不安
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紫乃から阿散井恋次を託された吉良は、
彼を救護舎へ運び込んだ。
ほどなくして連絡を受けた雛森も駆けつける。
寝台に横たわる恋次の姿を目にした瞬間、
雛森の顔から血の気が引いた。
「そんな……!」
副隊長である阿散井が、旅禍との戦いに敗れた。
その事実が、すぐには受け入れられなかった。
「花房さんが駆け付けた頃には、
もうこの状態だったらしい……。
花房さんは旅禍を捜索している。
僕も、もっと早く見つけて
戦いに加勢していれば……」
吉良は恋次を見つめたまま、悔しそうに拳を握る。
「ううん…そんなの……吉良くんのせいじゃ……」
雛森は小さく首を振った。
「……ともかく、四番隊に連絡するよ。
上級救護班を出してもらおう」
そう言って吉良が出口へ身体を向けた、
その時だった。
「その必要は無い」
冷たく、凛とした声が室内に響いた。
襖の向こうから姿を現したのは、
六番隊隊長・朽木白哉だった。
白哉は寝台に横たわる恋次を一瞥すると、
淡々と告げる。
「牢に入れておけ」
「朽木隊長……!」
吉良は思わず声を上げた。
あまりにも厳しい判断だった。
雛森も恐る恐る口を開く。
「そ…そんな……阿散井くんは一人で
旅禍と戦ったんです……それなのに……」
しかし、白哉は一切耳を貸さない。
「言い訳など聞かぬ。
一人で戦いに臨むということは、
決して敗北を許されぬということだ。
それすら解らぬ愚か者に用など無い」
淡々とした声音には、情の入り込む余地がない。
「目障りだ。早く連れていけ」
そう言い残し、白哉は背を向ける。
「ちょ……ちょっと待って下さい!!
そんな言い方って……!」
雛森が思わず一歩踏み出した。
「よせ!」
吉良が大声で制した。
「だって、吉良くん……!」
「申し訳ありませんでした!」
雛森の言葉を遮るように、吉良は深く頭を下げた。
その姿を見て、雛森も渋々ながら頭を下げる。
隊長と副隊長。
その立場の差は明確だった。
どれだけ納得がいかなくても、
隊長の判断に逆らえば処罰を受ける可能性すらある。
それが、護廷十三隊という組織だった。
「おーこわ!」
重く張り詰めた空気を吹き飛ばすような、
明るい声が響いた。
白哉と入れ替わるように室内へ入ってきたのは、
市丸ギンだった。
「市丸隊長!」
吉良が驚いて声を上げる。
ギンは去っていく白哉の背中を眺めながら、
いつもの笑みを浮かべた。
「何やろね、あの言い方。
相変わらず怖いなァ、六番隊長さんは」
そして、寝台の恋次へ視線を向ける。
「心配せんでもええよ。
四番隊なら僕が声かけてきたるから」
「……!」
吉良の表情が僅かに緩む。
「ついておいで、イヅル」
「はい!」
吉良はすぐに返事をすると、
ギンの後を追って部屋を出ていった。
「よ……よろしくお願いします!」
雛森は二人に頭を下げた。
やがて二人の姿が見えなくなると、
雛森はゆっくり顔を上げる。
それでも、胸の中には阿散井のことと、
先ほどの白哉の言葉が残っていた。
視線が自然と下へ落ちる。
「おわー!こりゃハデにやられやがったな!
阿散井のヤロー!」
突然、背後から別の声が響いた。
「ふわあっ!?」
雛森は飛び上がるように振り返る。
「ひ……日番谷くん!!」
そこに立っていたのは、
十番隊隊長・日番谷冬獅郎だった。
「オイオイ、オレもう隊長だぜ?
いーのかよ。そんな呼び方で」
「うるさい!もう!どうして隊長さん達はみんな
足音たてずに近くにいるのよっ!!」
雛森は胸を押さえながら言い返す。
「だいたい、日番谷くんがどうして……
どうしてこんな所にいるの?」
親しい間柄だからこそ、
そこには隊長と副隊長という
立場を越えた気安さがあった。
日番谷はそんな雛森を一瞥すると、
先ほどまでとは違う真面目な表情を浮かべた。
「………忠告しに来たんだよ。
三番隊には気をつけな」
「え……三番隊……?」
雛森は目を瞬かせる。
「吉良くんのこと……?なんで?」
「俺の言ってんのは市丸だ」
日番谷は短く答えた。
「吉良もどうだかな。
取り敢えず、気をつけといて損はないぜ」
「そんな……」
雛森は困惑したように眉を寄せる。
日番谷は一度言葉を切った。
「特に――」
その先を口にした時、自分がこの忠告によって
何を招くことになるのか。
この時の日番谷には、まだ知る由もなかった。
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