微笑
*
それから数日が経った。
朽木ルキアの処遇について、
正式な決定が下された。
第一級重禍罪。
二十五日後、真央刑庭に於いて極刑。
その報せを受けた紫乃は、しばらく言葉を失った。
あまりにも重い。
ルキアが犯した罪が軽いとは思っていない。
死神の力を人間へ譲渡することが、
尸魂界の規律において重大な違反であることも
理解している。
それでも――極刑になるとは、考えていなかった。
「……極刑」
小さく呟いた言葉が、静かな執務室へ落ちる。
浮竹もまた、すぐに動いていた。
総隊長へ直接掛け合い、
ルキアが力を譲渡するに至った事情を説明し、
処分を軽減するよう訴えた。
しかし、その申し出が通ることはなかった。
決定は覆らない。
ルキアは二十五日後、
真央刑庭にて極刑に処される。
それが、護廷十三隊によって下された結論だった。
紫乃は手元の書類へ視線を落としたまま、
動かなかった。
つい数日前まで、
規定違反として扱われていたはずの出来事が、
いつの間にか一人の部下の命を
奪うところまで進んでいる。
胸の奥に、冷たいものが沈んでいく。
このまま執務室にいては、
気持ちまで沈んでしまいそうだった。
紫乃は一度仕事の手を止めると、
気持ちを和らげるために隊舎の外へ出た。
静かな場所を選んで、少し歩く。
それだけでも幾分か気が紛れるかと思った。
だが、そんな紫乃の前に、
思いもよらない人物が現れた。
「おや、花房副隊長やないの」
柔らかな京都弁。
その声を聞いた瞬間、紫乃には誰なのか分かった。
建物の陰から、
三番隊隊長の市丸ギンがふらりと姿を現した。
「市丸隊長、お疲れ様です」
紫乃は足を止め、姿勢を正して挨拶する。
「こないな場所で、どうしたん?」
ギンは細めた目のまま、にこやかに笑った。
「……ああ。
自分とこの隊士が極刑に決まったから、
落ち込んでたんか」
言葉だけを聞けば、
心配しているようにも聞こえる。
けれど、その声音には
明らかな揶揄が混じっていた。
紫乃はそれに気づいていた。
しかし、そんな言葉にいちいち腹を立てるほど、
若くもなかった。
「大切に育てた部下ですから」
ただ、それだけを静かに返す。
ギンは僅かに黙った。
「大切に、ねえ」
その言葉を繰り返したところで――
カン、カン、カン。
乾いた警報音が、瀞霊廷へ響き渡った。
紫乃もギンも、同時に顔を上げる。
『西方郛外区に歪面反応!』
『三号から八号域に警戒令!』
『繰り返す。西方郛外区に歪面反応!』
周囲が一気に慌ただしくなる。
侵入者が現れたらしい。
「……此処から近い」
紫乃が呟く。
するとギンが、
何でもないことのように声を掛けた。
「向かおうか?」
「いえ。管轄外ですので」
紫乃は一歩下がった。
十三番隊が担当する区域ではない。
まして今は、何者が侵入したのかすら
分かっていない。
「なんや、おもんないの」
ギンはそう言って歩き出した。
「市丸隊長」
紫乃は思わず呼び止める。
「まさか、向かうつもりですか?」
「うん」
あまりにもあっさりとした返事だった。
「まだ何者が侵入したのか分からない状況で、
隊長が単独で向かうのは……」
「だって、気になるやん」
ギンは振り返り、悪びれる様子もなく笑った。
次の瞬間。
その姿が、瞬歩によって掻き消える。
「……全く」
紫乃は深くため息を吐いた。
以前、三番隊の副隊長である吉良イヅルが、
隊長が自分に仕事を押しつけてくるのだと
愚痴をこぼしていたことを思い出す。
あれでは、吉良が苦労する理由もよく分かる。
市丸ギン。
若くして死神の席位を与えられ、
護廷十三隊へ入った秀才。
その実力は確かなのだろう。
けれど――
「まだまだ、自由奔放な子どものような人だなぁ」
誰もいなくなった道を見つめながら、
紫乃は小さく呟いた。
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