潜入
*
仮面に敗れた黒崎一護は、
井上織姫の能力によって傷を癒やされていた。
それでも、身体にはまだ包帯が残っている。
いつも通り学校へ通ってはいるものの、
その表情は浮かなかった。
頭の中から離れないのは、
先日現れた仮面
――ウルキオラとの圧倒的な力の差。
そして何より、自分が強さを求めた瞬間。
胸の奥から湧き上がった、得体の知れない感覚。
あれは何だったのか。
考えれば考えるほど、答えは遠のいていく。
そんな一護のいる教室に、
担任の教師が入ってきた。
「えー……転校生を紹介する……」
そう言った教師の顔には、
困惑と冷や汗が浮かんでいる。
何事かと教室中の視線が集まった、その時だった。
廊下から、ぞろぞろと足音が聞こえてくる。
そして――。
教室の扉が開いた。
「はーい! 転校生でーす!」
真っ先に飛び出してきたのは松本乱菊だった。
その勢いで、前に立っていた日番谷冬獅郎を
胸で押し出すような形になっている。
「おー! ここが一護の学校かー!」
続いて、斑目一角が斬魄刀を片手に身を乗り出す。
「フン……なんか皆んな地味だねー」
綾瀬川弓親は教室を見回し、
早くも品評するように溜め息を吐いた。
その後ろには、あまりにも不自然な登場の仕方に
困惑する花房紫乃と阿散井恋次。
そして最後に、朽木ルキアが姿を現した。
「はあ!!?」
一護の声が教室中に響き渡る。
「な、なんでテメェらが!」
一護が目を見開く中、一角が片手を上げた。
「よお一護、久しぶりじゃねえか!」
「派手にやられたようだね」
弓親も涼しい顔で声を掛ける。
その横では乱菊が織姫を見つけた。
「あら!織姫もいるじゃない!織姫ー!」
「えっ!?乱菊さん!?」
大きく手を振る乱菊に、
織姫も驚いたように席を立つ。
「一角に弓親!乱菊さんに冬獅郎!
紫乃さんと恋次まで!」
次々と知った顔を確認していく一護。
その言葉に、日番谷が眉間に皺を寄せた。
「日番谷隊長だ」
「いや、この状況で隊長呼びも変だろ……」
一護が思わず突っ込む。
その直後だった。
「この戯けが!!」
「ぐふお!!」
ルキアが一護へ向かって飛び蹴りを放った。
「痛ってえな!」
蹴られた鼻を押さえながら、一護が顔を上げる。
「って、ルキア!」
「久しぶりだな、一護!」
ルキアは腕を組み、胸を張っている。
双極で見せていた弱々しさなど、
今の彼女からは微塵も感じられなかった。
しかし、それ以上に問題なのは――。
教室内が完全に騒然としていることだった。
「これ、いいの? 日番谷隊長……」
皆と同じ制服姿の紫乃が、
少し離れたところから日番谷へ声を掛ける。
「目立ち過ぎて、始末書必須じゃ……」
そう言いながら、騒ぎを起こしている
乱菊たちを指差す。
日番谷の眉間の皺が、さらに深くなった。
「あいつらに書かせる」
今にも怒鳴り散らしそうなほど、
不機嫌な声だった。
「皆んな一護の知り合い!?」
「坊主怖え!」
「朽木さん、留学から帰ってたの!?」
「爆乳お姉さん紹介しろ!」
「変な髪の人もいるし!」
「綺麗なお姉さんもいるけど同級生!?」
「つか、小学生もいるし、どういう事!?」
ホームルームのはずだった教室は、
完全に収拾がつかなくなっていた。
これ以上ここにいれば、
事情を説明するどころではない。
一護は頭を抱えながら叫んだ。
「ちょっとお前ら来い!」
そして、有無を言わせずルキアたちを
教室から連れ出した。
向かった先は屋上。
普段、人が来ることなどほとんどない場所だった。
扉が閉まる。
ようやく静寂が戻った。
「はぁ……はぁ……!」
階段を駆け上がってきた一護は、
荒い息を吐きながら自分を取り囲む
死神たちを見回した。
「お前ら、なんでここにいるんだよ!
そしてその格好はなんだ!」
真っ先に答えたのは乱菊だった。
「だって現世に来るなら、
折角だし制服着たかったんだもーん」
そう言って、制服の胸元を揺らす。
「あんたは公然わいせつ罪で取り締まられるぞ!」
一護が即座に突っ込んだ。
「乱菊だから言ったのに。
制服はきちんと着なさいって」
紫乃も呆れたように溜め息を吐く。
「だって可愛くないんだもん」
乱菊は不貞腐れたように唇を尖らせた。
紫乃が胸元のボタンを留めようとしてみるものの、
弾力に押し返されて上手く留まらない。
「……やっぱり無理ね」
「紫乃さんはもっとスカート短くしましょうよ!
真面目過ぎて可愛くなーい!」
「嫌だよ。スースーして動きづらいし」
紫乃はきっぱりと拒否した。
膝丈。
それくらいが一番落ち着く。
「私達が来た理由は、一護」
ルキアが話を切り出す。
「お前に深く関係する理由だ」
「俺に……?」
一護の表情が変わる。
「もしかして、昨日襲って来た奴らのことか?」
「そうだ」
ルキアは頷いた。
「何も知らない貴様に全てを教えるには、
この話は長くなる。
放課後、貴様の部屋で落ち合おう」
「勝手に決めるなよ!」
一護が慌てて声を上げる。
「こんな大人数、家に上げたら家族が驚くだろ!」
「その心配はない!」
ルキアは堂々と言い切った。
「窓からこっそり入るからな!」
「余計ダメだわ!」
一護のツッコミが屋上に響いた。
紫乃はそんな二人のやり取りを眺めながら、
ふっと笑う。
ルキアが生き生きとしている。
双極で会った時の、
あの弱々しい姿とはまるで違う。
元々、男顔負けの気の強さを持つ、
真面目で芯の強い少女だった。
こうして一護と言い合っている姿を見ていると、
ようやく彼女が本来の自分を
取り戻したのだと実感する。
紫乃は、胸の奥で静かに安堵した。
結局。
放課後、一護の部屋で落ち合う。
そのルキアの提案に従うことになった。
こうして、日番谷先遣隊による
現世での潜伏任務が始まった。
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