残響
*
「莫迦者……!来てはならぬと言ったはずだ…
あれほど…追ってきたら許さぬと……!
ぼろぼろではないか…莫迦者……!」
一護の姿を目にした瞬間、ルキアの表情が崩れた。
泣き出しそうな顔で、
それでも叱るように声を上げる。
「……まったくだ。
だから、後でいくらでも怒鳴られてやるよ。
あいつを倒した後でな!」
一護はそう言うと、ルキアから白哉へと
身体の向きを変えた。
「い、一護……!」
ルキアが止めようとする。
しかし、一護は振り返らない。
「何だよ?ここまで来て今さら退けとか、
言うんじゃねーだろうな」
一護は刀を握り直した。
「退かねえぞ。冗談じゃねえ。
俺はてめーを助ける為にここまで来たんだ」
そして、振り返ってルキアを睨む。
「てめーがもし、ここで
死刑になりたいって言おうが、
そんなこた知ったこっちゃ無え!
俺はてめーを引きずってでも助け出すぜ!」
「一護……」
「こっから先、てめーの意見は全部却下だ!
わかったか、ボケ!!」
「な……なんだそれは!」
ルキアも負けじと声を張り上げた。
「助けられる側の意志は
全て無視するというのか!?
そんな横暴な助け方があるか!!」
「うるせえ!助けてもらう奴が
ごちゃごちゃ言うな!」
「なっ……!」
「てめーはそれらしくその辺で
ブルブル震えながら、お助けー!!
とか言ってりゃいいんだよ!!」
「誰がそんなことをするか!!」
二人は睨み合う。
緊迫していたはずの空気が、ほんの僅かに緩んだ。
やがてルキアは呆れたように息を吐く。
紫乃は、その様子を静かに見つめていた。
ルキアが、こんな表情をする。
一護と言い合っているその姿は、
紫乃にとってどこか新鮮だった。
そして何より、分かる。
先ほどまで張り詰めていたルキアの表情が、
明らかに和らいでいる。
「……相変わらずだな。
貴様は…相変わらず
私の言うことを少しも聞かぬ……」
ルキアは肩を落とした。
「あたりめーだろ!」
一護は即座に言い返す。
「てめーの言うことは
俺の心配ばっかじゃねえかよ!
こんな時くらい自分の心配してろ!」
そして、不敵な笑みを浮かべる。
「心配すんな!死にゃしねえよ!これでも俺、
ちょっとは強くなったつもりなんだぜ」
その表情を見た瞬間。
紫乃の胸が、僅かに締め付けられた。
――似ている。
その自信に満ちた表情。
それは、かつて紫乃がよく知っていた男の
面影を感じさせた。
ルキアもまた、同じものを感じ取ったのだろう。
そして、紫乃の背後に立つ浮竹も。
「……花房」
浮竹が、ぽつりと声を掛ける。
「……あれは、誰だ?」
紫乃は一護を見つめたまま答えようとする。
「あれは……」
しかし、その言葉を遮るように、
白哉が口を開いた。
「無関係だ」
静かな声だった。
「少なくとも今、兄等の頭を過った男とはな」
紫乃と浮竹が白哉を見る。
白哉は一護から視線を逸らさない。
「奴は何者でもない。ただの旅禍だ」
その言葉には、
どこか言い聞かせるような響きがあった。
「私が消す。それで終わりだ。
この些細な争いのすべてが終わる」
白哉はそう言って、一歩前へ出る。
その背中を見つめながら、紫乃は察した。
――白哉も、同じものを見たのだ。
一護の中に、志波海燕の面影を。
そして、それを否定しようとしている。
「……随分と悠長に構えてるじゃねえか」
一護が白哉へ声を掛ける。
「あんだけルキアと喋ってても、
斬りかかってこねえなんてよ」
その時、一護の視線が白哉の右肩へ移った。
先ほど紫乃が刻んだ傷。
そして、一瞬だけ白哉の後ろにいる
紫乃と目が合う。
一護が何かに気付いたように目を細める。
しかし、白哉が先に口を開いた。
「……誰に向かって口を聞いている」
静かな声。
「私に、貴様如きの隙を衝けと言うのか?
大層な口を利くな、小僧」
その瞬間。
凄まじい霊圧が、一護へ向かって叩き付けられた。
周囲の空気が震える。
それでも一護は、刀を構えたまま退かなかった。
「……ほう」
白哉が僅かに目を細める。
「この霊圧の中で、顔色一つ変えぬか」
一護を見据えながら、淡々と言葉を続ける。
「随分と腕を上げたようだな。
どうやって再び死神の力を
手にしたのか知らぬが……」
白哉の瞳が鋭くなる。
「あのまま現世で安穏と暮らしておれば
良いものを…拾った命を捨てる為に、
こんな所まで来るとはな」
「……捨てに来たつもりは無えよ」
一護は刀を握る手に力を込める。
「あんたを倒して、俺は帰る」
「……大層な口を、利くなと言った筈だ。小僧」
次の瞬間。
白哉の姿が消えた。
瞬歩。
一護が咄嗟に振り返る。
背後から迫った白哉の刀を、間一髪で受け止めた。
「……大層な口か?」
刃を押し返しながら、一護が笑う。
「見えてるぜ。朽木白哉」
一護が刀を振り抜く。
白哉は後方へ跳び、距離を取った。
そして、静かに斬魄刀を構える。
「……千本桜」
ルキアの顔から血の気が引いた。
「だめだ、一護!!!逃げ――!」
白哉が斬魄刀を解放しようとした、
その瞬間だった。
何者かの手が、その刀を止めた。
「……!」
白哉の動きが止まる。
紫乃も、その人物へ視線を向けた。
そして――身体が固まった。
「貴様は……」
白哉が、その名を口にする。
「……四楓院夜一!!!」
姿を現したのは、四楓院夜一だった。
紫乃は、ただその姿を見つめていた。
かつての上司。
そして――101年前、突然その姿を消した者。
夜一は現世で一護を鍛えた人物の一人でもある。
だが、紫乃にとってそれ以上に重要だった。
彼女がここにいるということは――。
あの時、姿を消した者たちも。
もしかすると――。
紫乃は無意識に拳を握り締めた。
掌に、じわりと汗が滲んだ。
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