縮まる距離








コンコンッ
「コムイさん 失礼します」



ユィは室長室を訪れた。理由は薬草を以前発注していたのだが 足りないものがあり 薬も無くなりそうな為 買い出しに行く為だった。



「ユィちゃん お疲れさまー どうしたの?」

「実は足りない薬草や薬品を買い出しに行きたくて…」

「お買い物?」

「難しいですよね…」

「うーむ さすがに一人ではねー………そうだ!」

「?」

「ちょっと待っててね」

「はい」



コムイは思い立ったかのように席を立つと 誰かに連絡を取っている様子だった。あまり大事にはしたくない為 少し心配そうにユィはコムイを見ていた。

連絡が終わったのかコムイはくるりと振り返った。



「今 一緒に行ってもらう人呼んだから 少し待っててね」

「誰が…?」

「来れば分かるよ♪」

「はい」



ユィはソファに腰掛け待つ事にした。



「お買い物って薬草だけかな?」

「いえ 婦長に確認していくつか包帯なども…」

「そっか」

「コムイ」

「あ 神田くーん」

「!//」



コムイの口元を見て 神田が来た事に気付くと声を赤くして振り返った。団服ではなく 私服である中国服でやって来て ユィはすぐに理解が出来た。



「団服着てくんなってどういう意味だ。任務じゃねえのか」

「任務だよー ただAKUMA退治ではなく ユィちゃんの護衛さ」

「もうアジア支部戻るのか」

「違う違う お買い物に付き合ってあげて欲しいんだ」

「はあ?」

「ご、ごめんなさい…薬草と応急用具が不足していて 急遽買い出しに行きたくて…」

「……」

「リナリーもラビも任務中だから宜しくね」

「イーストでいいのか?」

「で 大丈夫かな ユィちゃん」

「はい」

「気を付けて行ってらっしゃい」

「行ってきます」



ユィはそう言うと室長室を神田と出て行った。



「では わたし支度して来るので 地下水路で待っていて頂いても大丈夫でしょうか?」

「ああ」

「すぐ向かいますねっ」

「コケるなよ」

「ふふっ はいっ」



ユィは笑顔で神田に答えると すぐに自室に走って行った。神田は掛け走るユィの背中をしばらく見送ると 振り返り 待ち合わせである地下水路に向かった。

少ししてユィはコートを羽織りポシェットを持って神田の元にやってきた。その表情は笑顔で 神田の胸はまた苦しくなる。



「はぁ…はあ…お待たせしました」

「別に走らなくていい」

「せっかくのお休みなのに時間を無駄にさせたくなかったから…」

「……行くぞ」

「はい」










ユィは神田と共に船に乗り 本部からほど近い町へ向かった。神田はそっぽを向いているが ユィはお使いの確認をしていた。前回は探索班もいたが 今回は二人っきりでユィはどこか胸がドキドキと緊張していた。









「着きました」

トントンッ
「ユィ 行くぞ」

「!、はい」







船から降りると 中国とは全く違ったヨーロッパの街並みが広がり 着ているドレスも重たそうなものばかりだった。来る時は電車に籠もることが多く街中をしっかり見る事は無かった為 珍しく思った。



「何ボケっとしてやがる」グイッ

「あ、ごめんなさい…(汗)」



ユィは神田に引き寄せられ 薬屋に向かった。度々迷子になったが無事着いて 必要なモノと 頼まれていたモノを買い付け 大荷物になってしまい ほとんどが神田が持ってくれていた。











「ごめんなさい 沢山持たせてしまって…」

「別に その為の護衛だろ」

「?」

「………その為の護衛だ」

「あ、すみません」



いつも誰に対しても素っ気ない神田は ユィの前を歩き ポツリと呟いたが 彼女が読み取れなかった事に気付いて 向き直して繰り返し言った。そしてもう一つ気になることがある。



「お前…」

「はい?」

「なんで俺には敬語なんだ」

「え、あ、そうですね (汗) 無意識でした…。その…ユウさんって 大人っぽいので 敬語になってしまって……」

「あのバカウサギがタメ口で話すんだ。お前も別に敬語じゃなくていい」

「い、いいの…?」

「二度言わせんな」

「ふふっ…じゃあ 今日からだね」



ユィは嬉しそうに笑って見せた。その表情を見た神田はふいっと向き直し スタスタと歩き始めた。だが、ユィには分からない音が鳴り響く。人の悲鳴が上がったのだ。だがユィは気付いていない。それがどれほど危険なのか改めて気付かされる。



「ユィ あの店の前に立ってろ」

「え?どうして…」

「人の悲鳴が聞こえた。たぶんAKUMAだ」

「え…」

「すぐ戻る」

「う、うん…」



ユィは支持された店の入り口の横に立ち 荷物を置いた。かなりの荷物の為 これでは1人では動けない。そもそも 音が聞き取れない自分には この人ごみの中行くのは不安すぎる。



「ユウ…」















ーーーーーー…*°





少し待つと 空が曇り 雨が降り出した。時計を見ると もう1時間は経っていた。



「(どうしよう…ゴーレムは…ユウは…)」



心配そうに当たりをキョロキョロしていると、前からふらふらと歩く神田の姿があった。



「ユウ…!」

「!、ユィ!!」

「え?」

「ニ…ン…ゲ……」








ザンッ!!!!!