

真一郎はCB250Tを奪おうとして乗り込んだ
場地と一虎によって殺された。
犯行は一虎の計画で殺したのも一虎。
共犯だけど共犯させられた理由で
少年院行きは一虎だけだった。

少年院で2年。甘過ぎんだろ。
被害者による死刑執行すべきだ。
アタシは戻ってきた場地を本気で殺そうと
真一郎を殺したみたいに鈍器で殴ろうとした。
けど、マイキーはそれを止めた。



「……なんで止めんの?」

「場地は、俺の幼馴染なんだ。」



鈍器を握るアタシの腕をしっかり掴んで
マイキーの表情は暗くて
自分も腹立ってるくせに大人ぶって
そんなマイキーにもムカついたけど、
アタシよりもマイキーの方が真一郎との時間は長くて
尊かった事を知っているから
アタシは鈍器を手から離すしかなかった。



「……許すの?場地を。」

「……うん。」

「許すの?一虎を。」

「…一虎は殺す。」

「……」



アタシとマイキーの前で跪いて必死に涙を流しながら
砂利に額を擦り付けて謝る場地を静かに見下ろした。

2年後 アタシは真一郎のモノになるはずだった。

それが奪われたと同時に親父が恐喝・麻薬所持の罪で
警察に捕まって家の中は空っぽになった。
アタシが真一郎の家に泊まる意味が無くなった。

心が追い付かないまま
真一郎は墓に埋葬されて通夜を終えた日。



「マイキー」

「何?」

「アタシ、マイキーのモノになる。」

「……」

「アタシはマイキーだけの味方だよ。」










アタシはマイキーのモノになる事にした。