面影










「んじゃタケミっち ちょっと話そーぜ」

「はい…えっと、その前に……誰ですか?この人(汗)」



タケミっちは次の飴を取り出す瀬里奈を指差す。



「瀬里奈は俺の女。」

「えっ(汗)」



マイキーがさらりと言うとタケミっちは驚く



「マイキーが面白い奴見つけたって言うから来ちゃった。
ほんと面白そうな奴だねタケミっち。」

「え…いや…えと……///(汗)」

「人の女に照れてんだよ。」

「自分も嫁いんだろーが。呼んでくるぞ?」

「すいません!(汗)
いや、だって瀬里奈さん顔が整いすぎて
二次元みたいな雰囲気だから……」

「……褒めてる?」

「めちゃくちゃ褒めてます!(汗)」

「じゃあ、飴あげるよ。
苺ミルクとラムネどっちがいい?」

「ら…ラムネで(汗)」

「はい。」ブスッ

「痛ったあ!!(汗)」

「女いるんだから気安く褒めんなよ。」



瀬里奈はチュッパチャプスの持ち手を
タケミっちの鼻に思いっきり突っ込んだ。



「瀬里奈 タケミっちイジメるなよー」

「ヒナの代わりにやってあげたんだよー」

「すいませんでした…(泣)」


瀬里奈はそう言ってふわりと笑い、
マイキーにべったりくっつく。
やっぱり総長の女だから只者じゃない。
タケミっちは瀬里奈の事が少し怖くなった。

そしてマイキーは瀬里奈を乗せて
ドラケンはタケミっちに自転車を漕がせて
4人は河川敷までのんびり走らせた。












「あの、なんで俺の事なんか気に入ったんスか?」

「………くっだらねー質問」

「スイマセン(汗)」

「俺10コ上の兄貴がいてさ。
死んじまったけどネ。」

「!」

「無鉄砲な人でさ。自分より全っ然強え奴にも
平気で喧嘩挑んじゃうの。」

「へーーかっけえ人だったんスね!」

「タケミっち兄貴に似てる」

「へ!?そんなかっこよくねえっスよ!
どこをどうみたら!(汗)」

「ハハハ 確かにタケミっちみたくダサくねーな」

「………それはひどいっス」

「ハハハ」



楽しそうにマイキーが笑ってるのが聞こえて
瀬里奈の表情も穏やかで白い柔らかい髪が風にのる。
ふと川の方を見ると夕日が出てきてて
キラキラと光る川を見て瀬里奈はジッと静かに見つめた。

そして自転車が止まるとマイキー達は降りて
瀬里奈も降りてまた川を見つめた。



「今って不良がダセーって言われる時代だろ?
兄貴の世代はさ、この辺りもすげー数の暴走族がいてさ
その辺をチョッカンコール鳴らして走ってた。
皆んな肩肘張ってさ、喧嘩ばっかして、
でも自分のケツは自分で拭いて、
そんな奴らがなんでダセーんだ?」










     "だから俺が不良の時代を創ってやる"










