戦火


*





総隊長との話がまとまってから、
決戦の日まではあっという間だった。

藍染惣右介率いる反乱者たちとの決戦に備え、
隊長格は次々とレプリカの空座町へと向かっていく。

その出立を前に、紫乃は雛森に声をかけた。

「桃。正式に許可が下りたよ。
貴女も参戦していいって」

「本当ですか……!」

雛森の顔に、
安堵と決意が入り混じった表情が浮かぶ。

紫乃は小さく頷くと、落ち着いた声音で続けた。

「ただし、奇襲を仕掛けるタイミングは
戦況を見て判断して。そこは貴女に任せる」

「はい」

「それと、これも戦況次第だけど……
私は浮竹隊長のもとへ合流したことを、
ちゃんと伝えておきたい。
だから、ずっと貴女の側についていることは
できないと思う」

事前に伝えておくべきことを、
一つずつ確かめるように告げる。

雛森はしばらく紫乃を見つめていたが、
やがて目線を落とした。

「花房副隊長、ありがとうございます……。
浮竹隊長のお側にいたいはずなのに、
私のために時間を割いてくださって……」

申し訳なさそうな声だった。

紫乃はそんな雛森に、優しく目を細める。

「浮竹隊長なら、京楽隊長も
一緒にいるから大丈夫だよ。
それに、身体の具合が良いからこそ、
今回の参戦を決められたんだもの。
きっと無理はしないはず」

「……はい」

雛森の表情が、ほんの少し和らいだ。

紫乃はそれ以上何も言わず、
彼女の気持ちを汲むように微笑んだ。

「それじゃあ、私たちも向かおうか」

そう言って、紫乃は穿界門へと身体を向ける。

「はい!」

雛森も力強く返事をした。

二人はそれぞれの決意を胸に、
決戦の地であるレプリカの空座町へと向かった。





◇



レプリカの空座町。

護廷十三隊の隊長格が待ち構えるなか、
三つの人影が姿を現した。

藍染惣右介。
市丸ギン。
東仙要。

長らく追い続けてきた反乱者たちを前に、
山本元柳斎重國は目を細めた。

「……フム……どうやら、間に合ったようじゃの」

その言葉に、藍染が薄く笑みを浮かべる。

「間に合った?一体、何を以て
その言葉を口にしている?」

藍染は周囲を見渡すように視線を巡らせた。

「そこにあるのが、
本物の空座町ではないことは分かっている。
だが、それは何の妨げにもなりはしないよ」

そして、静かに呼びかける。

「スターク、バラガン、ハリベル。来るんだ」

藍染の声に応じ、黒腔から三つの影が現れた。

十刃の第一刃、コヨーテ・スターク。
第二刃、バラガン・ルイゼンバーン。
第三刃、ティア・ハリベル。

破格の霊圧を纏う三人が、
藍染たちの背後に並び立つ。

「空座町が尸魂界にあるのなら、
君たちを殲滅し、尸魂界で王鍵を創る。
それだけのことだ」

藍染は、まるで目の前の戦いなど
些細な障害であるかのように言い放った。

対峙する両陣営の間に、凄まじい霊圧が渦巻く。

張り詰めた空気のなか、
護廷十三隊の隊士たちが
それぞれに言葉を交わしていた。

「ちィ……ッ! 相変わらず、
バケモンみてえな霊圧してやがるぜ……」

二番隊副隊長、大前田希千代が顔をしかめる。

「恐ろしければ逃げても構わんぞ。腰抜け」

隣に立つ二番隊隊長、
砕蜂が冷ややかに言い放った。

「なっ……!誰が逃げるっつったんでさァ!」

大前田が慌てて言い返すが、
砕蜂は取り合う様子もない。

一方、七番隊の射場鉄左衛門は、
敵陣を睨み据えながら口を開いた。

「ここは先ず、頭を叩くんが筋ですかいの」

「いや。藍染の能力は特殊だ。
集中して対処するためには、
周囲の敵を先に倒すべきだろう」

七番隊隊長、狛村左陣は冷静に分析する。

「誰が一番強いかな?十刃の三人の中で」

八番隊隊長、京楽春水は、
遍路笠を少し持ち上げながら敵を見つめた。

「難しいな……藍染に訊いてみないことには」

十三番隊隊長、浮竹十四郎が、
どこか気楽な調子で答える。

「問題は、十刃との戦闘中に
藍染が手を出さない保証はねえってことだ」

十番隊隊長、日番谷冬獅郎が険しい表情で告げる。

「……ですね」

副隊長の松本乱菊も、
敵陣から目を離さずに頷いた。

それぞれが敵の力を測り、
戦況を見極めようとしていた。

その中心で、山本総隊長が静かに一歩前へ出る。

「皆、下がっておれ」

威厳に満ちた声が響き、
隊長たちが一斉に身構えた。

山本は杖を手にしたまま、藍染たちを見据える。

やがて、その手が杖の柄を握り直した。

「万象一切灰燼と為せ――『流刃若火』!」

解号とともに、山本が斬魄刀を振るう。

次の瞬間、轟音とともに炎が噴き上がった。

凄まじい熱量を帯びた炎が
藍染、ギン、東仙を包み込み、
三人を取り囲むように燃え盛る。

その炎は、容易に近づくことすら
許さない壁となって、三人の退路を塞いだ。

「城郭炎上。これで暫くは、
藍染たちもこの炎の壁から出られまい」

山本は斬魄刀を杖型の鞘へと収めると、
静かに息をついた。

「さて……ゆるりと潰して征こうかの」

その言葉に、浮竹が目を見開く。

「手荒いな……総隊長……」

「それだけ山じいも、
ご機嫌斜めってことじゃないの?」

京楽は肩をすくめ、
炎に囲まれた藍染たちを眺めた。

しかし、ふと思い出したように
周囲へ視線を巡らせる。

「そういやあ、紫乃ちゃんは一緒じゃないの? 
うちの七緒ちゃんも外にいるけど……」

京楽の問いに、浮竹が答えた。

「ああ。あいつは最後の仕事を
終えてから合流するよ」

「へえ。まだ仕事が残ってるんだ」

「今回の戦いに向けて、
雛森の指導をしていたからな。
あいつには、最後まで責任を持って
見届けたいことがあるんだろう」

浮竹はそう言って、
炎の向こうにいる藍染たちへと目を向けた。

やがて来る戦いの行方を、誰も知る由はない。

ただ一つ確かなのは、
ここから先に待ち受けるのが、
尸魂界の命運を懸けた決戦だということだった。







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