面会
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紫乃は六番隊隊舎を訪れていた。
目的は一つ。
六番隊の牢に収監されている、
朽木ルキアとの面会だった。
「申し訳ないっスけど、
隊長から誰にも会わせるなって言われてるんで」
出迎えた阿散井恋次は、
申し訳なさそうではあるものの、
はっきりとした口調で断った。
「それでも、ルキアはうちの隊士だから、
事情を聞く権利はあるでしょう?」
紫乃も引かなかった。
「だから駄目ですって」
恋次は即答した。
普段の彼なら、もう少し気さくに応じるところだろう。
しかし、今ばかりは違った。
紫乃が何か言おうとするより先に、
恋次は僅かに視線を落とした。
「……会ったところで、なんて言うんスか?」
紫乃は黙って恋次を見る。
「失望した? 隊を穢した? 裏切り者?」
一つ一つの言葉を口にするたび、
恋次の表情が苦しげに歪んでいく。
「今のあいつに、
そんな言葉をかけて欲しくないんスよ」
その言葉に、紫乃も何も返せなかった。
ルキアを守ることが出来なかった。
十三番隊の副隊長として、
自分の部下が他の隊の牢に収監されるまで、
何も出来なかった。
その事実が、胸の奥に重く沈んでいる。
恋次もまた、同じように苦しんでいるのだろう。
二人の間に、しばし沈黙が落ちた。
その時だった。
冷たい空気が、廊下の奥から流れ込んできた。
「なんの騒ぎだ」
凛とした声が響く。
恋次の背後から、一人の男が姿を現した。
朽木白哉。
その姿を認めた瞬間、
恋次の背筋が真っ直ぐに伸びる。
紫乃もまた、姿勢を正した。
恋次の横に並び、白哉へ向き直る。
「朽木隊長」
「……何だ」
「朽木ルキアとの面会を求めています」
改めて、紫乃は申し出た。
白哉の表情は変わらない。
「ならぬ」
短い言葉だった。
それ以上の説明すら必要ないと
言わんばかりの拒絶。
しかし、紫乃は一歩も引かなかった。
話を聞けないまま、
処分が下されるのを黙って待つわけにはいかない。
「ルキアは朽木家の養女とはいえ、
十三番隊の隊士でもあります」
紫乃の声は穏やかだった。
けれど、その言葉には一切の迷いがない。
「本来、こちらで対処するはずだった事案を
六番隊にお任せしている以上、
こちらにも本人と面会し、
事情を確認する権利があります」
白哉は黙って紫乃を見ていた。
その視線は冷静で、揺らぐ様子がない。
「存知の通り、由緒ある四大貴族の朽木家から
罪人が出た以上、身内の不祥事は身内が執り仕切る」
淡々とした声が返ってくる。
「よって、卿等が出てくる必要はない」
紫乃は白哉の言葉を聞き終えると、
一度だけ静かに息を吸った。
そして、真っ直ぐに白哉を見つめる。
「私個人の判断ではありません」
その言葉に、恋次が僅かに目を見開いた。
「浮竹隊長の代行として、こちらへ来ております」
紫乃は一歩も退かない。
「もし面会が認められないのであれば、
浮竹隊長を通して正式に抗議させていただきますが
――よろしいでしょうか?」
静かな言葉だった。
声を荒らげるわけでもない。
貴族として威圧するわけでもない。
ただ、副隊長として当然の権利を主張している。
白哉は紫乃を見つめたまま、
しばらく何も言わなかった。
やがて、僅かに視線を動かす。
「……」
短い沈黙。
そして、
「恋次」
「はい!」
「案内しろ」
それだけ告げると、白哉は踵を返した。
そのまま何事もなかったかのように、
隊舎の奥へ戻っていく。
「い、いいんスか?」
恋次が思わず声を上げる。
白哉からの返答はなかった。
紫乃はすぐに白哉へ向き直る。
「朽木隊長、ありがとうございます」
深々と頭を下げる。
その姿を見届けることなく、
白哉の姿は廊下の向こうへ消えていった。
恋次はしばらくその背中を見送っていたが、
やがて小さく息を吐く。
「……相変わらず、何考えてんのか分かんねぇな」
「でも、許可が下りてよかった」
安堵したように、静かに笑う。
「朽木隊長は、情では揺るがない人だから」
その言葉に、恋次が紫乃を見る。
紫乃は白哉の消えた廊下へ一度だけ視線を向けた。
朽木白哉が何を考えているのか、
全て分かるわけではない。
けれど、あの男が私情だけで判断を覆すような
人間ではないことくらいは分かっている。
だからこそ、最後には許可を出すと踏んでいた。
紫乃はそう答え、恋次を見る。
「では、お願いします」
「ああ。こっちだ」
恋次は紫乃を連れ、
六番隊隊舎の奥へと歩き始めた。
向かう先は、地下。
その先に、朽木ルキアがいる。
重い足音が、静かな廊下へ響いていた。
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