Holiday






昼休み。

窓から吹き込む春風が教室を
ゆっくり通り抜けていく。

知夏は売店で買ったコロッケパンの袋を開け、
大きく一口かじった。

向かいに座る奈緒は、
どこか嬉しそうに弁当箱を閉じる。

「ねぇ、知夏ちゃん」

「ん?」

「今週末から合宿なんだ」

知夏はパンを咀嚼しながら首を傾げた。

「……合宿?」

「うん」

奈緒は頷く。

「ゴールデンウィークに入るし、
インターハイ予選まであと一か月しかないから。
一気に詰めていかないと厳しいかなって」

その頃――。

男子バスケ部では、合宿に部費が一切出ない
という現実を突きつけられた花園兄弟たちが、

「どうせなら海だ!」

「バカンスだ!」

などと騒ぎながら、朝から授業を抜け出して
アルバイトに励んでいることを、奈緒はまだ知らない。

「それ、先輩たち受け入れてくれたんだ?」

「もちろん」

迷いのない返事だった。

「そっか」

知夏はパンをもう一口頬張る。

「本当に真面目にやるつもりなんだね」

奈緒は嬉しそうに笑った。

「初心者は安原先輩と茶木先輩、
それから鍋島先輩の三人。

千秋先輩と百春先輩は経験者で、
空くんとトビくんを入れて七人なんだ」

「七人かぁ」

知夏は少し考える。

「奇数じゃ、ろくなゲーム練習できないね」

「そうなんだよね」

奈緒は苦笑した。

「女子は合宿ないの?」

「ないない」

知夏はあっさり答える。

「家族旅行行くとか、遊ぼうとか、
そんな話ばっか聞いてる」

「知夏ちゃんは?」

「あたし?」

知夏はパンを食べ終え、紙袋を丸める。

「親父の店番かな。

 あとは適当に過ごす」

「……」

奈緒は何も言わず、じっと知夏を見つめた。

「……」

「……」

知夏は視線を合わせる。

「手伝えって?」

「ま、まだ何も言ってないよ」

奈緒はとぼけたように答えた。

「顔に書いてある」

知夏が苦笑した、その時だった。

「合宿来てくれるの!?」

「「わあっ!」」

真横から飛んできた大きな声に、
二人は揃って肩を跳ね上げた。

そこには、満面の笑みを浮かべた空が立っている。

「びっくりした…!」

奈緒は胸を押さえた。

「いきなり大声出さないでよ」

知夏は空に注意をする。

「ご、ごめん!」

空は慌てて謝って頭を掻いた。

「話が聞こえちゃって、つい!」

頭を上げるなり、目を輝かせた。

「それより、合宿来てくれるの!?」

「んー……」

知夏は頬をかきながら少し考える。

「奈緒が心配だしなぁ」

「広末さんが来てくれたら四対四できるじゃん!」

空はぐっと身を乗り出した。

「来てよ!

 来て来て来て!」

勢いに押され、知夏は思わず片手を前へ出す。

「はい、待て。」

犬を制するような仕草だった。

空はぴたりと止まる。

「落ち着け」

知夏は笑いをこらえながら言う。

「一応、親父には確認させて。

GWは店を手伝う代わりに
お小遣いもらう約束してるから。」

「うん!」

空は素直に頷く。

「分かった!」

そして奈緒の方を向き、嬉しそうに笑った。

「良かったね、七尾さん!」

「うんっ。」

二人とも、すっかり
知夏が参加するものだと思っている。

「だから、まだ決まってないって。」

知夏は呆れたように笑った。

けれど、その日の夕方。

店番を終えて事情を話すと、
父はあっさり笑って言った。

『たまには高校生らしいことしてこい。
店なら何とかなる。』

その一言で、知夏のゴールデンウィークの予定は
決まった。

こうして広末知夏は、半ば流されるような形で、
男子バスケットボール部の合宿へ参加することになった。





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