タイムリープ










病院に着いたときにはエマは死んでいた。



血を流していた頭は縫って
頭と口から流れていた血は綺麗に拭き取られ
蒼白の顔に色づく人工的なピンク色の唇が
不自然に生と死を見分けられた。

綺麗に眠るエマの前にドラケンは立ち尽くして
呆然と頭の中で色々な思いが巡った。

マイキーは安置室の前のベンチに腰掛け
壁に項垂れて呆然としていて
瀬里奈はタケミっちの後ろで立ち尽くす。
イヌピーはエマが亡くなった事を知ると
東卍に状況を伝える為いなくなっていた。

しばらくしてドラケンは安置室から出てきた。



「ドラケン君!!」

「………マイキー……ちょっとツラ貸せ」

「……ドラケン君…」



ドラケンがマイキーを呼ぶと
瀬里奈の横を通り過ぎて行った。
そしてゆっくり立ち上がったマイキーも
タケミっちも慌てて2人について行った。

残された瀬里奈は安置室に入り、
綺麗になったエマを見下ろした。



「……ごめん、エマ…アタシ…
掴んだ手、ちゃんと引けなかった……」



瀬里奈は稀咲がバッドを持って走ってくる瞬間
自分じゃなくエマを狙ってると分かったのに
身体が思うように動かなくて
エマの服を掴んで引くのにピクリと固まった。
その時の体は自分じゃなかったかのように
反射的に自分が望んだものは気持ちと違っていた。



「マイキーにはエマが必要なのに…
アタシが死ぬべきなのに…違うのに……
それでもアタシはマイキーと離れたくなかった……
アタシだけのマイキーを望んでた…」



だからエマの腕を引けなかった。

誰もいない静かな安置室の中で
瀬里奈は最後に掴んだ服の感触が忘れられなかった。

これだけ喪失感で溢れているのに
喪失した哀しみが溢れる事はなかった。
でもそれはエマに限らず
真一郎が死んだ時も瀬里奈に涙は零れなかった。



ただ空っぽになった浮遊感。

空虚に映る世界に浮かぶ自分。

自分がこの世界で生きてる感覚なんて分からなかった。



「そうだ……だからアタシにはマイキーが必要だったんだ…」



自分が此処にいるって分かるように
瀬里奈はマイキーにしがみつくしかなかった。

















「何が起きた?」



病院の外でドラケンは俯くマイキーに聞いた。

然し、返事はなく静かなままこマイキーに
ドラケンは近付いてマイキーを殴った。



「……お前がいてなんでこうなる?」

「……」

「オイ…マイキー 何やってんだよテメェはよおぉぉ!」



怒り全身に力が入り、絞り出すように吐き出した言葉。
ドラケンの様子にタケミっちは焦った。



「オレのせいです!!オレが一番近くにいたのに
守れなかったんです!!マイキー君のせいじゃない!!
オレのせいなんです!!だからドラケン君!!
責めるならオレなんです!!
マイキー君を殴るのは筋違いっスよ!!」



