白い欠片を探して
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異変の噂は、
新聞や風の便りに紛れて流れてくる。
“夜になると白い花が光る”
“触れた者は眠ったまま目覚めない”
“古城へ近づいた人間が帰ってこない”
人間達は恐れながらも、
どこか好奇心混じりに語っていた。
その新聞を、
千年伯爵は楽しそうに広げる。
「コノ異変ハ、
イノセンスノ可能性ガアリマス♡」
洋館の食卓。
エレナは静かに伯爵を見ていた。
「破壊シテキテクダサイ♡」
初めて与えられた、
ノアとしての任務。
エレナは小さく目を伏せる。
すると伯爵は、
笑顔のまま続けた。
「モシ、
エクソシストト遭遇シタラ――」
貼り付いた笑みが、
ゆっくり深くなる。
「殺シテ、
エクソシストノ
イノセンスモ壊スノデス♡」
殺す。
その言葉を聞いても、
エレナの心は揺れなかった。
千年伯爵が言うなら、
従うだけ。
自分達ノアは、
イノセンスを壊し、
世界の終焉を望む存在。
そしてエクソシストは、
それを阻む敵。
ならば殺すことも、
当然なのだと理解していた。
エレナは静かに頷く。
「……分かりました」
伯爵は満足そうに笑った。
「良イ子デスネェ♡」
その傍らで、
ロードはテーブルへ頬杖をつきながら、
じっとエレナを見ている。
ティキは煙草を咥えたまま、
特に口を挟まなかった。
ただ、
金の瞳だけが静かだった。
翌日。
エレナは人間へ紛れ、
汽車へ乗っていた。
白い肌。
黒いドレス。
帽子へ付いた薄いヴェール。
一見すれば、
どこかの貴族令嬢にしか見えない。
車内では人々が、
例の異変について囁き合っている。
「見たか?
あの白い花」
「絶対呪いだよ」
「でも綺麗らしいぜ」
「眠ったまま起きねぇ奴も居るんだろ?」
エレナは黙って窓の外を見る。
流れていく景色。
灰色の空。
雨上がりの湿った森。
やがて遠く、
崖の上へ古城が見えた。
黒く古びた城。
その周囲だけ、
不自然なほど白い花が咲いている。
季節外れの花畑。
まるで、
城そのものが白く侵食されているみたいだった。
エレナは僅かに目を細める。
胸の奥が、
微かにざわついている。
嫌な感覚。
イノセンスが近い。
汽車がゆっくり止まる。
終点だった。
エレナは静かに立ち上がる。
人々のざわめきを背に、
黒い日傘を開いた。
そのまま一人、
古城のある崖へ向かって歩き出す。
白い花弁が、
風に揺れていた。
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