不穏
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ワンダーワイスと対峙する紫乃の傍らでは、
浦原もまたヤミーを相手に戦っていた。
帰刃によって巨大化したヤミーは、
地面を揺るがす巨体から次々と虚閃を放つ。
さらに、瞬発的な速度で撃ち込まれる虚弾は、
その巨体からは想像もつかないほど速く、
強力だった。
しかし――。
「っと」
攻撃が直撃する、その寸前。
浦原の手元から取り出されたのは、
風船のように膨らむ奇妙な道具だった。
携帯用義骸。
膨張した義骸が浦原の身代わりとなり、
虚閃を受ける。
その隙に、本人はすでに
攻撃の軌道から離れていた。
「なっ……!」
ヤミーが目を見開く。
「いやぁ、危ない危ない」
少し離れた場所に立つ浦原は、
いつもの調子で帽子の鍔を指先で押し上げる。
その余裕のある立ち回りを見る限り、
浦原の方はさほど心配する必要はなさそうだった。
問題は――地上にいる日番谷たちだ。
帰刃したルピは、背中から伸びた
八本の触手を自在に操っていた。
「ぐっ……!」
そのうちの一本が日番谷を捉え、
凄まじい勢いで振り回す。
次の瞬間。
日番谷の身体が遥か彼方へと吹き飛ばされ、
地上のビルへと叩きつけられた。
残された三人も、触手に絡め取られている。
「隊長!」
「くっ……!」
「動けねぇ……!」
その光景を視界の端に捉えた紫乃は、
迷うことなく地上へと駆けた。
「花霞舞!」
紫乃の身体が、霞のように揺らめく。
迫り来る触手を鉄扇で次々と斬り払い、
そのまま捕らえられていた三人へと接近する。
一閃。
二閃。
三閃。
三人を締め上げていた触手が、
まとめて斬り落とされた。
「何だ、こいつ……!」
ルピが苛立たしげに紫乃を睨みつける。
邪魔をされた怒りのまま、
八本の触手を一斉に紫乃へ向けた
――その瞬間だった。
「……!」
凄まじい霊圧が、その場を覆う。
紫乃が振り返る。
先ほどまで、倒れたまま
動かなかった男が立っていた。
全身を氷のような霊圧で包み、
その背には巨大な翼。
「大紅蓮氷輪丸――卍解」
日番谷冬獅郎が、戻ってきた。
「日番谷隊長……!」
紫乃が息を呑む。
ルピはその姿を見上げる。
だが――その一瞬の油断が命取りだった。
「遅ぇんだよ……」
日番谷が静かに言う。
ルピの足元から、巨大な氷柱が
次々と突き上がった。
「な……!」
逃げる暇など与えない。
氷は瞬く間にルピの身体を包み込み、
巨大な氷塊へと変わっていく。
「千年氷牢」
日番谷の奥義が発動した。
ルピの姿は、完全に氷の中へと閉じ込められた。
「……これで」
紫乃が息を整える。
残るのは、ワンダーワイスとヤミー。
そう思った――その時だった。
空から、光が降りてきた。
「……!」
紫乃が顔を上げる。
それは、かつて藍染たちが虚圏へと
向かった際に現れたものと同じだった。
反膜。
淡い光が破面たちを包み込んでいく。
「撤退……?」
紫乃が呟く。
だが、その瞬間。
別の霊圧が、紫乃の感覚を貫いた。
――強い。
先ほどまでの破面とは、明らかに格が違う。
「……!」
その霊圧が向かっている先を感じ取る。
「一護……!」
紫乃の表情が変わった。
一護のいる場所。
そこに、今までとは比較にならないほど
強大な破面がいる。
「まさか……!」
心配になり、そちらへ意識を集中させる。
その時だった。
もう一つの霊圧が、微かに感じ取れた。
紫乃は、その霊圧を知っている。
「…真子さん……?」
平子真子。
その霊圧が、一護のいる場所から感じられた。
そこでようやく、紫乃は理解する。
平子もまた、一護の加勢に入っているのだ。
「ッ…」
胸の奥に張りつめていたものが、
溢れそうになる。
その一方で――。
「しまった……!」
浦原が、珍しく焦った声を漏らした。
反膜の光は、すでにヤミーを包み込んでいる。
「クッソ……! これからだって時にー!」
ヤミーは悔しそうに叫ぶ。
しかし、次の瞬間にはその巨体ごと
反膜の光に呑まれ、虚圏へと引き戻されていった。
その隣では、ワンダーワイスが相変わらず
焦点の合わない瞳で空を見上げている。
「あ〜」
それだけだった。
自分がどこへ連れて行かれるのかも、
戦いが終わろうとしていることも、
さして気にしていないようだった。
「……」
紫乃は、そんなワンダーワイスを見つめる。
そして――。
ピシッ。
氷塊に、亀裂が走った。
「……!」
ルピが閉じ込められていた氷が、
内側から砕け散る。
「なっ……!」
砕けた氷の向こうから、ルピが姿を現した。
ルピが閉じ込められていた氷が、内側から砕け散る。
「この程度で……
俺を止められると思うなよ……!」
ルピの身体もまた、反膜の光に包まれていく。
「何っ…!」
日番谷が身構える。
だが、ルピの姿は光に呑まれ、
そのまま虚圏へと引き戻されていった。
そして同じ頃。
一護たちのいる場所から感じられていた、
二体の破面の霊圧も消えていく。
「……」
紫乃はしばらく空を見上げていた。
あれが十刃の脅威。
明らかに一護の方にいた破面は
此処にいた十刃よりもレベルが違う。
それとワンダーワイス。
奴もまた、違う意味で脅威的だった。
この場で仕留められなかった事が悔やまれる。
紫乃は一護達の方角に体を向け、
状況が気になるが、拳を握りしめる。
やるべき事を終わらせてから会おう。
そう決めた筈なのに体が動こうとする。
「紫乃さん」
紫乃は浦原に呼ばれて振り返る。
「先ずは日番谷隊長らの救護を」
「――うん」
紫乃は浦原に言われた通り、
日番谷達の元に降りる。
こうして――。
突然始まった破面たちによる襲撃は、
ひとまずの終息を迎えた。
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