終焉の居場所


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ロードに手を引かれるまま、
エレナは黒い空間の裂け目を潜った。

足元がふわりと浮く感覚。

冷たい闇。

次の瞬間、
エレナの視界へ暖かな灯りが広がる。

そこは古びた洋館の一室だった。

重厚な木製のテーブル。

薄暗いシャンデリア。

窓の外では、
まだ雨が降り続いている。

丸い食卓を囲むように、
二人の男が座っていた。

一人は、
貼り付けたような笑顔を浮かべた、
ふくよかな体型の道化師。

大きなシルクハットに、裂けるような笑顔。

そしてもう一人。

同じくシルクハットを被り、
黒い紳士服を纏った褐色の男。

気怠げに椅子へ腰掛け、
片手でグラスを弄んでいた。

「エレナはここ座ってねー」

ロードが椅子を引く。

エレナは言われるまま、
静かに腰を下ろした。

その瞬間。

貼り付けた笑顔の道化師が、
ぱっと嬉しそうに手を広げる。

「アナタガ第7使徒『恤(マーシーマ)』ノ
メモリーヲ持ツ、エレナ・ヴェールデスネ♡」

ふくよかな体型特有の太い声が部屋へ響いた。

「ヨク目覚メマシタ♡」

初めて会うはずなのに。

その声を聞いた瞬間、
エレナの胸の奥が妙に温かくなる。

懐かしい。

そんなはずはないのに。

ここにいる者達を、
ずっと昔から知っているような感覚。

理由もなく、
理解してしまった。

――ここが、
自分の居場所なのだと。

「エレナってば、目覚めて直ぐ
自分を育てた人間を殺しちゃってたんだよー」

ロードは食卓の上へ腰掛け、
足をぶらぶら揺らしながら笑う。

「容赦ないんだから」

責める声音ではなかった。

むしろ、
楽しそうですらある。

エレナは目を伏せる。

灰になった両親の姿が、
まだ瞼の裏へ焼き付いていた。

悲しかったのかも、
分からない。

ただ、
涙だけが零れた。

「ふーん……」

褐色の男が、
エレナをじっと見ている。

気怠げな視線。

けれど、
その奥には鋭さがあった。

「まぁ、この場合エレナって呼んでいいんかな?」

男はゆっくり片手を差し出す。

白い手袋を嵌めたままの手。

「俺ァティキ・ミック。
第3使徒『快楽(ジョイド)』のメモリー持ち。
同じノアだ」

口元だけが少し笑った。

「ヨロシク」

エレナは差し出された手を見る。

少しだけ迷ってから、
そっとその手を握った。

温かい。

その熱が、
妙に印象へ残った。

「エレナは何が好きー?」

ロードが身を乗り出す。

「千年公がエレナの為に
いっぱい作ってくれたんだよー!」

テーブルの上には、
豪華な料理が並んでいた。

大きなグリルチキン。

温かなスープ。

色鮮やかな前菜。

香ばしいパン。

グラスには葡萄ジュース。

食卓には、
暖かな匂いが満ちていた。

「これ千年公が作ったの!?」

ティキが驚いた声を上げる。

グリルチキンをほぐしながら、
半笑いで伯爵を見る。

「愛情タップリ込メマシタ♡」

千年伯爵は胸へ手を当て、
満足げに笑った。

エレナは静かに料理を見る。

好きなもの。

そんなこと、
考えたこともなかった。

屋敷では、
与えられた物を口に運ぶだけ。

美味しいかどうかなど、
気にしたことすらない。

だからロードの問いに、
答えられない。

普通なら、
沈黙は空気を悪くする。

けれど誰も責めない。

ロードは優しく笑い、
伯爵も穏やかな目をしている。

ティキだけが、
まだ観察するようにエレナを見ていた。

エレナは静かにスープへ手を伸ばす。

屋敷で教え込まれた通り、
音を立てず、
ゆっくり口へ運ぶ。

温かく甘い味が広がった。

コーンの香り。

エレナは僅かに瞬きをする。

コーンスープとは、
こういう味だったのかと思う。

特別美味しいのかは、
まだ分からない。

けれど。

エレナはもう一度、
静かにスープへ口をつけた。

その様子を見て。

千年伯爵とロードは、
どこか満足そうに笑った。

まるで、
初めて餌を食べる迷い猫を見守るみたいに。








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