騒がしい来訪者
🌙
エレナは洋室のウィングチェアに腰掛け、
何をするでもなく窓の外を眺めていた。
今日は千年伯爵も、
ロードも、
ティキもいない。
静かな洋館。
時計の針が進む音だけが、
微かに聞こえていた。
エレナはただ、
その時間の流れを見つめている。
すると。
廊下の向こうから、
騒がしい足音が響いた。
バタバタと走る音。
何かが倒れる音。
誰かが笑う声。
その全てが真っ直ぐこちらへ近付いてくる。
次の瞬間。
バァン!
扉が勢いよく開いた。
「いた!」
「ヒヒッ!いたな!」
飛び込んできたのは、
派手な格好をした男が二人。
黒髪の男と、
金髪の男。
どちらも額には十字の聖痕が浮かんでいる。
エレナは驚くこともなく、
ゆっくり視線だけを向けた。
「お前が新しい仲間のエレナか」
「ヒヒッ!第7使徒のマーシーマ!」
黒髪の男は当然のようにエレナが座る
ウィングチェアの肘掛けに腰掛け、
肩へ腕を回す。
金髪の男は反対側から顔を覗き込んだ。
「マジで人形みてぇ」
「ヒヒッ!置物かと思った!」
二人は好き勝手言う。
エレナは少しだけ瞬きをした。
「……二人は?」
その一言に。
「喋った!」
「ヒヒッ!喋ったよ!」
二人は同時に半歩飛び退いた。
まるで本当に人形が動き出したみたいに。
「なぁ、飯食うのか?」
「寝るのか?」
「ヒヒッ!瞬きする?」
「風呂入る?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問。
エレナは一つ一つに答える。
「食べる」
「寝る」
「瞬きもする」
「お風呂も入る」
「当たり前だろ!」
「ヒヒッ!人間みたい!」
二人は大笑いした。
エレナは静かに首を傾げる。
自分は人間だったはずだ。
その反応の意味はよく分からない。
「俺はデビット」
黒髪の男が言う。
「こっちがジャスデロ」
「ヒヒッ!」
「二人合わせて」
「ジャスデビ!」
声が揃う。
それだけで本人達は満足そうだった。
「第10・11使徒『絆』のノアだ」
「ヒヒッ!よろしく!」
エレナは小さく頷いた。
「そう」
「え、それだけ?」
「ヒヒッ!薄い!」
二人は顔を見合わせる。
期待していた反応ではなかったらしい。
しばらく騒いだ後、
デビットは大きくため息を吐いた。
「つまんねぇ奴」
「ヒヒッ!静かすぎ!」
それでも二人は帰らない。
勝手に部屋を歩き回り、
勝手に本棚を覗き、
勝手に窓の外を見る。
静寂だった部屋は、
もう元には戻らなかった。
しばらくして。
ふと。
エレナは二人を見た。
黒髪と金髪。
違う顔。
違う声。
違う性格。
それなのに。
どこか一つの生き物みたいだった。
エレナはぽつりと呟く。
「……二人は仲良いね」
部屋が静かになった。
ジャスデロが瞬きをする。
デビットが眉を上げる。
そして。
「当たり前だろ」
デビットは笑った。
「ヒヒッ!」
ジャスデロも笑う。
「俺達は二人で一人だからな」
「ヒヒッ!そういうこと!」
二人は当然のように言った。
エレナはその言葉を静かに聞いていた。
二人で一人。
自分には分からない感覚だった。
窓の外では、
曇り空の隙間から少しだけ光が差している。
騒がしい来訪者達の笑い声は、
しばらく洋館の中へ響き続けていた。
.