青い瞳の君









「忘れ物はないか?」

「大丈夫 残りの荷物の郵送お願いね」

「ウォンが責任を持ってお送りいたします」

「ありがとう」



7日間はあっという間に過ぎ ユィが総本部へ行く日となった。自分の身長の3/1はある大きなリュックの中には食料や水 そして漢方薬が詰まっていた。かなり重たくて背負うのが一苦労だった。



「ユィ くれぐれもいつも以上に周りに目を配るのだぞ?怪しい者がいたらソッと離れるんだ。探索班には結界装置を持っているから決して離れるんじゃないぞ」

「バク兄様 50回以上聞いてる…」

「バカバク」

「バク様…!(涙)」

「ユィ」

「!、ズゥ爺っ様!」ダッ

ボスンッ
「うおっと…(汗)」


自分の曾祖父にあたるズゥ・メイ・チャンも見送りに来て ユィは駆け寄って彼に抱きつき リュックの重さもかかり グラリとズゥが後ろに後ずさった。ユィは彼の胸に顔を埋めていた。



トントンッ
「ユィ」

「!」

「気を付けて行ってきなさい」

「〜〜〜ッ…(泣)」



ユィはよっぽど寂しいのか ついには涙を流してしまった。消えませんようにとかけた御呪いはまだ効いているのだろうか このまま離れて会えなくなるのではないだろうか 色んな不安が数日続き ズゥの優しい顔を見て涙腺が切れた。







どうか消えないで。







ユィはまた強く御呪いを込めて アジア支部を出た。









ユィはアジア支部探索班のワンという男とテクという男2人で列車を乗り継いで行った。本当は死ぬほど男性探索班と行かせるのをバクが嫌がったが 女性探索班などほとんどいない為 皆んなで説得して行かせた。もちろんユィの難聴は知っていて 話しかける時は 肩をトントンッと叩き 話すようにしている。そして汽車を乗り継いで 宿も転々として 5日間が経った。



トントンッ
「ユィ殿」

「はい」

「次のカザフスタンの首都 アスタナでエクソシスト様と合流します」

「何人…?」

「1人かと思います」

「そっか…(兵士としか生きられないエクソシスト…どんな人かな…怖いのかな…)」

「もう外の景色見てて大丈夫ですよ 着く頃にまたお呼びします」

「うん ありがとうワン」



ユィは探索班にそう言うと 視線を窓の外を眺めた。生まれも育ちもアジア支部だった彼女は 外の街並みも新鮮で 音が聞こえない中で 人々が何を話しているのか 何が起こっているのか 状況が分かりづらい自分の難聴を思い知らされてまた胸が締め付けられた。













ーーーーーー…*°





アジア支部支部長室で バクはユィが不安なのか部屋中をうろうろと歩き ウォンはさらに心配そうにハラハラとさせていた。



「ユィは大丈夫だろうか。ワンとテクには厳しく注意をさせていたが…やはり監視カメラと盗聴器を忍ばせて置いた方が…(汗)」

「バク様…大丈夫ですよ カザフスタンで神田ユウと合流するそうですから」

「神田ユウか…」

「懐かしいですね 神田くんとユィ様は昔1度お会いしてユィ様が楽しそうに話されてましたから」

「そ、そうだったか!?(汗)」

「お忘れでしたか?ユィ様は言葉が読め始めた頃でしたからあまり言葉数は多くなかったですが…」

「そうか…」

「合流したらワンとテクには連絡するよう伝えてますからどうかご心配なさらず。ササッ 班長からのお仕事が来てますから…」

「むむむ…(汗)」


バクは自分でユィを説得しといて自分が一番心配性だった。のちにフォーにずたずたに言葉と肉体の暴力を受けるのは10分後くらいの事だ。














ーーーーーー…*°




トントンッ
「ユィ殿、アスタナに着きました。ここで乗り換えて エクソシスト様と合流します」

「ありがとう テク」



テクに促され ユィはリュックを背負い 汽車を降りた。カザフスタンは砂が立ち込める 土の壁で出来た街並みで ユィは思わず口元をストールで巻いた。そして探索班が見つめる先には 黒いローズクロスのコートを着た長髪を後ろに結んでいる男だった。それが神田ユウだ。



「エクソシスト様 お迎えありがとうございます」

「そいつがユィって女か」

「はい ではアジア支部と本部に連絡しますので 少々お待ち下さい」

トントンッ
「ユィ殿 ワンがバク支部長と本部に連絡しますので少々お待ち下さい」

「うん ありがとう」



ワンは少し離れた場所で通信機を使い 連絡している間 ユィと神田とテクはその場で待っていた。ユィは荷物が重いのか1度リュックを下ろして一息つく。ちらりと神田を見ると目が合ったが 思わず顔を逸らされた。ユィの胸の中にガーンと音が鳴る。

少しして連絡を終えたワンが戻り 一行は再び汽車に乗り ヨーロッパを目指す。バクと電話をしたワンがバクにしつこくユィの安全を第一に行動するようにと何度も圧をかけられた。

列車では黒の教団は上級車両の一室を取り ワンが見張り ユィと神田 テクが座っていた。神田とユィは会話する事なく互いに窓の外を眺め テクは若干気まづそうに時を過ごし その空気はワンとテクが入れ替わっても同じだった。

互いに見覚えはあるけど思い出せず ユィも神田の空気が話しかけるなと言った感じで黙っていた。ユィは眠たいのか少しウトウトし始めるが どこか我慢している様子だった。



トントンッ
「ユィ殿 列車はしばらく乗り換えませんので 休まれて構いませんよ」

「……え?」

「あ…眠いようでしたら寝ても構いません」

「ありがとう」



ユィはウトウトしていた為 言葉を読み遅れたが ワンの心遣いに感謝して目を閉じた。耳が聞こえないとなるとベッドで眠る以外はどこか落ち着かないのだが さすがの長旅で疲れているようだった。

神田は事前にコムイからユィの事は聞いていた。チャン家の一族で 14歳にして薬剤師の達人という事も難聴という事もだ。そしてあの9年前の事件後 初めて自分に笑顔を見せたのが何も知らないユィだった。親が殺された事を知らないまま 純粋無垢な笑顔でそれは今も変わらなかった。


だからこそ 今 こんなにも胸が痛む。


その寝顔もだ。