問い
*
地下にある隊舎牢は、
想像していた通り薄暗かった。
湿気を含んだ冷たい空気が、
石造りの壁の間を静かに流れている。
紫乃は阿散井恋次の案内で、
その奥へと進んでいった。
やがて、一つの檻の前で恋次が足を止める。
その中に、朽木ルキアがいた。
俯き、身体を小さく
縮こませるようにして座っている。
「ルキア」
紫乃が声を掛ける。
その一声に、ルキアは弾かれたように顔を上げた。
そして紫乃と目が合った瞬間、
慌てて立ち上がり、その場に土下座する。
「は、花房副隊長!
この度はご迷惑をおかけし、
申し訳ありません……!」
開口一番の謝罪。
紫乃は小さく息を吐くと、
ルキアと目線が合うように
その場へしゃがみ込んだ。
「まさか、真面目だった貴方が
こんな所に入るなんてね」
責めるような声音ではなかった。
それでもルキアは言葉に詰まり、
俯いたまま再び頭を下げる。
「……申し訳、ありません」
「浮竹隊長も心配していたよ」
その言葉に、ルキアの両手が
ぎゅっと握り締められた。
膝の上に添えられていた指が、白くなるほど強く。
紫乃はそんなルキアの姿をしばらく見つめた。
そして、穏やかに声を掛ける。
「顔を見せてくれないかな?」
ルキアは躊躇いながら、伏せていた顔を上げた。
目が合う。
その瞬間、紫乃は驚くほど穏やかな表情を見せた。
責めるでもなく。
問い詰めるでもなく。
ただ、目の前にいる部下を静かに見つめている。
その表情に、ルキアの胸が締め付けられた。
自分は何をしてしまったのだろう。
十三番隊の隊士として。
浮竹隊長の部下として。
そして、この人の部下として。
申し訳なさが、さらに込み上げてくる。
「……ありがとう」
紫乃は立ち上がりながら、
最後に一つだけ問い掛けた。
「今、会いたい人っている?」
「おい……」
隣にいた恋次が、制するように声を挟む。
だが、紫乃は彼を振り返らなかった。
檻の中のルキアだけを見つめている。
ルキアはしばらく言葉を失っていた。
やがて、僅かに唇を動かす。
「……いえ」
それだけ答えるのが精一杯だった。
紫乃はルキアを見つめたまま、小さく頷く。
「そう……分かった」
それ以上は何も聞かなかった。
紫乃は踵を返し、出入り口へ向かう。
恋次も慌ててその後を追った。
*
隊舎牢を出ると、背後から恋次が声を掛けてきた。
「なんだったんスか、あの質問」
紫乃は答えなかった。
代わりに、歩きながら別の質問を返す。
「阿散井副隊長は会ったんだよね?」
「何に?」
「ルキアが死神の力を渡した人間に」
恋次は少し考えるようにしてから、鼻で笑った。
「ああ。ぶっ倒してやったがな」
どこか得意げな口調だった。
「斬魄刀持っていやがったけど、
ただデカくて話にならねぇ奴だった」
紫乃は歩みを止めずに聞いていた。
「ただ大きかったか……」
恋次が倒したことよりも、
その言葉が引っ掛かった。
斬魄刀を持っていた。
それだけなら、今の段階では
判断材料としては少ない。
しかし――その大きさ。
紫乃は僅かに考え込む。
現世にいる、死神の力を持った人間。
その処遇については、
今後の隊首会議で決定が下されるだろう。
今の紫乃が考えるべきことは、
それよりも別にある。
ルキアを、これからどうするのか。
紫乃は何も言わず、静かな廊下を歩き続けた。
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