人形は夢を見ない
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洋館の一室で、
エレナは静かに古書を読んでいた。
難しい言葉ばかりで、
内容はよく分からない。
ただ、
何もすることが無いから
文字を追っているだけ。
ページを捲る音だけが、
静かな部屋へ小さく響いていた。
その時だった。
遠くから、
激しい足音が近づいてくる。
次の瞬間。
――バンッ!
勢いよく扉が開かれた。
「エレナー!聞いてー!
今日面白いエクソシストと、
可愛いエクソシストがいたのー!」
無邪気な大声が部屋いっぱいに響く。
入ってきたのは、
ロード・キャメロット。
その後ろから、
慌てた様子のレロも続いて入ってくる。
「ロードたま!
部屋に入る時はまずノックしないと!」
レロが慌てて注意すると、
ロードはけらけら笑った。
「家族なんだからいいでしょー!」
そう言いながら、
そのままエレナの膝へ身体を預けるように座る。
エレナは少しだけ目を瞬かせた後、
静かな声で呟いた。
「……ロード、
おかえりなさい」
自然と出た言葉だった。
ロードは嬉しそうに振り返る。
「ただいまー!」
エレナはロードの柔らかな髪へ、
そっと手を添える。
静かに撫でる指先。
ロードは気持ち良さそうに笑った。
「今日ね、
イノセンスが影響してるっぽい町に行ったの!」
楽しそうに話しながら、
ロードは足をぱたぱた揺らしている。
「そしたらエクソシストがいてさぁ、
一人は女の子で、黒髪がすっごく綺麗で、
可愛かったから眠らせて、
エレナみたいなお人形さんに着飾ってあげたの!」
嬉しそうな声。
けれど話している内容は、
酷く歪んでいる。
それでもエレナは、
特に疑問も抱かず小さく頷いた。
「……うん」
ロードは満足そうに笑う。
「それでねぇ、
もう一人は男の子なんだけど、
エクソシストなのにAKUMAに呪われてたの!」
ロードは身振りを交えながら続ける。
「左目でAKUMAと人間を
見分けられるみたいなんだけど、
僕達ノアは人間半分ノア半分だから、
よく分かんないみたい!」
楽しそうな声音。
まるで面白い玩具の話でもするみたいだった。
「呪われてて可哀想だったから、
左目潰しちゃった」
ころころと笑いながら、
ロードはエレナを見上げる。
けれどエレナは、
その残酷さにも表情を変えない。
ただ静かに、
ロードの頭を撫で続けていた。
「でも、
街全体の時間を巻き戻すイノセンスは、
適合者に渡っちゃってさー」
ロードは唇を尖らせる。
「エクソシスト達、
また元気になっちゃったから、
やばいと思って逃げてきちゃった」
少し不満そうに前を向くロードへ、
レロが呆れた声を上げた。
「ロードたまが油断するからレロ」
「お前、
調子乗ると壊すよ?」
ロードは笑顔のままレロを脅す。
レロは慌てて黙り込んだ。
部屋へ、
短い沈黙が落ちる。
ロードはふと、
エレナを見上げた。
けれどエレナの表情は、
何も変わっていない。
ただ静かに、
ロードの髪を撫でているだけ。
ロードは少しだけ目を細めた後、
ふいに言った。
「そのAKUMAに呪われたエクソシストね、
アレン・ウォーカーっていうんだよ」
その言葉と共に、
ロードはエレナの膝から降りる。
「……アレン…・ウォーカー…」
エレナは小さくその名を繰り返した。
そして、
ロードへ触れていた手を静かに下ろし、
両手を膝の上へ揃える。
AKUMAに呪われたエクソシスト。
その左目には、
どれほどの悲劇が刻まれているのだろう。
人間は死を受け入れられない。
だからAKUMAが生まれる。
やはり人間は、
醜く愚かだった。
悲しみを埋めるために、
死者を引き止める。
きっとその少年も、
その愚かさの中にいるのだろう。
窓の外では、
欠けた月が静かに夜を照らしていた。
まるで、
夢を見ない人形を見下ろすみたいに。
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