岐路
*
朽木ルキアを阿散井恋次に託し、
処刑場に残った一護と白哉が戦いを始める。
紫乃は、自分の役目は終わったと判断した。
これ以上ここに留まる必要はない。
そう思い、二人の戦いから離れようと
身体の向きを変えた――その瞬間だった。
「――!」
一瞬。
視界から何かが消えたと思った次の瞬間、
目の前に一人の死神が現れた。
「……!」
紫乃は咄嗟に浅打を抜き、
振り下ろされた刃を受け止める。
甲高い金属音が処刑場に響いた。
「……下衆めが」
鋭い視線が紫乃を射抜く。
「貴様らの行いは、十三隊席官としての矜持を
忘れた恥ずべき裏切りだ」
紫乃の目の前に立っていたのは、
二番隊隊長・砕蜂だった。
「だが安心しろ。これ以上恥を晒さぬよう、
今すぐ私が葬ってやる!!」
「砕蜂隊長……」
紫乃は険しい表情で目の前の相手を見つめた。
砕蜂とは、かつて二番隊で共に過ごしていた。
夜一の部下として、
同じ隊に所属していた時期もある。
そして当時から――砕蜂が、
自分を快く思っていないことも紫乃は知っていた。
夜一に気に入られていた紫乃。
その紫乃が、自分より先に
夜一の側近のような立場にいたこと。
そして紫乃が十三番隊へ異動した後も、
砕蜂は隊長へ昇進した一方で、
紫乃は副隊長の座に留まり続けている。
立場だけを見れば、今では砕蜂の方が上だ。
それでも、砕蜂の中にある紫乃への反感は
消えていなかった。
「良い機会だ」
砕蜂は斬魄刀を構える。
「彼奴が認めていた実力
――私がへし折ってやる。
花房紫乃」
紫乃も浅打を構え直した。
「……そうですか」
静かに息を吐く。
戦うしかない。
そう判断した紫乃が、始解の言葉を
口にしようとした――その時。
「……!」
砕蜂の姿が、目の前から消えた。
否。
誰かに連れ去られた。
あまりにも一瞬の出来事だった。
「……え?」
紫乃が振り返る。
遠ざかっていく気配。
その霊圧には、覚えがある。
「夜一さん……!」
しかし、既に姿はない。
紫乃は呆然とその場を見つめた。
再び戦場へ視線を戻す。
処刑場では、一護と白哉の戦いが続いている。
少し離れた場所では、
浮竹と京楽が総隊長と対峙している。
「……浮竹隊長」
紫乃は浮竹の方へ向かおうと、
身体の向きを変えた。
その時だった。
「花房副隊長」
柔らかく、それでいて凛とした声が響いた。
「……!」
紫乃は足を止め、振り返る。
「花房副隊長」
柔らかく、それでいて凛とした声が響いた。
「……!」
紫乃は足を止め、振り返る。
「卯ノ花隊長……」
そこにいたのは、四番隊隊長・卯ノ花烈だった。
その傍らには、副隊長の虎徹勇音が控えている。
そして二人を乗せているのは、
始解された卯ノ花の斬魄刀――肉雫唼。
巨大なエイのような姿をした斬魄刀が、
静かに空中を漂っていた。
「貴女は、私達と清流清浄塔へ向かいます」
「……清流清浄塔?」
紫乃は僅かに眉を寄せた。
そこは中央四十六室が存在する、
厳重な立ち入り禁止区域。
何故、今そこへ向かうのか。
疑問を浮かべる紫乃に、卯ノ花が続ける。
「少し……嫌な予感がします」
その声には、普段の穏やかさとは違う
真剣さが滲んでいた。
「中央四十六室が、これほど早く
朽木さんの極刑を決定したこと。
そして、その決定があまりにも
性急に進められていること……」
卯ノ花は処刑場の方へ一度視線を向ける。
「何かがおかしい。私は、そう感じています」
紫乃も、中央四十六室でのやり取りを思い返した。
ルキアの極刑。
あまりにも急な決定。
こちらからの申し立てにも、
一切耳を貸さなかったこと。
確かに、不可解なことばかりだった。
「……私も、中央四十六室には疑問があります」
紫乃がそう答えると、卯ノ花は静かに頷いた。
「ですから、貴女にも同行していただきます」
「私に……?」
「ええ」
卯ノ花は紫乃を真っ直ぐに見つめる。
「朽木さんは十三番隊の隊士。
そして貴女は、その直属の上司である副隊長です」
紫乃は黙って聞いていた。
「今回の極刑について、
貴女には確認する権利があります。
何故、彼女がこのような処分を
受けることになったのか。
その理由を、私達と共に確かめてください」
その言葉に、紫乃は目を細める。
自分が同行する理由は明確だった。
ただ戦場から離れるためではない。
ルキアを救うために動いている以上、
彼女の極刑を決定した中央四十六室に
何が起きているのかを知る必要がある。
そして――。
「……分かりました」
紫乃は頷いた。
しかし、すぐに戦場へ視線を戻す。
「然し、私は浮竹隊長が……」
浮竹と京楽。
二人の前には総隊長が立っている。
今、この場を離れていいのか。
その迷いを察したように、卯ノ花が静かに告げた。
「幾ら貴女でも、総隊長と戦うなど
死にに行くようなものです」
紫乃は黙って卯ノ花を見る。
その言葉は正しい。
もし総隊長が本気で
自分たちを殺すつもりなら――。
自分程度では、手も足も出ない。
紫乃は一度だけ、浮竹のいる方へ視線を向けた。
そして静かに息を吐く。
「……分かりました」
今は、卯ノ花を信じる。
「お願いします、卯ノ花隊長」
「ええ」
卯ノ花は穏やかに微笑んだ。
肉雫唼が静かに身を翻す。
紫乃はその背へ乗り、
卯ノ花と勇音と共に清流清浄塔へ向かう。
処刑場に残された戦いの喧騒が、
少しずつ遠ざかっていった。
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