残された問い


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「四楓院夜一。久しく見ぬ顔だ。
行方を眩ませて百余年…
死んだものとばかり思っていたのだが……」

夜一の姿を見据え、白哉が静かに口を開く。

その言葉に、夜一は答えない。

一方、一護は夜一へ視線を向けることすらせず、
ただ白哉だけを見据えていた。

「……夜一さん。助けに来てくれたんだろ?」

一護はそう言ってから、僅かに笑う。

「サンキューな。でも悪い。どいててくれ」

その視線は、未だ白哉から離れない。

「俺はそいつを倒さなきゃなんねえんだ」

「……倒す?」

夜一は一護を見る。

「おぬしが? 彼奴を?」

そして、呆れたように目を細めた。

「……愚か者」

「なに――」

一護が振り返った瞬間だった。

夜一の腕が、一護の腹部へ突き込まれた。

「……っ!?」

その場にいた全員が目を見開く。

「一護!」

ルキアが叫ぶ。

一護の身体から力が抜け、そのまま崩れ落ちる。

しかし夜一は倒れる身体を難なく抱き留めた。

「……薬か」

浮竹が一護を見つめながら、静かに口を開く。

「外からでは分からないように、
強力な麻酔系の何かを内蔵に直接叩き込んだな」

夜一は答えない。

「……彼を治す気か。夜一」

「……浮竹」

夜一が顔を上げる。

その視線の先に、浮竹の姿があった。

そして――その隣。

呆然と立ち尽くしている紫乃と、目が合う。

夜一の目が僅かに細められた。

紫乃もまた、何も言えなかった。

百年以上ぶりに目の前に現れた夜一。

聞きたいことは、いくらでもあった。

だが、その会話を許すほど状況は穏やかではない。

白哉が一歩前へ出た。

「治させると思うか」

冷たい声だった。

「させぬ。奴はここから逃げることはできぬ」

夜一は白哉へ視線を戻す。

そして、口元に僅かな笑みを浮かべた。

「……ほう。大層な口を利くようになったの、
白哉坊」

白哉の眉が僅かに動く。

「おぬしが鬼事で儂に勝ったことが、
一度でもあったか?」

「……ならば、試してみるか?」

白哉が斬魄刀を振るう。

夜一の身体を捉えた――かに見えた。

しかし。

そこにあったのは、ただの変わり身だった。

「……!」

白哉が顔を上げる。

いつの間にか夜一は、意識を失った一護を
抱えたまま、屋根の上に立っていた。

「三日じゃ」

夜一は屋根の上から白哉を見下ろす。

「三日で此奴を、おぬしより強くする」

一護を抱え直し、夜一は不敵に笑った。

「それまで勝手じゃが、
暫しの休戦とさせて貰うぞ」

「……」

「追いたくば、追ってくるが良い」

そして、夜一は身を翻す。

「“瞬神”夜一。
まだまだおぬしら如きに
捕まりはせぬ」

次の瞬間。

その姿が消えた。

「夜一さん!」

紫乃が思わず声を上げる。

「花房!」

浮竹の制止も届かなかった。

紫乃は瞬歩でその場を離れる。







木々の間を、夜一は駆け抜けていく。

その腕には一護を抱えている。

それでも、その速度は衰えない。

――否。

「待って下さい! 夜一さん!」

その背後から、紫乃が追ってくる。

夜一は僅かに振り返った。

「紫乃……!」

驚きが声に滲む。

一護を抱えているとはいえ、
“瞬神”と呼ばれた自分に追いついてくる。

長い年月を経ても、二番隊にいた頃の紫乃の足は
鈍っていないらしい。

紫乃は必死に木々の間を駆け抜ける。

「待って……!」

息を切らしながら、それでも声を張る。

「ならば答えて下さい!」

夜一の背中が僅かに揺れる。

「喜助や……他の人達は!」

紫乃の声が震える。

「――あの人達は、生きてますか!?」

それは、百年以上の間、
一度も口にすることのできなかった問いだった。

夜一は振り返らない。

しばらく沈黙が続く。

やがて、夜一の口から小さな声が零れた。

「……すまないの、紫乃」

それだけだった。

次の瞬間。

夜一の速度が、さらに上がる。

「夜一さん……!」

みるみるうちに距離が開いていく。

紫乃は必死に追いすがろうとする。

しかし、足場となっていた木の枝を踏み外した。

「……っ!」

身体が宙へ投げ出される。

「――!」

そのまま紫乃は、木々の間を落下していった。

地面へ叩きつけられ、身体を強く打つ。

「……っ、う……」

大きな怪我はない。

けれど、頬には擦り傷が走り、
身体のあちこちに鈍い痛みが残った。

紫乃はしばらく動けなかった。

やがて、ゆっくりと上体を起こす。

視界の先に、もう夜一の姿はない。

「……夜一さん……」

掠れた声が漏れる。

そして。

「……喜助……」

百年以上、胸の奥へ閉じ込めていた名前。

「……真子さん……」

もう一度、名前を口にする。

その声は、今にも消えてしまいそうなほど
小さかった。

紫乃はその場に座り込んだまま、
遠ざかっていった夜一の姿を見つめていた。








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