すれ違い
*
十刃の存在。
そして、グリムジョー率いる
従属官たちによる奇襲。
一連の襲撃を報告した日番谷先遣隊には、
護廷十三隊から新たな指示が下された。
このまま現世に留まり、次の襲撃に備えよ。
そして、各自修行に励み、
さらなる戦力の向上に努めよ――。
それが、今回の命令だった。
そんな中、紫乃は誰にも告げず、
一人で空座町の倉庫街を訪れていた。
浦原から教えてもらった地図を頼りに、
目的の場所へ辿り着く。
「場所は教えます。でも、
必ず会えるとは限りませんよ」
別れ際、浦原はそう言っていた。
恐らく彼らは、この辺りのどこかに身を隠し、
ひっそりと暮らしているのだろう。
倉庫街には、同じような建物が
いくつも並んでいる。
一つずつ確認していくには、あまりにも数が多い。
紫乃は目を閉じ、意識を研ぎ澄ませた。
霊圧を探る。
しかし――。
「……」
何も感じない。
浦原商店と同じだった。
周囲に結界が張られている。
霊圧を外へ漏らさず、こちらからの感知も
遮断するためのものだろう。
「徹底してるなぁ……」
紫乃は小さく息を吐いた。
霊圧が頼りにならないのであれば、
別の手段を探すしかない。
例えば、猫や鳥などの動物。
人間には分からない気配を感じ取りやすい
彼らなら、誰かが潜んでいる場所を避けたり、
逆に異様に集まったりすることがある。
だが――。
「そう簡単にはいかないか」
倉庫街を見渡しても、
それらしい場所は見つからない。
猫も鳥も、普段と変わらない様子で
街を行き交っている。
「駄目か……」
紫乃は諦めたように呟き、
近くの倉庫の屋根へと上がった。
そのまま屋根の縁に腰を下ろす。
風が、長い髪を静かに揺らした。
「真子さん……」
ぽつりと名前を呼ぶ。
「……皆んな」
一目だけでもいい。
会いたい。
無事なら、それでいい。
ただ、それだけだった。
そして――。
「……一言、謝りたい」
百余年前。
自分には何もできなかった。
何も知らないまま、彼らが罪人として
追われることを止められなかった。
だからこそ、直接伝えたかった。
ごめんなさい、と。
けれど、その言葉を聞く者は誰もいない。
紫乃の切ない声は、ただ夜風にさらわれていった。
――そして。
紫乃がこの倉庫街を訪れる、数時間前。
一人の少年もまた、
この場所へ足を踏み入れていた。
黒崎一護。
彼がここへ来た目的は、明確だった。
自分の中に潜む、もう一人の自分。
内なる虚。
先日の戦いで、それが暴走しかけた。
このままでは、いつか自分自身が
自分の力に呑み込まれる。
だからこそ、一護は
その制御方法を知る者を訪ねた。
自分の内なる虚に、いち早く気付いていた者たち。
仮面の軍勢。
「俺はお前らの仲間になるつもりはない」
一護は、目の前の平子真子たちへ向かって言い放つ。
「俺はアンタらを利用しに来たんだ」
そこにいたのは、かつて尸魂界に存在した
死神たちだった。
元五番隊隊長、平子真子。
元十二番隊副隊長、猿柿ひよ里。
元七番隊隊長、愛川羅武。
元三番隊隊長、鳳橋楼十郎。
元九番隊隊長、六車拳西。
元九番隊副隊長、久南白。
元八番隊副隊長、矢胴丸リサ。
そして、元鬼道衆副総帥、有昭田鉢玄。
彼らこそ――。
あの日、藍染の謀略によって虚化した者たちだった。
護廷十三隊から追われ、尸魂界を去った後も、
彼らは生きていた。
現世に身を隠し、仮面の軍勢と名乗って。
そして今、その力を必要として一護がやって来た。
一護は腕試しでひよ里と戦うが、
虚化に触発され自分の力を、制御できなかった。
その事実を思い知らされる。
けれど同時に、一護は理解していた。
この力を操ることができれば――。
自分は、もっと強くなれる。
そして平子たちにとっても、
一護は同じ問題を抱える存在だった。
虚化。
自分自身の内側に潜む虚と
向き合わなければならない者。
だからこそ、一護は一時的に
彼らのもとで修行することになった。
虚化を暴走させず、
自分の力として使えるようになるために。
その頃――。
そんなことなど何も知らない紫乃は、
倉庫街の外で平子たちの姿を探し続けていた。
同じ空の下。
ほんの数時間の違いで、
二人の道はすれ違っていた。
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