想い出の笑み








「おかえり 神田くん マリくん」

「イノセンスは任せた」

「神田 ドクターに包帯変えるよう言われただろ。ちゃんと医療班のとこ行けよ」

「分かってる」

「ゆっくり休んでねー」



バタンッ

ジリリリ!!!ガチャン
「もーまたバクちゃーん?」

『バクちゃんって言うな!(怒)』

「もー毎日連絡されると困るんだよー僕は忙しーのー(汗)」

『ユィは元気か!?寂しがってないか!!(汗)』

「大丈夫だよー リナリーやラビとも仲良くなったみたいだしー」

『な、何!?リナリーさんと!?その辺詳し』ガチャン!



コムイは強制的に 電話を切った。












任務を終えた神田は 自室に戻るために通路を歩いていた。すると前に書類や本を重そうに持って歩くユィの姿があった。時刻はまだ早朝の4時すぎだ。心なしかユィの瞼は今にも落ちそうなほどウトウトしていた。するとユィの瞳が神田を捉えた。



「神田さん 今帰ってきたんですね。おかえりなさい」

「……ああ」



出発する前は表情が暗かったユィはいなくて 今は神田にも笑顔で おかえり と言った事に戸惑った。あれからユィは科学班や医療班とも話したりラビやリナリーとも仲良くなれた為 アジア支部にいた時のような明るいユィに戻ってきていた。だから毎日連絡するバクは心配無用なのだ。



「朝っぱらから仕事か」

「はい 今終わったところで…。お怪我大丈夫ですか?包帯は定期的に変えた方がいいですよ?」

「……やってくれ」

「!、はいっ すぐに戻ってきますねっ」



ユィは笑顔で神田にそう言って 科学班フロアに向かった。さっき終わったって事は寝不足のはずなのに元気な彼女にまた戸惑う。何よりいつもの自分なら別の者に頼むはずなのにユィを拒まなかった。カザフスタンでユィと会ってから自分の調子がおかしくなっている。









「リーバー班ちょ……(寝てる…)」



ユィが科学班フロアに行くと 机に伏せて眠るリーバーの姿があった。かなりの数の本が周りに積み重なっていて ハードな仕事をしているのが良く分かる。ユィも徹夜は良くあるが 彼と比べると甘々なのだろうと思った。ユィは起こさないようにゆっくり書類と本を置いて メモに重石を乗せてその場を後にした。



足早に神田の元に行くと 壁にもたれかかって待つ神田の姿があった。



「神田さん すみません…遅くなってしまって…(汗)」

「別に」

「ではわたしの職場に行きましょう」



ユィが歩き出すと神田も後ろにつき歩き出した。ユィは後ろにいる神田がちらちら振り返るが 「ちゃんとついてってるから前見て歩け」と親のような注意の仕方で前を向かせて歩かせた。

そして医療班フロアに付き ある扉に行き着く。



「ここがわたしの職場です」ガチャッ



ユィは扉を開けて2人で中に入り 扉を閉めた。早朝だからか医療フロアも割と静かだ。



「どうぞ そこに腰掛けて下さい。痛みはまだありますか?」

「平気だ」

「良かったです」



ユィは神田に背を向けて 引き出しから包帯とガーゼそして消毒液を取り出した。神田は自分で体に巻かれた包帯をぐるぐると解き始める。ユィが戻ってくるとまだ途中の状態だが 胸のタトゥーが露わになっていた。



「あ、包帯解いたんですね。ありがとうございます」

「…ああ」

「胸から腹部に掛けてと右腕ですね」



ユィは神田のタトゥーには触れる事なく、向かいに立ち腰を曲げて 途中だった包帯を解き始めた。背にも腕を回すため ユィの顔が自分の体の近くにあり 遠目からはユィから神田に抱き付いているような姿だった。

解き終えるとガーゼを取り 消毒液をガーゼに付けて 丁寧に綺麗にする。そしてまた別のガーゼを傷口に当てて ぐるぐると包帯を巻き始めた。神田は黙って目を閉じて包帯が巻き終わるのを待っていた。

しばらくすると ユィは離れて腰を正した。



「終わりました。お待たせしてすみません」

「いや いい」

「傷口も綺麗ですし 痛みも無いようですから 薬は必要なさそうですね」

「ああ」

「お大事にして下さいね」

「ああ」



神田は素っ気なく返し 部屋を出ようとした。その時、



「あの…神田さん」

「?」

「以前アジア支部でお会いした事ありますか?」



神田の目が少し開いた。初めて会った時から思い出しているような素振りを微塵も感じさせなかったからだ。なのに今になっていきなり言われ 動揺する。返事をしない神田に自分が間違っていたと思ったのかユィは慌てて謝り出した。



「ち、違いましたか!?すみません!(汗) 5年以上前のお話なので人違いかもしれないです…!本当にごめんなさい!失礼な事を…!(汗)」

「……違わねえ」

「!」

「髪型 昔と変わらねえだろ。お前」



神田がそう言うとユィは嬉しそうに目を輝かせた。自分は間違いではなかったのと 昔同世代の男の子と会って自分が一方的に何か話していた記憶があったからだ。



「よ、良かったです…!小さい頃はまだ口元を読む事が出来なくて言葉も変だったから、何か失礼な事言ってなかったと思いまして…(汗)」

「テキトーにはしゃいでたぞ」

「そ、そうでしたか…お恥ずかしいです…//」



ユィは恥ずかしそうに笑って頭を掻いた。



「だから 少し驚いた」

「たくさん勉強や練習しましたから」

「……」

「すみません 足止めさせてしまって… ゆっくり休んでくださいね」

「……ああ」



そう言うと神田はユィに背を向けて スタスタと部屋を出て行った。ユィはふわりと欠伸をして 部屋を出て 自室に戻っていった。


神田の心臓はドキンドキンと高鳴っていた。