救い
▽
「救急車を呼べ!!」
王が撃たれて立ち尽くす天竺にムーチョが声を上げる。
イザナと鶴蝶が仰向けで倒れて血が滲み出る中、
マイキーはイザナ達に歩み寄るとイザナが話し出した。
然し目線は合うことなく空を見つめていた。
「マイキー…、オマエは、
俺を"救いたい"って言ったか?」
「兄弟なら当然だ… もう喋るなイザナ…」
「………ある日、オレを捨てた母と…偶然会った…」
「?」
「動揺したよ。」
パチンコ屋の開店前 男達の列の中に混じる女性
それが真一郎とマイキーとエマ そしてイザナの母親。
イザナに気付いても母親は
ドラマのような感動の再会をする訳でもなく
そのまま開店したパチンコ店に入店して
イザナはついていくと台について回し始めた。
イザナは自分を捨てた母親の理由を知りたかった。
知らない方がどれほど幸せだっただろうか。
情も無くなった母親はイザナに真実を伝えた。
イザナは父親がフィリピン人の女と作って
エマの母親と結婚をきっかけに連れてきた子ども。
母親にとっては産んだお腹の痛みのない他人の子。
その父親もチンピラに恨みを買われて刺されて死んだ。
エマの母親にとってイザナは他所の子どもであれば、
真一郎とマイキーとエマとも他人だ。
それを知ったイザナは家族を知って家族を失った。
その日、イザナは真一郎を殴り涙を流した。
はじめから孤独なら耐えられた
あると思ってた幸せが奪われた地獄
それは経験した者しか分からない絶望だった。
「なぁ?マイキー… オレが、救えるか?
救いようねぇだろ?なあ?……エ…マ……」
イザナは最後に妹だと思っていたエマの名前を口にして
「……イザナ?、イザナ?」
言葉が途切れたイザナに鶴蝶が身体を起こして声をかける。
「……オイ!!返事しろよ!!オイ!イザナ!!
オイ!!!イザナ!!!!」
イザナは一点を見つめたままピクリともしなかった。
理解した鶴蝶は身を引きずって隣に近付き
冷たいイザナの手を強く握り締める。
「イザナ…寂しい思いはさせねぇよ…
オレも…今…そっち逝くから……
オレらは、上手に生きられなかったな…」
そう言って見上げる空からは雪が降り注いだ。
二人にも無邪気な子どもの頃はあって、
形は違えど孤独な二人にも希望はあって夢はあった。
身寄りのない人間を集めた国 天竺
その夢は雪に混じって溶けていく。
「東卍も天竺も皆んな!聞いてくれ 抗争は終わりだ。
もうすぐ救急車と警察が来る!
これ以上の不幸が出る前に 皆んな!この場から離れろ!
この場はオレが残って収める!!解散だ!!」
マイキーが声を上げて仕切り出すと場が動揺する。
そこへムーチョと相棒の三途 そして他の幹部達が歩み寄る。
「マイキー!!オマエもこの場から…離れろ」
「オレらが残る」
「オマエら…」
イザナと鶴蝶に灰谷兄弟の蘭が歩み寄る。
「………なんやかんや……オマエらに憧れて来たからな。
大将。鶴蝶。せめて安らかに眠れよ。
しっかり見届けたぜ オマエらの生き様。」
そう言って二人の瞼を閉ざした。
それを見たマイキーは横に尻餅をつく稀咲を見下ろす。
「テメェだけは許さねえぞ 稀咲!!」
追い詰められた稀咲が固まっていると
バイク音が近づいて来た。
「稀咲ぃぃ!!」
「!!」
「ゲーーーット!!いっこ貸しだぜ?稀咲ィ」
バイクに乗った半間は稀咲を担いで逃走した。
タケミっちが焦っているとドラケンがバイクに跨る。
そしてタケミっちを乗せて稀咲を追いかけて
ヒナと瀬里奈にマイキーが残る事になったが、
「、追い掛けよう!」
「!」
「ヒナ…」
「お願いマイキーさん!」
「でも、」
ヒナがマイキーに頼むとマイキーは瀬里奈を見た。
バイクは二人乗りまで。瀬里奈とヒナを乗せられない。
マイキーは瀬里奈と離れたくはなかった。
然し、瀬里奈はいつもの表情のまま。
「私は大丈夫だから連れてってあげて マイキー。」
「瀬里奈…」
「マイキーの家で待ってる。」
「俺が連れて行きます。」
「!」
声がして振り返ると瀬里奈の後ろにイヌピーが立っていた。