ゴッ



「みんなを守る為に東卍創ったんじゃねェのかよ!!?」



ドラケンは再び強くマイキーを殴った。
それを見てタケミっちはドラケンにしがみついて
止めようとするが、



「パーちん捕まったじゃねェかよっ!!?」

「!?、なに言ってんスかドラケン君!?」

「場地は死んじまった!!一虎も逮捕された!!」

「マイキー君!!!」

「どけ!!」



ドラケンは肘でタケミっちを引き剥がす。



「エマまでっ!!エマまで……っ」



ドラケンは殴るのを止めると
エマが死んだ事を実感して涙が溢れる。
そんなドラケンにタケミっちは声を掛けるが、
かける言葉があまりにも辛い事だった。

大切な人を失った事実は、変えられない。
受け入れるしかない。
前に進むにはそうするしかない。

だけど、タケミっちは受け入れられない。
それで何度も過去に戻って変えようとしてきた。
受け入れたくないから何度も何度も。
今度こそ今度こそと覚悟を決めて。

たった一人の死も受け入れられないのに
大切な人の三人の死を受け入れるなんて
到底出来るわけがなかった。












ーーーーーー…*°



「瀬里奈さん…!エマちゃんは…!!」

「……」



慌てて駆け寄ったヒナに瀬里奈は目線だけ部屋に向けて
ヒナはエマが眠る安置室に入った。

震えた声でエマの名前を呼んでいて
瀬里奈はそこから離れる。

するとマイキー達が戻ってきた。
マイキーはドラケンに殴られたのか
ボロボロの状態で戻ってきて
安置室の近くのベンチでまた腰掛けた。



「タケミっち…ヒナ来てるよ。」

「は、はい……」



タケミっちに声を掛け歩み寄ると、
マイキーの前にタケミっちが立った。



「……マイキー君、こんな時にこんな話…
不謹慎かもしれないですけど、
今日は天竺との決戦です。……皆んな…
マイキー君の号令がないと動けません」

「……」

「………、……マイキー君、
エマちゃんを…殺したのは…、……、……稀咲です!」

「……」

「アイツの事だから、悪知恵、働かせて
絶ッ対ェ捕まりません。
マイキー君…オレは一人でも天竺とやります!」



マイキーはずっと返事もせず顔も上げず
ただずっと床を見つめているだけだった。
タケミっちは返事を待つ事なくその場から離れた。



「……」



瀬里奈は分からなかった。
彼が何故あそこまで進み続けるのか。
喧嘩弱いくせに勝算なんかないくせに
自分がボロボロになるの分かってるのに
どうして立つのか分からなかった。

自分はジッと動かず俯くマイキーを
今は抱き締めてあげる事が出来ないのに。












「………ヒナ?」



少しするとエマに会いにきたヒナが
涙を流した痕を残して瀬里奈達の元に来た。
そして何故かマイキーの前に立った。



「あの…少し…話してもいいですか?」



左手は自分を支えるように右手を掴み、
震える右手はギュッと強く拳を握った。



「タケミチ君は…エマちゃんを救えたはずだと思ってます」

「……?」

「!!、おい!!テメェ!
今そんな話すんじゃねえよ!正気か!!?(汗)」

「ッ!」ビクッ

「………おかしいだろ?
タケミっちもヒナちゃんまで………
こんな日になに言ってんだよ?
もう…ソッとしておいてくれ…」

「…エマちゃんだけじゃない。
タケミチ君は掬わなきゃって思ってる人が沢山いる。」

「!、だから何を…」

「私 死ぬんです。」

「!!?」

「……」

「12年後死ぬんです。
タケミチ君はそれを止める為に未来から来たんです。
ウソみたいな話ですよね……でも、本当です…
彼…必死だから……皆んなの未来を知ってる。
皆んなを助けたいと思ってる。
なのに、私は、彼の為に…何も出来ない……」



涙を流すヒナを見てウソじゃないって分かった。
エマが倒れた時に聞こえた"過去"って言葉と、
今までのタケミっちの行動が目に浮かんで
本当に未来を変える為に今に来たのが分かった。
あり得ない話なのに腑に落ちた。



「ケンチン…行こう……」

「!」

「マイキー…」

「ヒナちゃんと瀬里奈も。オレらがいるから大丈夫。
行こうタケミっちのとこに。」



瀬里奈はCB250T(バブ)の後ろに乗り、
ヒナはドラケンのゼファーの背後に乗って
天竺と東卍がやり合っている横浜の埠頭に向かった。

バブーっと音を鳴らして走るマイキーに
瀬里奈はやっと抱き締めて寄りかかった。



「瀬里奈」

「やっと…触れた…」

「……」

「ごめん…マイキー…アタシ、
マイキーの為ならアタシがいなくても
良いやって思ってた……」

「………そんなの許す訳、」

「でも違った。」

「……」

「アタシ、マイキーがいないとダメみたい……
こうやってしがみついてないと、
アタシはこの世界からいなくなるの……
だから、お願い…どんな未来でもアタシの側にいて…
こんなアタシでも側にいさせて……」

「……当たり前だろ。お前は、俺のだ。」



マイキーはそう言ってバイクをさらに走らせた。
強く冷たい風が瀬里奈の髪を通って凍えそうなのに
暖かいマイキーの背中がどうしようもなく愛おしい。