宣言
*
その日、瀞霊廷全域に戦時特令が発令された。
副隊長を含む上位席官の廷内における
常時帯刀が許可され、
さらに戦時における斬魄刀の全面解放も
許可される。
これまで護廷十三隊が
厳格に守ってきた規律の一部が、
戦時という理由によって解かれた。
それほどまでに、瀞霊廷は異常事態に陥っていた。
紫乃は十三番隊隊舎へ戻る。
隊舎の前では、
第三席の虎徹清音と小椿仙太郎が待っていた。
紫乃の姿を見つけるなり、清音が駆け寄る。
「花房副隊長!今までどこにいたんですか!」
その問いに答えるより先に、紫乃は二人へ尋ねた。
「清音、浮竹隊長の具合は?」
「はい!今は落ち着いて眠っています」
「そう……」
紫乃は小さく息を吐いた。
眠っているのなら、
今すぐ浮竹へ報告することはできない。
ならば――。
紫乃は清音と仙太郎へ向き直った。
「……じゃあ、代わりに二人には伝えておくね」
いつもと変わらない穏やかな声だった。
しかし、その言葉に二人は自然と姿勢を正した。
紫乃は一度だけ呼吸を整える。
「旅禍の正体は、
ルキアが死神にした現世の人間だった」
清音と仙太郎が目を見開く。
「そして、彼らの目的はルキアの奪還」
そこで一度言葉を切る。
次に告げる言葉は、
二人にとってそれ以上に衝撃的なものになる。
「私は、彼らに協力しようと思う」
「……え?」
清音の声が漏れた。
仙太郎も言葉を失っている。
紫乃は二人の反応を見ながら、
それでも淡々と話を続けた。
「勿論、そうすれば私も
離反した身として罪人になる。
それでも、私はルキアを助けたい」
その言葉には迷いがなかった。
「……私のエゴだよ」
紫乃は静かに笑う。
「十三番隊には苦労を掛けると思う。
でも、私に刀を向けたって構わない」
二人の表情が強張る。
「その時は、迷わず私を止めて」
そして、最後に一番
伝えておきたかったことを口にする。
「浮竹隊長を最優先で動いて欲しい」
紫乃の声は、どこまでも穏やかだった。
それがかえって、彼女が本気で
覚悟を決めていることを二人に伝えていた。
「花房副隊長……!」
清音と仙太郎は驚きを隠せない。
けれど、そこにあったのは
戸惑いだけではなかった。
二人の目には、既に覚悟が宿っている。
そんな二人を見て、
紫乃は安心したように微笑んだ。
「でも、直ぐにとは言わないから」
「……え?」
「何も無ければ、その方が良いんだけどね。
念の為に、事前に報告しておいただけだから」
そして、場の空気を和らげるように続ける。
「安心して。明日は普通に定例会へ出るから」
「……」
二人が固まった。
しばらくして、清音が慌てたように声を上げる。
「あ、当たり前じゃないですか!」
仙太郎も続く。
「紛らわしいこと言わないで下さいよ!」
「ふふ、ごめんね」
紫乃は小さく笑った。
そして、もう一度二人を見つめる。
「うん。でも、浮竹隊長をお願いね」
その声に、二人の表情が引き締まった。
「……何があっても、
お二人とも我々がお守りします!」
清音が力強く言う。
「もちろん、朽木も!」
仙太郎も続けた。
その言葉を聞いて、
紫乃の肩からようやく力が抜けた。
「ありがとう」
紫乃は二人へ微笑む。
「二人とも、頼もしいよ」
それは、長く十三番隊に
身を置いてきた副隊長として。
そして、二人を信頼する上司としての言葉だった。
.