「イヌピー…」
「俺がどちらか乗せてついて行きます。」
「……ありがとう。瀬里奈を乗せて。
ヒナちゃん、タケミっち追いかけよう。」
「はい!」
「……」
「それで良いだろ?瀬里奈」
「うん。ありがとう。
……あっちは今度お別れするよ。」
そう言って瀬里奈はイザナ達の方を見て
直ぐにマイキー達を追いかけた。
ーーーーーー…*°
雪が降り続ける中 バイクを走らせて
イヌピーの後ろに瀬里奈は座って
腰には手を回さず軽く特服を掴んでいた。
途中でバイクが転がっていたが、
ドラケンもタケミっちも稀咲達もおらず
然し、ヒナタの直感なのか
瀬里奈達はタケミっちと稀咲に追いついた。
マンション前にある広い駐車場
バイクを止めてタケミっち達まで走ると
タケミっちは稀咲に銃を向けていた。
それに気づいた途端
「タケミチ君!!!!」
ヒナタが呼び止めると、
気付いたタケミっちが振り向き
「ヒナ…!!マイキーくん!」
「稀咲!!!」
「え!?」
その隙に稀咲が逃げ出した。
「逃すかよ!!」
タケミっちが追い掛けると
瀬里奈達も走って追い掛ける。
「くそっ!くそっ!!」
稀咲が何故ヒナタを殺すのか
それは自分を選んではくれなかったからだった。
ヒナタが恋をしていたタケミっちは
不良に憧れを抱いていた普通の男子で、
勉強しかしていない地味な稀咲は
ヒナタが不良が好きなのかと考え、
タケミっちよりも強い不良になる為に
あらゆる手段を使って頂点であるマイキーに並び
最強の不良を作り上げれば、
ヒナタは自分を選ぶと思っていたのに
そんなことヒナタは望んでなどいない。
不良ではなくヒーロー
弱者を助ける人こそが
ヒナタが好きになるキッカケの弱い人だった。
それを理解する事など稀咲は出来なかった。
ねじ曲がった理想が未来を壊していった。
何度も何度も。
自分のものにならないヒナタを殺した。
ヒナタの為に自分が費やしたものを救う為に。
それももう終わりだ。
稀咲の未来は此処で終わるのだから。
「テメェはもう終わりだ稀咲!!
みんながテメェの企みを知った以上
テメェはもう誰からの信用を得られない!
テメェのくだらねえ野望は潰れたんだよ!!」
「終わらせねえよ!!
何度だってやり直してやるさ!!
橘はいつかオレのものになる!!
いつか絶対にな!!」
「させるかよ!!そんなこと絶っ対ェさせねえ!!
もう二度とお前を未来に帰すわけにはいかねぇんだよ!!」
タケミっちが未来帰すという言葉を口にすると
稀咲はピタッと足を止めた。
「W未来に帰すW…?だと…?
オマエ…まだ、俺がタイムリーパーだと思ってんのか?」
「え?、違うのか?」
「オレは」
稀咲がその続きを言う事はなく
ドンッと低い音と共にブレーキ音が鳴り響き
人形のようにねじ曲がって転がり倒れた。
ぶつかったトラックはカーブしきれず
向かいの自販機と塀にぶつかって停止した。
突然のことにタケミっちは唖然とする。
「……稀咲?」
「あ?」
動かないかと思いきや
稀咲は上半身を少し浮かすが
身体を支えたい両腕は肘が捻じ曲がり
指先までめちゃくちゃだった。
「あ!!?あ"あ"あ"あ"あ"ぐぞっ!!
なんだコレ!!?どうなってんだコレ!?
立てねえぞ!!あ"あ"あ"あ!!」
右足も捻れて立ちたくても立てない。
頭から顔には深く擦り切れて血が出ている。
叫んで全身力を入れようとしても
絞り出されるように口から血を吐き出す。
そして逆に力はどんどんと解けていく。
「ぢきしょう!!あ"あ"あ"!!
…………死にたくねぇ…」
「稀咲…」
君がこの先どうなるのか知らないけど、安心して
君がいなくてもマイキーは輝くよ
その先に君がいるかいないか、それだけ。
あの雨の夏祭りの日
彼女に言われた言葉が
死に際に脳裏に浮かんで
稀咲はそのまま動かなくなった。
今日の日のことを関東事変と呼び
神奈川最大の不良集団・横浜天竺と
東京最大の暴走族・東京卍會の
総勢500名によるこの抗争は
逮捕者5名 及び死者3名を出す
凄惨な結果で幕を閉じた。
△