白い光は死を裁く
🌙
街が眠り始める頃だった。
人通りの減った裏路地は薄暗く、
雨の残り香が石壁へ染み付いている。
エレナは静かに歩いていた。
黒いレースの日傘を閉じ、
白い肌を夜へ溶け込ませながら。
すると。
奥から、
人の悲鳴が聞こえた。
掠れた声。
命乞い。
その直後、
鈍い音が響く。
エレナは足を止める。
裏路地の先。
人間の男が、
血を流して倒れていた。
その傍らには、
異形。
人間へ擬態していた皮膚が裂け、
機械的な肉体が露出している。
AKUMA。
低く笑いながら、
まだ息のある女へ近づいていく。
「いや……
いやぁっ……!」
女は壁際へ縋りつき、
涙を流しながら震えていた。
AKUMAが腕を振り上げる。
その瞬間だった。
白い光が走る。
鋭く。
一瞬で。
AKUMAの身体が、
横薙ぎに斬り裂かれる。
黒い血飛沫。
断末魔。
崩れていく肉体。
その瞬間、
エレナの胸へ感覚が流れ込んだ。
終焉。
苦痛。
断絶。
壊れていく。
終わっていく。
頭の奥へ直接押し込まれるみたいに、
AKUMAの“死”が流れ込んでくる。
エレナの頬を、
涙が静かに伝った。
感情だけが置き去りだった。
悲しいのかも分からない。
苦しいのかも分からない。
それでも、
涙だけが零れる。
「……終わったのね」
掠れた声だった。
AKUMAの肉体は灰となり、
夜の空気へ溶けていく。
その向こう。
裏路地の暗がりに、
黒いローブを纏った男が立っていた。
胸元には白い十字架。
男の手には、
白く光る巨大な武器。
その瞬間。
エレナの頭へ、
鋭い痛みが走った。
「……っ……」
息が詰まる。
今まで感じたことのない感覚。
死ではない。
もっと直接的な、
拒絶。
身体の奥で、
何かが激しく軋む。
――イノセンス。
知らないはずの言葉が、
頭の中へ流れ込んできた。
同時に理解する。
自分の中のノアが、
あの光を嫌っている。
本能的に。
まるで、
存在そのものを否定されるみたいに。
エレナは無意識に後退った。
近づきたくない。
触れたくない。
あの白い光が、
酷く恐ろしい。
エレナは初めて知った。
“嫌悪”
という感情を。
男は泣き崩れる女へ背を向け、
静かにその場を去っていく。
エレナへ気づくこともなく。
裏路地には、
雨上がりの冷たい風だけが残った。
エレナは胸元を押さえる。
まだ痛む。
あの白い光を思い出すだけで、
胸の奥が冷えていく。
それでもエレナは、
消えていった灰を静かに見つめていた。
涙だけが、
止まらなかった。
.