歪み
*
平凡な時が流れていた。
現世に生きる人々が知ることのない、
死後の世界――尸魂界。
此処は、現世で死神によって
罪を洗われた魂が還る世界。
尸魂界は、大きく二つの区域に分かれている。
人間としての姿を得た魂たちが暮らす流魂街。
そして、尸魂界で生まれ、
霊力を持つ者たちが家系を紡ぐ貴族と、
尸魂界を守る組織――護廷十三隊に所属する
死神たちが住まう瀞霊廷。
長い年月を経ても変わらない日常。
昨日と変わらぬ今日。
今日と変わらぬ明日。
そんな平穏の中で、
一人の死神が起こした出来事を境に、
静かに歯車が回り始める。
護廷十三隊、十三番隊。
その隊士である朽木ルキアによって、
尸魂界の平穏は少しずつ歪み始めていた。
朝日が襖越しに差し込み、
部屋の中を淡く照らしていた。
花房紫乃は目を覚ます。
何だか、昔の夢を見ていたような気がする。
けれど、その内容を思い出そうとはしなかった。
布団から身を起こし、いつも通りに身支度を整える。
髪をまとめ、死覇装を身につける。
乱れがないことを確認してから、
紫乃は執務室へ向かった。
その途中だった。
腰に携えていた地獄蝶が、ひらりと舞い上がる。
護廷十三隊における伝令の役割を担う黒い蝶が、
紫乃のもとへ知らせを運んできた。
紫乃は足を止める。
届けられた内容を確認すると、
いつもの穏やかな表情が僅かに変わった。
隊長会議の招集だった。
十三番隊隊長、浮竹十四郎は
体調の都合で出席することが出来ない。
そのため、紫乃が代理として
一番隊隊舎へ向かうことになった。
そして、その隊長会議で知らされた内容に、
紫乃は言葉を失った。
現世へ派遣されていた朽木ルキア。
彼女に、二つの規定違反があった。
一つは、霊力の無断貸与及び喪失。
もう一つは、滞外超過。
空座町の見廻りを任されていたルキアには、
すでに尸魂界への帰還命令が出されていた。
それにもかかわらず、彼女は現世に留まっていた。
そして、その理由についても報告が上がっていた。
現世で虚の襲撃を受け、
殉職の危機に陥ったルキアは、
僅かな霊力を持っていた現世の人間へ
死神の力を渡した。
その人間が、虚を倒したという。
しかし、死神の力を人間へ無断で貸与することは、
尸魂界の規定に反する。
ましてや、帰還命令にも従わなかった。
結果として、ルキアの身柄を確保するため、
十三番隊ではなく六番隊が動くことになった。
派遣されたのは、ルキアの兄である
六番隊隊長――朽木白哉。
そして、その副官である阿散井恋次。
二人によって現世から連れ戻されたルキアは、
そのまま六番隊隊舎の牢へ収監された。
後に、罪人として処罰を受けることも決定されている。
紫乃は、静かに目を伏せた。
朽木ルキア。
十三番隊に所属する、自分の部下。
規則を重んじるルキアが、
一体どうしてそこまでの行動を取ったのか。
会議を終えると、紫乃はすぐに行動を起こした。
浮竹隊長の代理として。
そして、十三番隊副隊長として。
朽木ルキアとの面会を求めるため、
紫乃は六番隊隊舎へ向かった。
.