Premonition
▽
翌朝。
まだ空気の冷たい早朝、
知夏は大きなあくびをしながら、
男子バスケットボール部と奈緒、
マドカと一緒に学校の外周を走っていた。
「な……奈緒ちゃん……なんであたしまで……」
「ほんとだよぉ……」
知夏とマドカは息を切らしながら
恨めしそうに奈緒を見る。
しかし、
「だって走ると気持ちいいじゃないですか!」
そう言っている奈緒が、一番最初にバテた。
「はぁ……はぁ……」
「奈緒ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
マドカは奈緒に付き添うため、
そのままペースを落として後方へ離脱した。
「……え。」
取り残された知夏は、
男子バスケ部の後ろを走るしかなくなる。
「はぁ……はぁ……!」
(走る練習が一番嫌いなのに……
奈緒の馬鹿……!)
心の中で悪態をつきながら走っていると、
隣に人影が並んだ。
「なんじゃ。
手抜きが好きなんじゃなかったんか。」
ペースを落としたトビだった。
「勘違いしないで欲しいんだけど……!」
知夏は息を荒くしながら言い返す。
「試合で手なんか抜いた事ないよ。あんたは例外。
あたしはこーいう地味な練習が嫌いなだけ!」
トビは前を向いたまま口を開く。
「いくらセンスあっても、
走り切れなきゃ意味ないの。」
「人の事言えんの……?」
知夏はすぐに言い返す。
「インターハイ行けるなら、
なんだってやったるわ。」
真っ直ぐ前だけを見つめるトビ。
その視線の先には、必死に走る仲間たちがいる。
(……こいつ、まじか。)
寄せ集めのチームで、本気で
インターハイを目指している。
知夏には、その考えがあまりにも無謀に思えた。
「だったら強豪校行けばいいじゃん。」
率直な疑問だった。
トビは迷いなく答える。
「わしはここしかないんじゃ。」
「ふーん。」
知夏は興味なさそうに返事をする。
しかし、ランニングしながら息を切らしつつも
普通に会話を続けられている知夏に、
トビは少し不服そうだった。
◇
ランニングが終わる頃には、全員汗だくだった。
知夏も息を整えながら柔軟を始める。
男子は休む間もなく次のメニューへ移る。
シャトルラン。
知夏とマドカはタッチ役として
ラインの両端に立った。
「きゃー! 突っ込まないでよ!」
止まりきれなかった茶木と鍋島が、
そのままマドカへ突っ込んでしまう。
「わ、わりぃ!」
「すんません!」
二人は慌てて身体を起こした。
一方、空、トビ、百春はライン際で
ピタリと止まり、
その反動を利用して一瞬で切り返す。
シューズが「キュッ」と床を鳴らし、
そのまま反対方向へ走り出した。
千秋に限っては、女子にタッチする
というだけでどこか嬉しそうだった。
「ぜー、はー……なんで……
止まるだけで上手くいかねーんだ?」
茶木が膝に手をつきながら呟く。
「僕が見本見せてあげます!」
空が元気よく手を挙げる。
軽快なフットワークを披露すると、
「あーしてこー! そしてこーです!」
「あーとかこーとかじゃ全然わかんねーよ!」
安原がすかさずツッコミを入れた。
その様子を見ていたトビが前へ出る。
「膝とつま先があってないからじゃ。
早く回れんかったり上手く止まれんのは、
足に正確に力が伝わらんから踏ん張れんのじゃ。
膝の向きがズレたり前に出すぎたらすぐ修正する。
ターンは母趾球に体重乗せるんじゃ。
ゆっくりやるとこんな感じじゃ。」
説明しながら、トビはゆっくりと見本を見せる。
「おー、わかりやすい。さすが誰かとは違うな。」
安原が感心すると、
「えぇっ!?」
空がショックを受けた。
「ほしたら、もっぺん最初っから――」
トビがそう言った、その時だった。
「ちょ、ちょっとたんま!
少し休憩させてくれ!!」
茶木が慌てて手を挙げる。
「何言うとんじゃ、これくらいで……。」
トビは呆れた表情になる。
「足が痛くて走れねーんだよ……。」
「ちょっと見せて下さい。」
奈緒がしゃがみ込み、茶木の足を診る。
目立った異変はない。
しかし、疲労骨折につながる危険もある。
「わかりました。
二人はコートの外で休んでて下さい。」
「おお! やりぃ!!」
茶木と鍋島は嬉しそうに顔を見合わせる。
「ただし……。」
奈緒はそう言いながら、二人へボールを手渡した。
「?」
「今休んでていいって……」
困惑する二人に、奈緒は微笑む。
「ええ、休んでて構いませんから。
ボールをつまんだり、弾いたり。
とにかくずっと触ってて下さい。」
二人は不思議そうな顔をしながらも、
座ってボールをつまんだり弾いたりし始める。
その様子を見つめていた知夏は、
ふと視線を細めた。
胸の奥を、言いようのない嫌な予感がよぎる。
――その予感は、すぐに現実となるのだった。
△
>翌朝。
まだ空気の冷たい早朝、
知夏は大きなあくびをしながら、
男子バスケットボール部と奈緒、
マドカと一緒に学校の外周を走っていた。
「な……奈緒ちゃん……なんであたしまで……」
「ほんとだよぉ……」
知夏とマドカは息を切らしながら
恨めしそうに奈緒を見る。
しかし、
「だって走ると気持ちいいじゃないですか!」
そう言っている奈緒が、一番最初にバテた。
「はぁ……はぁ……」
「奈緒ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
マドカは奈緒に付き添うため、
そのままペースを落として後方へ離脱した。
「……え。」
取り残された知夏は、
男子バスケ部の後ろを走るしかなくなる。
「はぁ……はぁ……!」
(走る練習が一番嫌いなのに……
奈緒の馬鹿……!)
