戦場へ


*





炎に囲まれた藍染たちをよそに、
十刃の一人が落ち着き払った様子で口を開いた。

「……さァて、どうしたもんかのォ。
敵は山程。ボスはあのザマだ」

老人のような姿をした破面
――バラガン・ルイゼンバーンは、
面倒そうにため息を吐いた。

「藍染様に口が過ぎるぞ、バラガン!」

咎めるように声を上げたのは、
女の十刃、ティア・ハリベルだった。

「お前は儂に口が過ぎるぞ、ハリベル」

バラガンは悪びれる様子もなく言い返すと、
指を鳴らした。

その音を合図に、
配下の破面がすかさず椅子を運んでくる。
バラガンは当然とばかりに深く腰掛け、脚を組んだ。

その姿は、まさしく王そのものだった。

「……ボスが身動き取れん以上、
儂が指令を出させてもらう! 
文句は言わせんぞ!」

堂々と宣言するバラガンに、
スタークが気のない声で応じた。

「いいんじゃねえの……」

次の瞬間、背後から蹴りが飛んできた。

「痛ッ!何すんだよ、リリネッ……痛い!!」

スタークが振り返ると、
そこには不満を露わにした
リリネットが立っていた。

「いいわけないだろ! 
何へらへらしてんだよ!!」

「……ったく、うるせえなァ」

スタークは面倒くさそうにぼやいたが、
リリネットは納得がいかないらしく、
なおも彼を睨みつけていた。

そんな二人のやり取りを気に留めることもなく、
バラガンは眼前に広がる街へと視線を向けた。

「……足下の重霊地。偽物じゃと言ったな。
尸魂界で造った模造品と入れ替えた、と」

低く、しゃがれた声が続く。

「ボスは尸魂界まで侵攻して
重霊地を手に入れればよいと言っておったが……
果たして、そんな面倒をする必要があるかの?」

バラガンは目を細めた。

「さっきの話じゃ、全て理屈だ。
この街の四方に柱を立て、
その柱の力で街ごと入れ替えた。
だったら、その柱を壊せばどうなる?」

そこで一度言葉を切り、配下の名を呼ぶ。

「フィンドール!」

「はっ!」

返事とともに、上空から虚が飛来した。

四体の虚は、それぞれがレプリカ空座町を支える
四本の柱へと降り立つ。
柱を破壊するための襲撃だった。

「柱の場所は判っとる。こういうもんは、
東西南北四方の端に造るのが定石じゃ」

バラガンは余裕たっぷりに言い放った。

しかし、その言葉を聞いた山本元柳斎重國は、
間髪入れずに一喝した。

「莫迦者めが」

次の瞬間、四本の柱に降り立った虚たちが、
ほぼ同時に吹き飛ばされた。

柱を守るように配置されていた死神たちが、
それぞれの敵を迎え撃ったのだ。

「そんな大事な場所に、
誰も配備せん訳があると思うか。
ちゃんと腕利き共を置いてあるわい」

山本は、さも当然だと言わんばかりに言い放つ。

四本の柱を守っていたのは、
九番隊副隊長・檜佐木修兵、
三番隊副隊長・吉良イヅル、
十一番隊三席・斑目一角、
そして十一番隊五席・綾瀬川弓親だった。

いずれも、
柱を守る役目を担うに足る実力者である。

だが、バラガンは動じなかった。

「……ふん。兵隊が四体。それがどうした?」

鼻を鳴らし、王座に腰掛けたまま、
配下へと命じる。

「四匹の蟻が守る柱なら、
四匹の龍で踏み潰せばいい。
ポウ、クールホーン、アビラマ、フィンドール。潰せ」

「はっ! 陛下の仰せのままに!!」

四体の従属官が一斉に動き出す。

それぞれが柱を守る死神たちのもとへと向かい、
戦いの火蓋が切られた。





結果は、三勝一敗。

檜佐木、吉良、弓親が
それぞれの敵を退けた一方で、
十一番隊三席の一角は、
解放したポウの圧倒的な力の前に敗れた。

柱の一本が破壊され、
レプリカ空座町を支える結界に異変が生じる。

しかし、事態はそこで終わらなかった。

すぐさま射場鉄左衛門が柱の修復に取りかかり、
街の回帰が進行するのを食い止める。
小さな柱を新たに立てることで、
結界は辛うじて維持されたのだ。

そして、一角を倒したポウの前に、
七番隊隊長・狛村左陣が立ちはだかった。

「……貴様は私が相手をしよう」

狛村の声は低く、静かな怒りを帯びていた。

次の瞬間、彼の斬魄刀が振り下ろされる。

「卍解――『黒縄天譴明王』!」

巨大な鎧武者が出現し、
その圧倒的な力をもってポウを打ち倒した。

副隊長格と隊長格。
その間に横たわる実力の差は、
あまりにも明白だった。

柱を巡る攻防が決着したことで、
護廷十三隊の隊長たちも本格的に動き出す。

山本元柳斎重國が、
戦場全体に響き渡る声で号令を下した。

「……さて、漸く本番かの」

その眼差しが、敵陣を鋭く射抜く。

「かかれ!!全霊を賭して、ここで叩き潰せ! 
肉裂かれようと、骨の一片まで鉄壁とせよ!! 
奴等に尸魂界の土を一歩たりとも踏ませてはならぬ!」

その号令を合図に、
護廷十三隊と十刃の戦いが本格的に始まった。

それぞれの場所で、死神たちと破面が激突する。

凄まじい霊圧がぶつかり合い、
剣戟と轟音がレプリカ空座町を揺るがした。

その戦況は、少し遅れて戦場へと向かう
紫乃たちにも伝えられていた。





◇



レプリカ空座町の結界付近。

戦場から離れた場所で待機していた紫乃と雛森は、
戦闘開始の報せを受けると、
すぐさま合流の準備を整えた。

結界の外には、山本総隊長の指示に従い、
隊士たちの出入りを管理する雀部長次郎の姿があった。

「雀部副隊長!」

紫乃が声をかけると、
雀部は二人の姿を認め、静かに頷いた。

「花房副隊長、雛森副隊長!こちらから!」

彼が示した場所から、
紫乃と雛森は戦場へと足を踏み入れた。

途端に、無数の霊圧が肌を刺す。

死神と破面。
入り乱れる霊圧の強弱と位置を瞬時に読み取り、
紫乃は戦場全体の状況を把握していった。

戦況はすでに動き始めている。

あちこちで激しい戦闘が繰り広げられ、
隊長格と十刃の霊圧が
ひときわ強くぶつかり合っていた。

紫乃は周囲を見渡し、雛森へと視線を向ける。

「桃。乱菊のところに従属官が三体。
お願いしていい?」

松本乱菊と、その前に立ちはだかる三体の従属官
――アパッチ、ミラ・ローズ、スンスン。

三人の霊圧を捉えた紫乃は、
雛森にその場を任せることにした。

「はい!」

雛森は迷うことなく返事をすると、
乱菊のもとへ向かうべく駆け出した。

その背中を見送り、
紫乃は別の霊圧へと意識を向ける。

「浮竹隊長は、あそこか……」

よく知る霊圧を捉え、
紫乃は進むべき方向を定めた。

今、自分が合流すべき相手は決まっている。

紫乃は瞬歩で浮竹十四郎のもとへと向かった。






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