マイキーはそう言った。



「オマエもついて来い。
俺はオマエが気に入った。花垣武道。」

「喧嘩強え奴なんていくらでもいんだよ。
でもな、"譲れねえモン"の為ならどんな奴でも楯突ける。
オマエみたいな奴はそーいねえ。考えとけよ。タケミっち」



ドラケンはそう言って先を歩くマイキーに続き
瀬里奈もタケミっちを見た後
二人の後をついて行った。

そしてマイキーが自転車に乗ると
瀬里奈はマイキーの後ろに乗って走り出す。



「どうだった?タケミっち」

「んー…アホ面だし変な奴。」

「ハハハ 違いねーな(笑)」

「ヒナを守ってる所は似てたかな……」



瀬里奈はそう言ってコツンと頭をマイキーの背中につけた。



「………」

「弱いくせに相手を見ない無鉄砲さが…」



瀬里奈はそれだけ言ってそれ以上は言わなかった。














ーーーーーー…*°





途中でドラケンと分かれ、二人はマイキーの家まで着くと
瀬里奈は自転車から降りてマイキーの部屋では無く
出入り口の門に向かって歩き出す。



「瀬里奈 帰んの?」

「うん。明日また来るね。」

「…分かった。」

「寂しい?」

「うん。」

「じゃぁ、戻るよ。」

「バーカ。気を付けて帰れよ。」

「うん。ありがとマイキー。」



一度戻ろうとした方向を変えて
瀬里奈はマイキーの家では無く別の場所に向かった。

あの時必死になって走った道をゆっくり歩いて
廃れた商店街を歩いて建物の間を抜けて
雑に打ち付けられた扉にポケットから出した鍵で
ガチャガチャと開けて中に入る。

廃墟の筈の建物の中は広くて端にはソファとテレビ
反対側の端には工具が乱雑に置かれていた。

瀬里奈はソファに座る事なく
シャッターに寄りかかって
煙草に火をつけてボーッと中を見渡す。

此処はマイキーの兄 真一郎の店であり、
真一郎が殺された店でもあった。
そんな場所に何故ソファとテレビがあるのか。
それは真一郎に憧れた別の男が住んでるから。



ガチャガチャ…
「…久しぶりだな 瀬里奈。」



入ってきたのは白い特攻服を着た長身の男2人。
一人は金髪のセンター分けショートの髪型に
綺麗な顔立ちに目立つ左側の広い火傷の痕。
もう一人は長めの黒髪に左側を刈り上げた
細い吊り目の男だった。



「久しぶりだね イヌピー、ココ。」

「しばらく来てなかったから空き巣かと思ったぜ」

「こんな廃墟に?(笑)」

「なんかあったのか?」

「ちょっとね、懐かしくてムカついて寂しくなった…」



瀬里奈はそう言ってふぅ…と煙草の煙をふかした。

此処にあるものも煙草の匂いも
全部懐かしくてムカついて寂しくなる。

イヌピーとココは床に座って煙草を吸う瀬里奈を
追い出そうとする事もなくソファに座った。



「…まだマイキーの女なのか?」

「まだって?」

イヌピーがそう言うと瀬里奈の冷たい視線が突き刺さる。

瀬里奈が立ち上がるとイヌピー達のソファまで行き、
ジリジリと煙草が灰になっていく中、
イヌピーの前に立って静かに見下ろす。


      
「まだなのはアンタ達もそうでしょ?」
      


口元は柔らかく笑っているようなのに
吸い込まれそうな真っ黒な深い瞳は
今にも簡単に人を殺してしまいそうな程
非情に見える彼女の目は、光を浴びた事は一瞬だった。



「…そうだな……」

「大丈夫 責めないよ。お互い様。
私たちせっかく共感し合える境遇なんだから
喧嘩するのはやめようよ。ね?」



瀬里奈はそう言うとしゃがみ込んで
宥めるようにイヌピーに抱きつく。
そんな事をされてもイヌピーは動じず
ただ真夏の中ひんやりと冷たいコンクリートを見つめる。
その横でココはまるで分かっているかのように
瀬里奈とイヌピーを見ているだけだった。



「黒龍の事だって何も言わないよ?アタシ」

「………」

「だから、ね?ただ抱き締めるだけで良いんだよ。」

「……そうだな…」



瀬里奈がそう言うと
イヌピーは片手を瀬里奈の腰に回して
添えるような優しい力で受け止めた。

それを満足げに瀬里奈は
2人を見つめるココに視線を向ける。



「ね?ココもだよ。」

「瀬里奈、黒龍に来る事は無いのか?」

「行くわけないじゃん。
アタシはマイキーのモノだよ。」



瀬里奈はそう言ってイヌピーから離れた。



「それ以外アタシは何者でも無いんだから。」



瀬里奈はそう言って煙草の火を消して
廃墟から出て行った。














夕飯を食べてベッドでひと眠りしていたところ、
外を歩く音が聞こえて扉を開ける音がぼんやり聞こえた。

ベッドに重みが傾いた重心が少し変わり
マイキーは重い瞼を開けると
目の前に瀬里奈の顔があって目が開いた。



「瀬里奈…帰ったんじゃなかったの?」

「そうだったんだけどね、やっぱ来た。」



そう言うとマイキーは瀬里奈を掴んで
ぐるんと身体が回って瀬里奈を下に
自分が覆い被さって強く抱き締めた。



「やっぱ戻ってきて良かった。
マイキーなら抱き締めてくれると思ってた。」

「幾らでも抱き締めてやるよ。
オマエは俺のなんだから。」

「うん。アタシはマイキーのモノだよ。」



瀬里奈はそう言って、満足げに笑った。