襲撃


*




「我が名はイールフォルト・グランツ。
第6十刃、グリムジョー・ジャガージャックに
仕える従属官だ」

名乗りを上げた男は、白い衣を纏っていた。

長い金髪。その頭部には、
破面の仮面を砕いた後のような
白い破片が残されている。

グランツは腰に佩いた西洋風の刀を抜き、
切っ先を二人へ向けた。

「十刃……?」

聞き慣れない階級に、紫乃は眉を寄せる。

その時だった。

「紫乃さん!」

恋次の声が飛ぶ。

「うん」

紫乃は短く返した。

二人は同時に斬魄刀へ手を掛ける。

「咆えろ、『蛇尾丸』!」

恋次が叫ぶ。

次の瞬間、刀身が幾つもの節へと分かれ、
蛇腹のように伸縮する巨大な蛇腹剣へと姿を変えた。

その隣で、紫乃も静かに斬魄刀を構える。

「始めよう、『宵椿』」

刃が大きな鉄扇へと変貌する。

次の瞬間――。

グランツの姿が消えた。

「……!」

一瞬で間合いへ入り込んだグランツが、
刀を振り下ろす。

紫乃は鉄扇を開き、その一撃を受け止めた。

甲高い金属音が夜の街に響く。

「恋次!」

「おう!」

紫乃が受け止めた隙を狙い、
恋次が蛇尾丸を振るう。

伸びた刀身がグランツへ襲い掛かる。

しかし――。

ガキィンッ!

硬質な音が響いただけだった。

蛇尾丸の刃は、
グランツの身体を斬り裂けていない。

「硬い……!」

恋次が目を見開く。

紫乃も間髪入れずに踏み込んだ。

「花車ノ舞!」

鉄扇を大きく開き、
身体の回転を利用して
横薙ぎに振り抜く。

広い範囲を一気に薙ぎ払う一撃。

それでも、グランツの身体には
浅い傷すら刻めなかった。

「……っ」

紫乃は即座に距離を取る。

その直後、グランツの刀が空を裂いた。

「どうした、兄弟」

グランツが呟く。

いつの間にか背後へ回っていた恋次へ、
振り向きざまに刃を走らせる。

「恋次!」

「ぐっ……!」

恋次の身体が弾かれる。

それでも倒れず、地面を踏み締めて距離を取った。

「まだだ……!」

恋次は斬魄刀を握り直す。

「卍解――『狒狒王蛇尾丸』!」

蛇尾丸は巨大な大蛇の背骨と肋骨を思わせる姿へと
変貌し、恋次の右肩から背中にかけて、
真っ白な狒狒の毛皮が衣服のようにまとわりつく。

卍解。

本来ならば、戦況を覆すほどの力。

だが――。

二人には、現世での霊圧制御が課せられていた。

霊圧による過度な影響を与えないため、
現在の二人が発揮できる力は、
本来の二割程度に抑えられている。

恋次が卍解によって一気に攻勢へ出ても、
その力はグランツを圧倒するには至らなかった。

「くそっ……!」

巨大な蛇尾丸が幾度も唸りを上げる。

それをグランツは正面から受け止め、
あるいは紙一重でかわしていく。

そして――。

「遅い」

「ぐあっ!」

グランツの斬撃が恋次を捉えた。

「恋次!」

紫乃の表情が変わる。

次の瞬間には、
瞬歩でグランツとの距離を詰めていた。

「散華一穿!」

閉じた鉄扇を鋭く突き出す。

鉄の扇骨がグランツの鳩尾を正確に捉えた。

「ぐっ……!」

グランツの身体が僅かに揺らぐ。

紫乃はそのまま間合いを離さない。

「宵椿・舞灯!」

鬼道によって生み出した炎が鉄扇へと絡みつく。

炎を纏った鉄扇を振り抜き、
そのまま斬撃として放つ。

さらに――。

「花霞舞!」

身を翻し、炎の斬撃を追うように
紫乃自身が懐へ飛び込む。

攻撃して、退く。

退いたと思えば、再び踏み込む。

花霞舞で間合いを変えながら、舞灯を重ねる。

グランツに反撃の隙を与えない。

「この……!」

グランツが苛立ちを露わにする。

鉄扇による斬撃だけではない。

紫乃の攻撃は、打撃そのものでも
確実にグランツの身体を揺らしていた。

「ッ……!」

グランツの顔が歪む。

そして――。

「ふざけるなァッ!」

怒号と共に、グランツの霊圧が膨れ上がった。

「突き砕け――『蒼角王子』!」

瞬間。

グランツの身体が大きく変貌する。

上半身は強靭な牡牛を思わせる装甲に覆われ、
その頭部からは巨大な角が突き出していた。

「……!」

至近距離。

紫乃が身を引くよりも早く、その角が迫る。

ドッ――!

「……っ!」

鋭い角が紫乃の胴体を貫いた。

「紫乃さん!」

恋次の叫び声が響く。

紫乃の身体が宙へ浮く。

「……まだ……!」

苦痛に顔を歪めながらも、
紫乃は片手をグランツへ向けた。

「破道の三十一…――赤火砲!」

放たれた火球が至近距離で炸裂する。

轟音と共に炎が弾け、その爆発の勢いを利用して
紫乃はグランツの角から身体を引き抜いた。

地面へ着地した瞬間、紫乃は片膝をつく。

「はぁ……はぁ……」

傷口を押さえながら、周囲を見渡す。

「日番谷隊長は……まだ……?」

限定解除の許可。

それを待っていた。

二割程度の力では、さすがに苦戦を強いられる。

このままでは恋次も危ない。

紫乃は荒い呼吸を整えながら、鉄扇を握り直した。

「……仕方ない」

ゆっくりと立ち上がる。

「卍解――」

その瞬間だった。

懐から通信機の音が響く。

「日番谷先遣隊!」

乱菊の声だった。

「限定解除の許可が下りたわ!
直ちに解除し、目標の敵を鎮圧せよ!」

「……!」

紫乃の瞳が見開かれる。

しかし、その直後――。

「花房副隊長、下がってください!」

恋次の声が響いた。

紫乃が振り向く。

「俺がやります!」

恋次の霊圧が一気に膨れ上がった。

限定解除。

抑えられていた力が、本来の領域へと戻っていく。

「これで……終わりだァッ!」

狒狒王蛇尾丸が唸りを上げる。

今度こそ、その一撃は
グランツの防御を真正面から打ち砕いた。

「な――」

グランツの身体が吹き飛ぶ。

恋次はそのまま追撃を叩き込み、
巨大な蛇尾丸が夜の街を駆け抜ける。

そして――。

イールフォルト・グランツは、
地面へと叩き落とされた。






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