別離


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「……はよ帰り」

平子は紫乃の両肩を掴み、落ち着いた声で言った。

辛そうに自分を見上げる紫乃の瞳には
涙の膜が張っている。日の光を受けたそれは、
まるでビー玉のように艶やかに揺れていた。

「……折角会えたのに……離れたくありません」

聞き分けのいいはずの紫乃が、別れを惜しんだ。

また会えなくなるのではないか。

一度離れてしまえば、
もう二度と見つけられないのではないか。

百一年前に置き去りにした想いが、
堰を切ったように溢れ出そうになっていた。

「紫乃」

名前を呼ぶ平子の声は、静かだった。

平子自身も、目の前で必死に
離れまいとする紫乃を見て、胸が痛んでいた。

それでも、離さなければならない。

自分達は死神である紫乃とは違う。

虚化し、尸魂界から逃亡した仮面の軍勢。

尸魂界は、虚化した自分達を抹殺しようとした。

その事実は、今も変わらない。

あの時、絶望した。

自分達を信じてくれる者など、
尸魂界にはいないのだと思った。

仮面の軍勢は、尸魂界から見れば逃亡者だ。

そんな自分達と関われば、
紫乃まで危険に晒される。

「紫乃、分かれや」

平子は静かに言い聞かせる。

「俺らは死神からすれば、
抹殺するはずやった咎人や。
そんな奴らとお前が関われば、
お前の身も危険なんやぞ」

「全ては藍染が仕組んだことで、
真子さん達は被害者ではありませんか!」

紫乃は負けじと言い返した。

「それなのに……咎人だなんて……!」

大切な人達が罪人として扱われている。

そのことが、どうしても許せなかった。

なぜ、彼らがこんな目に
遭わなければならなかったのか。

「今からでも藍染の陰謀が分かった今なら……
きっと真子さん達も無実に――」

紫乃が一歩、平子へ近づく。

けれど平子は、その身体をそっと引き離した。

「……縛道の九――白伏」

瞬間、紫乃の身体から力が抜けた。

「…え……?」

膝から崩れ落ちる身体を、平子が支える。

意識を失った紫乃を腕の中に抱えながら、
平子は苦しげに目を伏せた。

「……許してな、紫乃」

平子はそのまま紫乃を抱き上げ、
瞬歩でその場を去った。

向かった先は、浦原商店だった。





商店の前には、浦原喜助が待っていた。

「やっぱり、こうなりましたか」

浦原はそう言うと、扇子を開いて
ぱたぱたと風を仰ぐ。

平子は足を止めるなり、浦原を睨みつけた。

「お前、何してくれてんねん」

「はいはい。怒らない怒らない」

平子は返事をする代わりに、
眠ったままの紫乃を浦原へ差し出した。

浦原は紫乃を受け取る。

「この様子じゃ、
無理矢理終わらせた感じっスね」

やれやれ、と言いたげに眉を下げながら、
浦原は眠る紫乃の顔を見つめた。

平子はそんな浦原へ向けて、低い声で言う。

「結界の中に入れば、紫乃の霊圧が途絶える。
他の死神に悟られることになる」

「黒崎さんも一緒なら、言い訳はいくらでも――」

「アホか」

平子が遮った。

「虚化してへん奴は、俺らの仲間やあらへん」

そう言って、平子は深く帽子を被り直す。

「お前もや、喜助」

その声には、先ほどまでとは違う硬さがあった。

「色々足ぃ突っ込んでるようやけど、
俺らは俺らでやらせてもらうからな」

それだけ言い残すと、
平子は瞬歩でその場から姿を消した。

静寂が戻る。

浦原は腕の中で眠る紫乃を見下ろした。

「……紫乃さん」

その頬を、一筋の涙が伝う。

「寂しかったろうに……」

浦原は何も言わず、
眠り続ける紫乃の顔を静かに見つめていた。







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