白い光は死を裁く


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街が眠り始める頃だった。

人通りの減った裏路地は薄暗く、
雨の残り香が石壁へ染み付いている。

エレナは静かに歩いていた。

黒いレースの日傘を閉じ、
白い肌を夜へ溶け込ませながら。

すると。

奥から、
人の悲鳴が聞こえた。

掠れた声。

命乞い。

その直後、
鈍い音が響く。

エレナは足を止める。

裏路地の先。

人間の男が、
血を流して倒れていた。

その傍らには、
異形。

人間へ擬態していた皮膚が裂け、
機械的な肉体が露出している。

AKUMA。

低く笑いながら、
まだ息のある女へ近づいていく。

「いや……
いやぁっ……!」

女は壁際へ縋りつき、
涙を流しながら震えていた。

AKUMAが腕を振り上げる。

その瞬間だった。

白い光が走る。

鋭く。

一瞬で。

AKUMAの身体が、
横薙ぎに斬り裂かれる。

黒い血飛沫。

断末魔。

崩れていく肉体。

その瞬間、
エレナの胸へ感覚が流れ込んだ。

終焉。

苦痛。

断絶。

壊れていく。

終わっていく。

頭の奥へ直接押し込まれるみたいに、
AKUMAの“死”が流れ込んでくる。

エレナの頬を、
涙が静かに伝った。

感情だけが置き去りだった。

悲しいのかも分からない。

苦しいのかも分からない。

それでも、
涙だけが零れる。

「……終わったのね」

掠れた声だった。

AKUMAの肉体は灰となり、
夜の空気へ溶けていく。

その向こう。

裏路地の暗がりに、
黒いローブを纏った男が立っていた。

胸元には白い十字架。

男の手には、
白く光る巨大な武器。

その瞬間。

エレナの頭へ、
鋭い痛みが走った。

「……っ……」

息が詰まる。

今まで感じたことのない感覚。

死ではない。

もっと直接的な、
拒絶。

身体の奥で、
何かが激しく軋む。

――イノセンス。

知らないはずの言葉が、
頭の中へ流れ込んできた。

同時に理解する。

自分の中のノアが、
あの光を嫌っている。

本能的に。

まるで、
存在そのものを否定されるみたいに。

エレナは無意識に後退った。

近づきたくない。

触れたくない。

あの白い光が、
酷く恐ろしい。

エレナは初めて知った。

“嫌悪”
という感情を。

男は泣き崩れる女へ背を向け、
静かにその場を去っていく。

エレナへ気づくこともなく。

裏路地には、
雨上がりの冷たい風だけが残った。

エレナは胸元を押さえる。

まだ痛む。

あの白い光を思い出すだけで、
胸の奥が冷えていく。

それでもエレナは、
消えていった灰を静かに見つめていた。

涙だけが、
止まらなかった。








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