奪還


*





処刑場。

高く聳え立つ処刑台に、
朽木ルキアは磔にされていた。

数百年ぶりとなる双極による極刑。

そのため、隊長格の中にも双極による処刑を
目にするのは初めてという者が少なくなかった。

静まり返った処刑場の中央で、
双極の矛を炎が包み込んでいく。

轟々と燃え上がる炎の中から現れたのは、
巨大な不死鳥を思わせる姿だった。

総隊長が静かに口を開く。

「燬穀王。双極の矛の真の姿にして、
極刑の最終執行者」

その言葉と共に、炎の翼が大きく広がる。

「彼が罪人を貫くことで、極刑は終わる」

ルキアは目を閉じた。

これまでの出来事が、
次々と脳裏を駆け抜けていく。

海燕。

浮竹。

紫乃。

そして、自分を助けようと
ここまで来てくれた者たち。

――これで、終わる。

そう思った時だった。

ルキアの頬を、一筋の涙が伝った。

その瞬間。

痛みはなかった。

恐怖もない。

ただ――。

知っている霊圧があった。

「……!」

ルキアが目を開く。

目の前に立っていたのは、黒崎一護だった。

「よう」

まるでいつものように。

気軽な挨拶だった。

「一護……!」

ルキアの目が大きく見開かれる。

「莫迦者!!何故またここに来たのだ!!」

「え……あァ!?」

突然怒鳴られ、一護は戸惑ったように声を上げる。

「貴様ももう解っているだろう! 
貴様では兄様には勝てぬ!今度こそ殺されるぞ!」

ルキアの声は震えていた。

「私はもう覚悟を決めたのだ! 
助けなど要らぬ!!帰れ!!」

その言葉に、一護だけではない。

周囲にいた隊長格たちも驚愕していた。

ただの旅禍だったはずの男が――。

双極を止めていた。

しかし、双極は再び距離を取り、
処刑を続行しようとする。

一護はすぐに刀を構え直した。

その時だった。

地上が大きく騒がしくなる。

「……!」

処刑場へ駆け込んできたのは、浮竹だった。

その手には、四楓院家に伝わる宝具。

黒い縄を双極の首へ巻き付け、
その縄を紫乃も支えていた。

「う……浮竹隊長!?」

二番隊隊長、砕蜂が驚きの声を上げる。

浮竹は双極を引き倒すように、
地面へ二本の柱を突き立てた。

そして、その片側には――。

「よう。この色男。
随分待たせてくれるじゃないの」

京楽春水が立っていた。

どうやら浮竹から事情を聞いていたらしい。

「すまん! 解放に手間取った!」

浮竹はそう言いながら、京楽へ声を掛ける。

「だが……これでいける!!」

浮竹と京楽は、四楓院家の紋が
刻まれた盾へと刀を通す。

二人の刀が、盾に設けられた
二つの差し込み口へ収まった。

瞬間。

轟音と共に双極の力が消失する。

その光景を確認した一護は、
すぐに処刑台へ飛び乗った。

「な……何をする気だ、一護!?」

背後へ立った一護に、ルキアが声を上げる。

「決まってんだろ」

一護は斬月を構えた。

「壊すんだよ。この…処刑台を!」

「な…!よ、止せ!それは無茶だ!!」

ルキアが慌てて声を上げる。

「いいか!聞くのだ一護! 
この双極の矛は――」

「いいから」

一護は振り返らない。

「黙って見てろ」

そして――。

斬月を振り下ろした。

轟ッ!!

凄まじい衝撃が処刑台を揺るがす。

大地が震え、砂埃が一面に舞い上がった。

「……助けるなとか、帰れとか、
ごちゃごちゃうるせーんだよ、てめーは」

煙の向こうから、一護の声が響く。

「言ったろ。てめーの意見は全部却下ってよ」

やがて砂埃が晴れていく。

そこに立っていたのは一護だった。

そして、その腕にはルキアが抱えられている。

処刑台は――完全に破壊されていた。

「二度目だな……」

一護はルキアを見下ろす。

「今度こそだ。助けに来たぜ、ルキア」

その頼もしい姿に、ルキアの胸が締め付けられる。

どこか懐かしい。

強くて、真っ直ぐで。

そして――あの人を思わせる面影があった。

「……礼など……言わぬぞ……莫迦者……」

ルキアは俯きながら、小さく呟いた。

「おう」

一護は、それだけ返した。

そしてすぐに、下にいる男へ声を張り上げる。

「恋次!」

「あ!?」

阿散井恋次が顔を上げる。

次の瞬間。

「うわっ!?」

一護は抱えていたルキアを、
そのまま恋次へ向かって投げ飛ばした。

「きゃあああああ!!!!!」

「馬鹿野郎ーーー!!!!」

恋次は慌てて両腕を広げる。

何とかルキアを受け止めたものの、
勢いまでは殺せなかった。

二人の身体が地面を転がり、ぐるぐると回る。

「莫迦者!! 一護、貴様!!」

「落としたらどうすんだ、この野郎!!」

ルキアと恋次がそれぞれ怒鳴る。

しかし、一護は二人の言葉など
気にする様子もない。

「連れていけ!!」

「……!」

恋次が顔を上げる。

「ぼーっとしてんな!! 
さっさと連れてけよ!!」

一護は叫んだ。

「てめーの仕事だ!死んでも放すなよ!!」

「……!」

その言葉に、恋次の表情が変わる。

「れ、恋次!」

ルキアが声を上げる。

しかし恋次は答えず、ルキアを担ぎ上げた。

そして、そのまま処刑場から走り出す。

「恋次……!」

ルキアの声を背に、恋次は走り続けた。

その行く手を遮るように――。

一人の男が立っていた。

「……!」

一護の表情が険しくなる。

そこに立っていたのは――。

朽木白哉だった。








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