純朴な愛








匂いがした。砂埃や火薬の匂いではなく 嗅ぎ慣れた薬品の匂いだ。そして ずっと立って待ってて ユウの姿を確認して かけ走ろうとした時 彼が自分の名を呼んだ時から 真っ暗になっていた。そして今の重心はまるで眠っているようだ。



「ん……」

「ユィちゃん!(汗)」

「……コムイ室長?」

「良かった…気が付いて…」

「私…痛ッ……(汗)」

「う、動いちゃ駄目だよ…(汗)」

「怪我…私…どうして…」

「AKUMAに襲われたんだ」

「AKUMAに…?」

「神田くんが庇ったんだけど 建物に頭と右腕を打ち付けて 気を失って 右腕は折れてたんだよ。ごめんね。僕が許可してしまったから…」

「それは違いますよ 室長。私が怪我しなかったら別の誰かが怪我してましたから」

「ユィちゃん…」

「ユウは…」

「神田くんなら無事だよ。結構AKUMAが集まってたみたいで 広範囲にAKUMAがいたんだと思う。凄く心配していたから 呼んでくるね」

「はい」

「(二人とも名前で呼び合う仲になったんだ…//)」



コムイは引っ掛かりがありつつ ユィの部屋を出て 神田を呼びに行った。












「お待たせ ユィちゃん」




コムイはすぐに神田を呼びに来てくれた。コムイの後ろに団服の姿の神田がいつもと変わらない表情でユィを見ていた。




「じゃあ 僕は仕事に戻るから 何かあったら教えてね。神田くん1時間後に僕のとこ来てねー」

「ああ」

「あ、あの、コムイさん…」

「ん?」

「今日のことバク兄様には…」

「さっき沢山怒られたよ。大事な妹に怪我を負わせてしまったんだから正直に知らせないとね。」

「……ごめんなさい…私のせいで…」

「ユィちゃんは悪くないよ。目覚めた事もバクちゃんに知らせてくるね。凄く心配してたから。」

「ありがとうございます…」



ユィは申し訳なさそうに謝ると、コムイは手を振って部屋を出て行った。

残されたユィと神田に少し沈黙が流れると、










「あの…私…」

「悪かったな」

「え?」

「そもそもお前の護衛なのに1人にしたのは迂闊だった。悪かった。」

「……でも ユウが行かないと AKUMAによって 沢山の人が亡くなる事になってたでしょう?」

「……」

「それは 悲劇に繋がり 伯爵の材料となる」

「……」

「だからあの時はユウが正しかったんだよ」

「……そう思うのか」

「うん。それに 私もユウに助けられて 無事だし 何もそんな顔する必要ないよ」

「顔?」

「うん。凄く申し訳なさそうな顔してる」

「俺がか?」

「ふふっ… うん」

「……」

「ありがとう」

「………」







ユィは淡々と話すが 神田は無言が多かった。自分がイノセンスやAKUMAの破壊以外に気にかけることは何も無かったのに 今こうして1人の教団の者が怪我をして だいぶ責任を感じて 無事だと分かった時は安堵した。自分でも もう気付いていたのだ。彼女が自分をこれほどまでに変わらせている事を。







だが どうしても超えられない。







忘れられない あの人に会うまでは。








「ユウ?」








彼女に知られてはならない。







自分の過去と罪。








そして愛する人の事を。








純朴な彼女のままで。