初訪


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数日後。

紫乃は、久しぶりに二番隊隊舎を離れて
外へ出ていた。

向かった先は、十二番隊隊舎。
その手には、道中で立ち寄った
和菓子屋で買った手土産の紙袋がある。

ここ数日、立て込んでいた仕事が
ようやくひと段落したのだ。
それに今日は、夜一も刑軍の訓練に出ている。

今なら、少しくらい隊舎を空けても
問題ないだろう。

そんなことを考えながら、
紫乃は十二番隊隊舎の前までやって来た。

「お邪魔します」

扉を開けて中へ入る。

すると、ちょうど前を通り掛かった
男隊士が足を止めた。

「あの、すみません」

「はい?」

「浦原隊長に用があって伺ったのですが」

「二番隊の……」

男隊士は紫乃の隊章を確認すると、すぐに頷いた。

「浦原隊長なら隊首室で作業をしております」

「会わせていただくことはできますか? 
昇任祝いで来たのですが……」

その言葉に、男隊士が答えるより先に――。

「他所の三席が、うちになんの用やねん」

ぴり、と空気を裂くような声が響いた。

紫乃が男隊士の肩越しに奥を見る。

そこには、小柄な女隊士が腕を組んで立っていた。

猿柿ひよ里。
十二番隊副隊長である。

「猿柿副隊長、お疲れ様です」

紫乃は穏やかに頭を下げた。

「浦原隊長とは、二番隊でもよくしていただいていて。
今日は昇任祝いに、少し顔を見に来たんです」

そう言って、手にしていた紙袋を開く。

「それと……栗羊羹ですが、お好きですか? 
よかったらどうぞ」

差し出された箱を見て、
ひよ里の眉がぴくりと動いた。

「……フン!」

ひよ里は鼻を鳴らすと、
紫乃の手から乱暴に箱をひったくった。

「そうやって取り入ろうとすんのが、
二番隊のやり方なんか!」

「え……?」

言葉とは裏腹に、羊羹の箱だけは
しっかりと抱えている。

そのまま、ひよ里はズンズンと
不機嫌そうに足音を鳴らしながら、
隊舎の奥へと消えていった。

「…………」

紫乃はその背中を見送る。

(喜助、大丈夫かな……)

どうやら、浦原が隊長になってからの十二番隊は、
なかなか賑やかなことになっているらしい。

少しばかり心配になりながら、紫乃が振り返ると、
先ほどの男隊士が苦笑していた。

「隊首室にご案内します」

「あ、ありがとうございます」

男隊士の後に続き、
紫乃は十二番隊隊舎の廊下を歩いていく。

すると――。

ガン、ガン、ガン。

「…………」

廊下の先から、やけに大きな機械音が響いてくる。

ガチャガチャと金属の擦れる音。

何かが動く音。

時折、聞いたことのない
不穏な音まで混じっている。

紫乃は思わず足を止めかけた。

「……何の音ですか?」

「さあ……」

案内役の男隊士も、何とも言えない顔をする。

しかし、その音の発生源は、
どうやら目的地と同じらしい。

やがて隊首室の前まで辿り着くと、
男隊士が襖の前で姿勢を正した。

「浦原隊長! 二番隊花房三席が、
昇任祝いにといらしております!」

「…………!」

中から、ガチャガチャッ、と
ひときわ大きな音が響いた。

続いて、何かを慌てて片付けるような物音。

ドタドタとした足音。

そして――。

「はいはい、今開けるっス!」

襖が勢いよく開いた。

その向こうから、浦原喜助がひょいと顔を出す。

「紫乃さん!お疲れさまっス」

いつもと変わらない、どこか気の抜けた笑顔。

それを見た瞬間、紫乃の口元にも
自然と笑みが浮かんだ。

「他所の三席に敬語だなんて。
示しがつきませんよ、浦原隊長」

紫乃が少しだけ困ったように笑う。

すると浦原は、きょとんとした後――。

「あ」

頭を掻きながら、いつものようにへらりと笑った。

「つい癖で……」

その姿は、隊長になった今も
何一つ変わっていなかった。







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