誓い


*





尸魂界へ戻った日番谷先遣隊は、
一番隊隊舎へと集まり、
総隊長・山本元柳斎重國に
現世での一連の出来事を報告していた。

「ご苦労様であった。
各隊に戻り、戦に備えて整えよ」

総隊長の言葉に、六人は揃って
「はい」と返事をする。

そして部屋を出ようと向きを変えた、
その時だった。

「花房副隊長は、此処に残るように」

「……はい」

紫乃は足を止めた。

他の六人が総隊長へ一礼して部屋を出ていく。

やがて扉が閉まり、広い室内には
総隊長と紫乃だけが残された。

「ご用件は何でしょうか」

一護の件もあった。

先ほどまで総隊長の判断に異を唱えた
わけではないにせよ、どうにも居心地が悪い。

紫乃がそう尋ねると、
総隊長は部屋の片隅へ視線を向けた。

「お主に頼みたい者がおる。入れ」

「……?」

声を掛けられ、隣室から
一番隊副隊長・雀部長次郎と共に
入ってきた人物を見て、紫乃は目を見開いた。

「雛森副隊長……」

そこにいたのは、雛森桃だった。

藍染惣右介によって瀕死の重傷を負わされ、
長らく療養していたはずの彼女が、
今は自らの足で立っている。

「もう動けるようになったのね」

紫乃が声を掛けると、雛森は小さく頷いた。

しかし、紫乃の中には別の疑問が浮かんでいた。

雛森は、藍染惣右介を誰よりも信じ、
心酔していた。

そんな彼女が、何故自分のもとへ来たのか。

「破面との決戦に向けて、
お主に修行をつけて欲しいそうじゃ」

「修行……ですか?」

思わず聞き返す。

何故、自分に。

その疑問に答えるように、雛森が口を開いた。

「決戦に向けて、強くなる為に……
技を磨きたいんです」

雛森は一度息を整える。

「花房副隊長は、鬼道に長けており、
斬魄刀と鬼道を合わせた技も
創出していると存じております」

真っ直ぐな瞳が紫乃を捉える。

「それを……私にご指導頂きたいのです」

紫乃は答えず、総隊長へ視線を向けた。

その目が問い掛けている。

――藍染に心酔していた、この雛森を。

本当に決戦の場へ出すつもりなのか。

総隊長は、その意図を察したように静かに答えた。

「修行を経て、最終決定はお主に委ねる」

「……」

すべてを、紫乃に任せるということだった。

恐らく総隊長も知っている。

紫乃が藍染惣右介をどれほど憎んでいるのか。

そして、雛森が未だに抱えている藍染への想いも。

それでも雛森を紫乃に託す。

戦場に立たせるべきか否か。

その判断をするならば、私情に流されず、
ただ藍染を倒すという目的を優先できる者に
任せるべきだと――そう考えているのだろう。

紫乃は、再び雛森へ視線を戻した。

その瞳は、必死だった。

それと同時に、覚悟を決めている目でもあった。

紫乃は小さく息を吐き、静かに口を開く。

「……戦場に出るということは、
藍染惣右介と戦うことになる」

雛森の手が、きゅっと握り締められた。

「無論、藍染を殺すことだって考えられる」

雛森の表情が僅かに強張る。

「それを……目の前で見ることだって、
当然ありえる」

紫乃は、雛森の目を真っ直ぐに見つめた。

「雛森副隊長は、それに耐えられるの?」

しばしの沈黙。

それでも雛森は目を逸らさなかった。

「……はい!」

はっきりとした声だった。

「私も……藍染隊長と戦います」

その言葉に、紫乃は僅かに目を細めた。

そして、しばらく考えた後――。

「……分かりました」

紫乃は総隊長へ向き直る。

「雛森副隊長の修行を、引き受けます」

「ありがとうございます!」

雛森は深く頭を下げた。

総隊長も静かに頷く。

「承知した。修行は明日から
一番隊の修練場を使うと良い。
明日、案内させよう」

「はい」

紫乃は返事をすると、雛森へ向き直った。

そして、ほんの少しだけ表情を和らげる。

「よろしくね、雛森副隊長」

「……はい!」

紫乃はその返事を聞くと、
一番隊隊舎を後にした。

扉が閉まる。

廊下を歩きながら、紫乃は静かに目を伏せた。

藍染と戦う覚悟。

そのための力を、これから雛森に教える。

それが彼女を戦場へ
送り出すことになるのだとしても――。

今はただ、彼女自身が選んだ覚悟を
無駄にしないために。

紫乃は、前を向いて歩き続けた。







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