静かな憂い
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十三番隊隊舎へ戻った紫乃は、
浮竹が療養している別棟へ向かった。
廊下を進み、襖の前で足を止める。
「失礼します」
一声掛けると、すぐに中から返事が返ってきた。
「どうぞ」
許可を得て襖を開ける。
中では、まだ本調子ではない浮竹が
座敷に座っていた。
寝巻き姿の肩には、温かな羽織が掛けられている。
「体調はどうですか?」
紫乃は中へ入り、浮竹の向かいへ腰を下ろした。
「最近は調子が良くなってきたよ」
浮竹は明るく答えた。
その声音に無理をしている様子がないことを確認し、
紫乃も僅かに表情を和らげる。
ほどなくして女中が新しい茶を淹れ、
紫乃の前にも湯呑みが置かれた。
まだ熱く、すぐには口をつけられそうにない。
紫乃は湯気の立つ湯呑みを前に置いたまま、
浮竹へ向き直った。
「ルキアに会えました」
「そうか」
紫乃は、地下牢で見たルキアの様子を伝えた。
自分の姿を見るなり、
ひどく恐縮して謝罪したこと。
顔を上げるよう促すと、
罪悪感を抱えたままこちらを見たこと。
そして、今も自分が犯したことに
責任を感じているようだったこと。
「……そうか。責任を感じて当然か」
浮竹は静かに呟いた。
その表情には、部下を案じる心配が浮かんでいる。
ルキアは確かに規則を破った。
けれど、その事情を知れば知るほど、
ただ罪人として切り捨てることなど出来ない。
それは浮竹も、紫乃も同じだった。
やがて紫乃は、先ほどの湯呑みに手を伸ばした。
まだ熱い。
両手で包むように支え、
少し待ってから一口だけ口に含む。
甘みのある玉露の味が、
じんわりと身体へ広がった。
その温かさに僅かに息を吐いてから、
紫乃は浮竹へ尋ねる。
「浮竹隊長は、罪状に見合う処罰は
どうなると思われますか?」
浮竹はすぐには答えなかった。
視線を落とし、
少し考えるように口元へ指を添える。
「死神の力を人間に渡す行為は、重い違反だ」
「はい」
「重い刑罰が下されても、おかしくはない」
紫乃は静かに聞いていた。
浮竹はそこで一度言葉を切る。
「でも、今回のことは事情が事情だ。
ルキアが人間を助けるためにしたことまで、
すべて悪意のある行為として
扱う必要はないと思っているよ」
穏やかな声音だった。
「だから、そこは俺が総隊長に掛け合ってみるよ」
その言葉には迷いがなかった。
紫乃は浮竹の顔を見つめる。
「……あまりご無理はなさらないで下さいね」
心配そうに言う紫乃へ、
浮竹はいつものように笑った。
「大丈夫だよ」
そう言って、浮竹は湯呑みに手を伸ばす。
紫乃もまた、手元の玉露へ視線を落とした。
今すぐに答えが出るわけではない。
それでも、浮竹が動いてくれる。
それだけで、紫乃の胸にあった僅かな不安は
少しだけ和らいでいた。
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