心の中で悪態をつきながら走っていると、
隣に人影が並んだ。
「なんじゃ。
手抜きが好きなんじゃなかったんか。」
ペースを落としたトビだった。
「勘違いしないで欲しいんだけど……!」
知夏は息を荒くしながら言い返す。
「試合で手なんか抜いた事ないよ。あんたは例外。
あたしはこーいう地味な練習が嫌いなだけ!」
トビは前を向いたまま口を開く。
「いくらセンスあっても、
走り切れなきゃ意味ないの。」
「人の事言えんの……?」
知夏はすぐに言い返す。
「インターハイ行けるなら、
なんだってやったるわ。」
真っ直ぐ前だけを見つめるトビ。
その視線の先には、必死に走る仲間たちがいる。
(……こいつ、まじか。)
寄せ集めのチームで、本気で
インターハイを目指している。
知夏には、その考えがあまりにも無謀に思えた。
「だったら強豪校行けばいいじゃん。」
率直な疑問だった。
トビは迷いなく答える。
「わしはここしかないんじゃ。」
「ふーん。」
知夏は興味なさそうに返事をする。
しかし、ランニングしながら息を切らしつつも
普通に会話を続けられている知夏に、
トビは少し不服そうだった。
◇
ランニングが終わる頃には、全員汗だくだった。
知夏も息を整えながら柔軟を始める。
男子は休む間もなく次のメニューへ移る。
シャトルラン。
知夏とマドカはタッチ役として
ラインの両端に立った。
「きゃー! 突っ込まないでよ!」
止まりきれなかった茶木と鍋島が、
そのままマドカへ突っ込んでしまう。
「わ、わりぃ!」
「すんません!」
二人は慌てて身体を起こした。
一方、空、トビ、百春はライン際で
ピタリと止まり、
その反動を利用して一瞬で切り返す。
シューズが「キュッ」と床を鳴らし、
そのまま反対方向へ走り出した。
千秋に限っては、女子にタッチする
というだけでどこか嬉しそうだった。
「ぜー、はー……なんで……
止まるだけで上手くいかねーんだ?」
茶木が膝に手をつきながら呟く。
「僕が見本見せてあげます!」
空が元気よく手を挙げる。
軽快なフットワークを披露すると、
「あーしてこー! そしてこーです!」
「あーとかこーとかじゃ全然わかんねーよ!」
安原がすかさずツッコミを入れた。
その様子を見ていたトビが前へ出る。
「膝とつま先があってないからじゃ。
早く回れんかったり上手く止まれんのは、
足に正確に力が伝わらんから踏ん張れんのじゃ。
膝の向きがズレたり前に出すぎたらすぐ修正する。
ターンは母趾球に体重乗せるんじゃ。
ゆっくりやるとこんな感じじゃ。」
説明しながら、トビはゆっくりと見本を見せる。
「おー、わかりやすい。さすが誰かとは違うな。」
安原が感心すると、
「えぇっ!?」
空がショックを受けた。
「ほしたら、もっぺん最初っから――」
トビがそう言った、その時だった。
「ちょ、ちょっとたんま!
少し休憩させてくれ!!」
茶木が慌てて手を挙げる。
「何言うとんじゃ、これくらいで……。」
トビは呆れた表情になる。
「足が痛くて走れねーんだよ……。」
「ちょっと見せて下さい。」
奈緒がしゃがみ込み、茶木の足を診る。
目立った異変はない。
しかし、疲労骨折につながる危険もある。
「わかりました。
二人はコートの外で休んでて下さい。」
「おお! やりぃ!!」
茶木と鍋島は嬉しそうに顔を見合わせる。
「ただし……。」
奈緒はそう言いながら、二人へボールを手渡した。
「?」
「今休んでていいって……」
困惑する二人に、奈緒は微笑む。
「ええ、休んでて構いませんから。
ボールをつまんだり、弾いたり。
とにかくずっと触ってて下さい。」
二人は不思議そうな顔をしながらも、
座ってボールをつまんだり弾いたりし始める。
その様子を見つめていた知夏は、
ふと視線を細めた。
胸の奥を、言いようのない嫌な予感がよぎる。
――その予感は、すぐに現実となるのだった。
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