跳ねる兎









時刻は20時20分 ユィはリーバーに渡された仕事を終えて 行きよりもさらに重たい書類を持って前が見えない状態で歩いていた。これでは真っ暗で無音の状態で歩いているのと同じ現場なのだが 早めに渡した方がいいのかと思い いっぺんに持ち歩いていた。顔を横に傾け何とか 今ここはどこか壁を見て判断しているような状況だ。



「大丈夫さァ?」



老人と2人で歩いていた1人の青年が話しかけたが ユィには聞こえず スタスタと歩いて行き 青年はポカンと立ち止まる。



「何立ち止まっておる ラビ」

「今 話しかけたんだけど無視されたさ ショック…(落)」

「あの大量の書類を持ってる娘か」

「だってあれ絶対前見えねえじゃん あぶねえじゃん」

「そう言って報告書サボる気か」

「違えよ!(汗)」



ラビと呼ばれた青年は 老人と共にその場を後にしてしまった。声を掛けられた事も知らないユィはフラフラと書類を落とさないように歩いて行った。そして無事 科学班フロアにやって来た。



「リーバー班長」

「ユィか?お疲…れ!?(汗)」

「終わったのですが どこ置けばいいですか?そろそろ腕が限界です…(汗)」

「そ、そのまま 俺のデスクに置いていいぞ!(汗))」

「よ、と…(汗)」バサバサ!

「よく持てたな…(汗)」

「ふ〜……(汗)」



ユィはよほど重かったのか手をプラプラとさせた。



「しかし この仕事量まじで 今日中に終わったんだな。しかも時間余裕あるし…(汗)」

「得意な学問でしたから。英訳も簡単ですし、大丈夫です」

「(お試しでお願いしたけど結構戦力になるっぽい…) まじで助かった ありがとう。医療班の方は大丈夫か?」

「今は落ち着いていて漢方薬の提供や製造だけなので大丈夫ですよ。他にやる事あればやれます」

「まじか… これとこれ頼んでいいか?」

「はい いつまでですか?」

「明日の昼過ぎだとかなり助かる(苦笑)」

「大丈夫です」



ユィはにっこりと笑って返した。だがその様子を見た科学班は、



「班長ずりー!!!(怒)」

「俺らだってユィに手伝って欲しいっす!!(怒)」

「うるせえ!班長の方が仕事量多いんだよ!!(怒)」



ギャーギャー騒いでいる声もユィは聞こえず 書類を持ってその場を後にした。














ーーーーーー…*°





ユィは書類を職場に置き 空腹感があった為仕事の前に腹ごしらえをしようと食堂に行く事にした。



「あら ユィ!何食べるー?」

「中華粥を。この前の凄く美味しかったです」

「当然じゃなーい!今日も腕ふるっちゃうわね!」

「お願いします」



ユィはジェリーから先日とは違った盛り付けの中華粥を受け取り 適当に席ついて食べる事にした。皆んな夕飯は遅めなのか 食堂が混み気味だった。そこに3人組の探索班がやってきた。



「お嬢ちゃん 隣いいかい?」

「……」ハフハフ…

「お嬢ちゃん?(汗)」

「おーい…(汗)」

「……」もぐもぐ…



ユィの背中から話しかけた探索班の存在を勿論ユィは気付く事なくハフハフと熱いお粥を食べていたのだが ユィの事を知らない探索班は腹を立てた。



ガシャーン!!!!

「!」

「てめえシカトしてんじゃねえよ!インテリが!!(怒)」

「え…」



ユィはいきなりテーブルを叩かれ お粥が一瞬ふわりと上がった事に驚いたのだが 気配を感じ振り返ると大柄な探索班3人がこちらを睨んでいる事に気付き 顔がキョトンとして 何故なのか頭で考えると 答えはすぐに出た。



「も…もしかして声かけてましたか…?」

「ああ!?この距離で気付かねえのかよ!!(怒)」

「す、すみません…!わたし…(汗)」

「インテリの癖に生意気な真似しやがって…!(怒)」

「ごめんなさい…!ごめんなさい…!(汗)」

「もういいじゃんさァ」

「「「!!?(汗)」」」

「?」



探索班は声に気付き振り返ると パスタをお盆に乗せて立って見ていたラビがいた。



「この子悪気なく気付かなかっただけさ。大の大人がしかも男で こんな幼い子に怒鳴り散らしてカッコ悪いと思わねえのかよ」

「何だと…!?(汗)」

「すいません…わたし 生まれつき耳が聞こえなくて …ご迷惑を…」

「は?耳…」

「ごめんなさい…ごめんなさい…」ぺこぺこ

「耳が聞こえねえで よく仕事してんな(怒)」

「そう言うの差別って言うんさ」

「……ケッ…」



探索班3人はラビを睨み付けその場を離れていく中 ユィはぺこぺこと深々と3人にお辞儀をした。



「耳全く聞こえないんさ?」

「はい…」

「耳聞こえないのに凄いさね 口の動き読んでんの?」

「あ、そうです… 視界に入らないと分からなくて…」

「(だからさっきもスルーされたのか…) あいつら自分勝手な奴らさね 謝るだけ損さァ」

「……いえ…言われて当然です…面倒くさいでしょうから」

「そんな風に言っちゃ駄目さ」



ラビはユィの向かいの席に座った。そしてパスタを食べ始めようとする。



「俺 ラビ。一緒に食おうぜ」

「…ありがとうございます」

「敬語なんていらないさァ。何歳?俺17」

「14…」

「14!?(汗)で 科学班!?すげ!」

「あ…科学班はお手伝いで…本当は医療班の薬剤師なの」

「マジか すげぇ…。なあなあ 名前なんつーの?」

「ユィ。ユィ・メイ・チャン」

「ユィね。チャイニーズ?」

「うん」

「じゃあ リナリーと一緒さね」

「うん」

「俺 エクソシストだから怪我したらユィに治してもらお♪」

「うん」



ユィはラビと話してさっきまでの嫌なことが吹き飛んだ。ラビは飄々として掴めない人だけれど 嫌な事を吹き飛ばしてくれるような そんな話しやすい相手だった。