美しい声









朝 ユィは目が覚め 食堂に向かった。以前の食堂も広めで ズゥの中華粥で1日が始まるといった自分のルーティーンだったのが ヨーロッパにある黒の教団の料理長はどうなのかと不安になった。昨日は食堂で食事を取らずに1日を終えてしまった為 かなりの空腹感があるが ユィは小食だった。



「(人多いなやっぱり…凄い並んでるし 探索班やっぱり怪我人多いんだ…)」



怪我人だらけの空間を見ると 自分が呼ばれた理由がシミジミと感じてしまう。朝食を食べたら室長室に行こうと思っている為 列に並んだ。周りは中国服に白衣を羽織ったユィが見ない顔だと気になり チラチラ見ているが 話しかけはしなかった。

そしてユィの番がすぐに来た。



「はい 次の方ー!ってあれー!?見ない顔ね!新人さん??可愛いー!チャイニーズかしら!?」

「え…と…(早くて 言葉読みづらい…)」

「何でも作っちゃうから好きなもの言ってねー!」

「中華粥を…」

「おっけー!」



ユィはジッと待っていると 少しして中華粥が出された。ズゥとは違う盛り付けだが 良い匂いが漂い食欲がそそられた。



「…ありがとう」

「いーえ!これから宜しくね!」

「宜しくお願いします」



ユィは嬉しそうに少し笑って返した。

そして適当な席に付いて アツアツのお粥をハフハフと食べ始めた。ズゥとは違う味付けだけれどこれはこれで美味しくて ユィの顔が晴れた。ただいつもは誰かしら知ってる人が隣にいたのに今は1人で食べる事がこんなにも寂しい。



「あ、いたいた「トントンッ」ユィ」

「!、…リーバー班長」

「それ食べ終わったら 室長室に来てくれ」

「はい」



リーバーは重たそうな荷物を持って すぐに移動していった。ユィはハフハフと急いで食べて 室長室に向かおうとすると、神田が前を歩いてきた。おそらくこれから食堂に向かうのだろう。チラッと目が会うとユィはペコリと軽く頭を下げて すれ違った。


神田は振り返り ユィの背中を見ると どこか寂しげな背中で あの時あったキラキラは失われていた。












ーーーーーー…*°




「おはよう ユィちゃん よく寝れたかな?」

「はい コムイさんの方が疲れてそうですね。大丈夫ですか?」

「うん ありがとう。ユィちゃんにはね医療班で薬剤師として動いて欲しいんだけど 科学班としてもバクちゃんから優秀だって聞いてるからお手伝いして欲しいんだ」

「分かりました」

「科学班班長のリーバー君から職場の詳しい説明してもらうから。今は任務に行くエクソシストを呼びに行ってもらってるから少し待ってね」

「分かりました」

「まだ緊張してる?」

「……はい アジア支部はわたしのホームですから」

「そうだよね↓ごめんね 悲しませて(泣)」

「い、いえ!すみません わたしが子どもで…(汗)」

「まだ14歳だもん 子どもで当然だよ」

「コムイ室長…」

「これからは此処も ユィちゃんにとってホームだと思ってくれると嬉しいな♪」

「ありがとうございます」

ガチャッ
「室長ー 神田とマリ連れてきましたー」

「あ、来た来た」

「!」

「じゃあ リーバー君 ユィちゃん宜しくー」

「全く人使い荒いんだから…(汗)」

「ごめんなさい」

「いや ユィは悪くないから!!(汗)」



ユィは疲れ気味のリーバーに対し申し訳ないと思い 頭を下げた。そしてユィという名前と声に聞き覚えがあった盲目のエクソシスト マリは何処か懐かしい感じがした。



トントンッ
「ユィちゃん 彼はマリって言って エクソシストだよ。彼は盲目だけど耳は凄く良い」

「初めまして」ペコリ

「マリだ。宜しく」

「こちらはユィちゃん アジア支部の医療班兼科学班で本部に移動して貰ったんだ」

「アジア支部?ああ だから懐かしい気がしたのか」

「?」

「いや 前にアジア支部にいた時 同じ声を聞いた事があるから 今より少し幼い綺麗な声を」

「わたしの声…綺麗ですか?」

「(ユィちゃん…)」

「……」



ユィは自分の声も大切な家族の声さえも知らない。ずっと無音の世界で生きている彼女にとって声というものは 未知な世界で 綺麗という表現をするマリが珍しく思えた。



「ああ とても綺麗だよ」

「………ありがとう」


ユィは嬉しそうに笑うと コムイとリーバーは優しい笑みを浮かべた。そして神田はふいっと顔をそっぽに向けた。やっと少し緊張がほぐれた気がした。そしてコムイはある事を思い出す。


トントンッ
「そういえば さっき聞いた昨夜はよく寝れたかの確認は バクちゃんがまた僕に朝っぱらから電話してきたんだよ」


コムイがそう言うとユィは目がキョトンとした。そして…



「 ぷ…くくく…うふふふふっ」



面白いのか急に口を手に当てて笑い出した。



トントンッ
「ユィちゃん?(汗)」

「あ、すみませんっ バク兄様ったら あれほど強気に説得していたのに いざ離れると凄い心配性なんですもの(笑)」

「そりゃそうだよ 僕だってリナリーと離れたら泣きながら毎日電話しちゃうよ」

「室長…(汗)」

「でも ホッとしました。寂しいのはわたしだけじゃないんだなって」



ユィはホッとしたように笑った。


そしてユィはリーバーに職場を案内され 科学班も医療班も優しく迎えてくれて ユィは少しだけやって行けそうな気がした。

神田とマリは任務に出掛けた。