語らい


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ここは瀞霊廷の繁華街から少し外れた、
静かな高級飲食店が立ち並ぶ一角。

仕事を終えた紫乃は、
京楽に指定された割烹料理屋を訪れていた。

店員に案内された先は、
落ち着いた造りの個室だった。

襖には繊細な植物の絵が描かれ、
部屋の隅に置かれた壺や掛け軸も、
紫乃には見慣れたものではあるが、
ひと目で上質な品だと分かる。

紫乃は下座の座布団に腰を下ろし、二人を待った。

しばらくして――。

「失礼します。京楽様、
矢胴丸様がご到着されました」

店員が襖を開ける。

「やあ、お疲れ様」

京楽は被っていた笠を外しながら部屋へ入り、
向かい側の上座へ腰を下ろした。

「お疲れ様です、京楽隊長。矢胴丸副隊長」

紫乃は立ち上がって一礼し、それから座り直す。

その隣に、リサが「お疲れさん」と
軽く声を掛けながら腰を下ろした。

「先にお飲み物をお伺いしても
よろしいでしょうか」

店員が尋ねる。

「僕はお勧めの日本酒を、熱燗で頂くよ」

「うちはハイボールで」

京楽に続いて、リサが注文する。

「私は京楽隊長と同じものを、
冷酒でお願いします」

紫乃も注文を済ませた。

すると、リサが紫乃の方へ顔を向ける。

「いける口なんか?」

「嗜む程度に」

紫乃が答えると、京楽は胡坐をかいた膝に
頬杖をつきながら、にこにこと紫乃を見ていた。

「いやあ、可愛い女の子二人と飲めるなんて、
今日はラッキーだね」

「いつでもセクハラで訴えてええで」

リサが紫乃に向かって、さらりと言う。

「リサちゃんは手厳しいなぁ」

京楽は困ったように笑った。

それでも気にする様子はなく、

「好きな物、頼んでいいからね」

そう言って、お品書きを二人に渡す。

品書きに並ぶ料理は、
どれも見るからに上等なものばかりだった。

しかし、リサは遠慮する様子もなく、
牛の香草焼きに天麩羅、刺身の盛り合わせなど、
次々と注文していく。

紫乃もそれに合わせるように、
季節の和え物や湯葉の刺身などを頼んだ。

ほどなくして、先に酒が運ばれてくる。

三人の前に、それぞれの酒が置かれた。

「じゃあ、お疲れ様ー」

京楽が杯を掲げる。

「お疲れ様です」

紫乃とリサもそれに続いた。

三人で軽く杯を合わせ、
紫乃はグラスに注がれた冷酒を口にする。

辛口の酒だ。

けれど、後からふわりと甘みが広がる。

これなら、これから運ばれてくる料理とも
よく合いそうだった。

「紫乃ちゃんは、
確か浦原隊長の部下だったよね?」

京楽が酒を口にしながら尋ねる。

「昇任してからも会ったりした?」

「はい。昇任祝いで十二番隊へ伺ったり、
仕事でもやり取りをしています」

「そっかそっか。三席から隊長に昇格だもんね。
優秀な証拠だよ」

京楽は満足そうに笑った。

「アホそうな顔しとんのにな」

隣でリサがそう言いながら、
ハイボールをぐいっと煽る。

「他所の隊長さんをアホ呼ばわりしちゃ駄目だよ、
リサちゃん」

京楽は困った顔をしながらも、
声音はあくまで柔らかい。

紫乃はその様子を眺めながら、
内心で少しだけ驚いていた。

二番隊では、隊長と副隊長といえど、
これほど遠慮のないやり取りはまず見ない。

隊によって、上下関係の距離感は
随分と違うものだ。

「十二番隊ってことは、ひよ里にも会ったんか?」

リサが尋ねる。

「はい」

紫乃は頷いた。

「あまり他所の隊士が出入りするのを
好まないみたいなので……
気を付けないと、とは思っています」

初めて会った時、
いきなり怒鳴られたことを思い出す。

「他所の隊長を蹴飛ばすような奴やから、
気にせんでええよ」

リサは何でもないことのように言った。

「……確かに」

紫乃も思い返す。

平子と何かと言い合っていたし、
時には小突いたりもしていた。

「二番隊は、その辺りが厳しいから驚くかもね」

京楽は楽しそうに笑いながら、盃を傾けた。

紫乃も小さく笑い、冷酒を口に運ぶ。

そうして三人が話している間にも、
料理は次々と運ばれてくる。

香ばしい香りを立てる牛の香草焼き。

季節の野菜を使った和え物。

揚げたての天麩羅。

艶やかな刺身の盛り合わせ。

卓上には、酒と料理が少しずつ並び始めていた。

今夜はまだ、始まったばかりだった。







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