死者の名前
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千年伯爵の闇が街を覆い尽くす。
エレナが最後に見たのは、
こちらを見つめるリナリー・リーの姿だった。
そして視界が黒に染まる。
次の瞬間には、
方舟の白い街へ戻っていた。
「なーんで邪魔するんすか千年公ー」
エクソシストと暴れていたティキは、
煙草を吸いながら千年伯爵に首根っこを掴まれ、
肩を落として引きずられていた。
「オ遊ビハ終ワリナノデス♡」
「お、じゃあ引越し終わった感じ?」
「アトハダウンロードヲ待ツダケデス♡
マダ仕事ガ残ッテイルノデ片付ケテ下サイ」
伯爵は振り返る。
貼り付いたような笑顔。
けれどその声には僅かな愉悦が滲んでいた。
「アレン・ウォーカーハ生キテイマス♡」
その言葉に。
ティキの足が止まった。
「……は?生きてたあ!?」
珍しく間の抜けた声だった。
伯爵は楽しそうに笑う。
「死ンデイマセンデシタ♡」
「いや待て」
ティキは眉を顰める。
「俺は確かに殺したぞ」
中国の竹林の中で
自らの手で。
アレン・ウォーカーの胸を貫いた。
イノセンスも破壊したはずだった。
「ソレガ生キテイルノデス♡」
伯爵は嬉しそうだった。
まるで面白い玩具を見つけた子供のように。
「イノセンスモ破壊出来テイマセン♡」
ティキは煙草を取り出そうとして、
やめた。
珍しく動揺していた。
「……意味が分からねぇ」
自分の攻撃を受けて生きている人間などいない。
ましてイノセンスも無事だという。
そんな話は聞いたことがなかった。
伯爵は笑っている。
ロードなら喜びそうだ。
ジャスデビなら騒ぎそうだ。
けれどティキは面白くなさそうに舌打ちした。
その後ろを歩いていたエレナは、
静かに呟く。
「……アレン・ウォーカー」
誰にも聞かせるつもりのない声だった。
けれどティキの耳には届いたらしい。
エレナの方に視線を向ける。
「知ってんのか?」
エレナは少し考える。
知っていると言うほどではない。
会ったこともない。
顔も知らない。
ただ。
名前だけは聞いたことがあった。
「ロードが言ってた」
エレナは答える。
「AKUMAに呪われているエクソシスト」
ティキは一瞬だけ目を細めた。
「あぁ」
確かにそんな説明だったかもしれない。
ロードらしい覚え方だ。
エレナはそれ以上何も言わない。
ただ静かに歩き続ける。
死んだはずのエクソシスト。
アレン・ウォーカー。
何故かその名前だけは、
記憶の中に残っていた。
白い街を歩く足音だけが、
静かに響いていた。
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