戦いの後
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藍染を一護に託し、
紫乃は痛む身体を庇いながら、
ギンの亡骸の前で泣き崩れる
乱菊の隣に腰を下ろした。
乱菊の腹部も、止血こそされているものの、
脇腹には深く抉られた傷が残っている。
その身体でここまで走ってきたのだ。
無理をすれば、傷口が再び
開いてもおかしくはなかった。
それでも、乱菊はギンのもとへ
駆けつけずにはいられなかったのだろう。
幼馴染という言葉だけでは片付けられないほど、
深く彼を愛していたのかもしれない。
紫乃はそう思いながら、
静かにギンへと視線を移した。
長い銀色の前髪が顔にかかり、
その表情を窺うことはできない。
彼が最期に何を思い、何を考えていたのか。
それを知る術は、もうなかった。
乱菊は、ギンが何故裏切り、
そして藍染さえも裏切ってまで
何を成し遂げようとしたのか、
聞くことができたのだろうか。
きっと、ギンのことだ。
最後まで何も語らなかったのかもしれない。
紫乃はそれ以上考えることをやめ、
乱菊の隣で静かに目を伏せた。
戦いの終わった場所には、
崩れた建物と瓦礫、
そして血の匂いだけが残されていた。
その静寂の中に、
乱菊の啜り泣く声が途切れ途切れに響く。
それを聞きながら、紫乃の戦いもまた、
終わりを迎えた。
◇
それからしばらくして、
一護と藍染の戦いにも決着がついた。
一護は、最後の月牙天衝と呼ばれる奥義、
無月によって藍染を追い詰めた。
そして、浦原喜助が仕掛けていた封印の鬼道が
発動し、ついに藍染を封じることに成功した。
長きにわたる戦いが終わり、
一護と浦原は戦場となった荒野から、
穿界門のある場所へと歩いてきた。
そこには、紫乃たちがいた。
二人の姿を認めた紫乃は、
痛む身体を押して立ち上がり、駆け寄った。
「一護くん……喜助……!」
紫乃の声に、二人は足を止める。
「紫乃さん、此処にいたんスね」
浦原はそう言って、紫乃の身体に目を向けた。
傷の具合を確かめるように、
その目がわずかに細められる。
しかし、紫乃は自分の傷など
気に留めていなかった。
「藍染は……」
一護へと視線を向け、問いかける。
「浦原さんが封印した」
一護が答えると、浦原は帽子を深くずらし、
目元を隠した。
「いえ……黒崎さんが追い詰めていなければ、
アタシが開発した封印の鬼道も防がれていたでしょう。
黒崎さんの功績っス」
浦原はいつもの調子で、そう謙遜した。
藍染を封じるために、
どれほどの準備を重ねてきたのか。
紫乃には、そのすべてを知ることはできない。
それでも、二人が力を尽くし、
ようやくこの戦いに終止符を打ったことは分かった。
「ギンや乱菊さんは……」
今度は一護が、紫乃の背後へと視線を向けて尋ねた。
紫乃はわずかに振り返り、二人がいる場所を見やった。
「……救護隊が来るまで、
今は二人だけにさせてあげてほしい」
その言葉に、
一護は何かを察したように口を閉ざした。
それ以上、尋ねることはなかった。
しばらくして、一護は浦原へと向き直る。
「じゃあ、俺は現世に戻って、
織姫たちが帰ってくるのを待つよ」
「一人で大丈夫っスか? 死神の力が
弱まっているんじゃないかと思うんスけど」
浦原の言葉に、紫乃は引っ掛かりを覚えた。
「力が弱まってるって……?」
問い返すと、浦原は一護へと視線を向けた。
「黒崎さんは、近いうちに
死神の力を失うことになります。
ですよね?黒崎さん」
「ああ…、最後の月牙天衝は使うと死神の力を失う。
精神世界で斬月から聞いた」と一護は話す。
「そんな……」
紫乃は思わず一護を見つめた。
死神の力を失う。
その言葉が、すぐには現実のものとして
受け止められなかった。
けれど、一護は紫乃の表情とは対照的に、
あっけらかんとした顔で笑った。
「元々、ルキアから貰ったもんだ。
戦いは終わったし、未練はねえよ」
その屈託のない表情に、紫乃の胸が熱くなった。
ふと、海燕の面影が重なる。
失うことを恐れるよりも、今あるものを受け入れ、
前を向こうとする。その真っ直ぐさが、
どこか海燕に似ていた。
紫乃は胸元に手を添え、
込み上げる感情を静かに押し込めた。
その仕草に気づいた浦原が、声をかける。
「……貴方も治療が必要でしょう。
救護隊を呼んできますんで、
此処で待っていてください」
「ううん……私も現世に戻る」
紫乃は首を横に振った。
「無事を確認したい人たちがいるから」
その言葉を聞いた浦原は、一瞬だけ紫乃を見つめた。
それから、彼女が誰のもとへ
向かおうとしているのかを察したように、
静かに頷いた。
「分かりました。なら、
アタシは封印したとはいえ、
藍染を引き渡すまでは彼の側にいます。
お二人で現世に向かってください」
浦原はそう告げると、
二人を見送るように身を引いた。
紫乃は彼を見上げた。
「うん……喜助、最後までありがとう」
百一年前、何も知らされぬまま
罪人として追われた浦原。
彼を救うことも、真実を明らかに
することもできなかった紫乃。
あのときから、数え切れないほどの年月が過ぎた。
失ったものは多く、取り戻せないものもある。
それでも今、目の前には生きている浦原がいて、
藍染との戦いは終わった。
紫乃が見つめる先、
帽子の影に隠れた浦原の表情は、
すべてを見透かしているようでいて、
どこか柔らかかった。
昔と変わらない、穏やかな気配。
それを確かめるように、
紫乃はもう一度、彼の顔を見つめた。
そして静かに踵を返す。
まだ、確かめなければならない人たちがいる。
紫乃は一護と共に、現世へと向かった。
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