酔没


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「酒は嗜む程度なんて、嘘やろ」

リサはハイボールのグラスを片手に、
真顔で言った。

「思いっきし酒に飲まれとるやん」

その言葉通り、リサの左隣には
紫乃がぴったりと寄り添っている。

「矢胴丸副隊長〜、次、何飲みます〜?」

頬を赤く染め、すっかりふにゃりとした表情で
紫乃が甘えるように尋ねる。

「まだグラス入ってんねん」

リサは表情一つ変えずに突っ込んだ。

「え〜。割りものじゃなくて、
同じの飲みましょうよ〜」

紫乃はそう言いながら、お猪口を差し出す。

「日本酒嫌いやねん」

「え〜……」

素っ気なく返され、紫乃は少しだけ唇を尖らせた。

向かいでは、京楽が熱燗を片手に、
そんな二人を楽しそうに眺めている。

「いや〜、可愛い子二人がくっついてる構図は、
お酒が進んじゃうね〜」

「ニヤニヤ見てんな、エロじじい」

リサの容赦のない言葉が飛ぶ。

「京楽隊長も、まだまだ飲みましょ〜」

紫乃が京楽へ声を掛けると、
京楽はますます嬉しそうに笑った。

「紫乃ちゃんが僕の隣に来てくれたら、
沢山飲むよ〜」

「二番隊の隊長に蹴り飛ばされるで」

そう言いながら、リサは紫乃が京楽の隣へ
移動しないよう、その肩を抱いて引き寄せた。

「私ぃ〜、本当は嬉しかったんれすよ〜。
飲みに誘われてぇ……」

紫乃は頬を赤くしたまま、ぽつぽつと話し始める。

「海燕に、お前は酒を飲むと
別人だから気をつけろって言われてから……
誘いづらくなっちゃって……」

手にしたお猪口を傾けながら、紫乃は続けた。

「私だってぇ……やりたい放題な
隊長たちの下に付いてたら、
たまにはパァーッと
楽しみたい時もあるのにぃ……」

そう言って、ぐいっと酒を飲む。

「うんうん。お酒飲むと楽しいよね〜」

京楽が相槌を打つ。

「あんたは毎日飲んどるやろ」

リサが即座に突っ込んだ。

「甘い物も好きだけどぉ……
お酒だって私の癒しなんれすよ……」

紫乃の目が、うるうると潤む。

そのまま「うう……」と小さく声を漏らし、
今度はリサへ甘えるように身体を預けた。

「だから、矢胴丸副隊長も飲みましょう?」

「……文脈どうなってんねん」

リサは思わず真顔になった。

しばらく紫乃を眺めていたリサが、ふと尋ねる。

「その海燕って奴は誰や」

「ああ、今、浮竹が
副隊長にしたがってる三席だねぇ。
紫乃ちゃんとは真央霊術院からの
同期じゃないかな?」

京楽が答える。

「そうれすよぉ」

紫乃は嬉しそうに頷いた。

「海燕も副隊長になれば良いのにぃ。
めんどくさがっちゃってぇ……
三席の方が大変なのにぃ……」

そう言って、紫乃はしょんぼりと項垂れる。

「取り敢えず、その海燕って奴を呼べば、
この飲んだくれを回収してくれるんか」

リサは紫乃を見ながら言った。

「でも、このおっさんと二人きりもアレやしな」

「僕は何もしないよ〜」

京楽は両手を上げ、無害を主張する。

「信用ならんねん」

リサの即答に、京楽は苦笑した。

そんな二人のやり取りを、
紫乃は楽しそうに眺めている。

「紫乃ちゃん、そろそろ二次会行っちゃう?」

京楽が尋ねる。

「行きたいれす〜」

紫乃は即答した。

「勿体無いから、全部飲んじゃいましょお」

そう言うなり、徳利に残っていた酒を
お猪口へ溢れそうなほど注ぐ。

そして、それを一気に飲み干した。

「……あかんわ、この人ら」

リサは酔っ払い二人を前に、
とうとう呆れたように額へ手を当てた。

やがて京楽が会計を済ませ、
三人は割烹料理屋を出る。

外はすっかり夜も更けていた。

昼間よりも涼しい風が瀞霊廷の通りを抜けていく。

酒で火照った身体には、
その冷たい風が心地良かった。

「じゃあ、二件目も僕のお勧めの店に行こうか」

京楽が言う。

すると、リサが手を振った。

「うちはもう帰るで」

「え〜! 矢胴丸副隊長も行きましょうよ〜」

紫乃はすぐさまリサの腕を掴み、
ぴったりと身体を寄せる。

「朝まで酔っ払い二人の相手なんて嫌や」

リサはそう言って、紫乃を引き剥がした。

「朝まで飲もうだなんてぇ……
まだまだ行けるじゃないれすかぁ」

紫乃は納得がいかない様子で駄々をこねる。

すると京楽が紫乃の肩へ手を置いた。

「まあまあ。無理に飲ませるのも良くないし、
酒好き二人でもう一件行こうか」

「むぅ……」

紫乃は少しだけ唇を尖らせた。

それでもリサに向かって手を振る。

「矢胴丸副隊長ぉ、また飲みましょうねぇ〜」

「はいはい。もう分かったから、
そのおっさんにセクハラされんなよ」

リサは手を振り返しながら、
二人の背中を見送った。

そして――。

紫乃と京楽は、そのまま繁華街にある
別の店へ向かった。

まだ夜は長い。

二人の酒宴は、もうしばらく続くことになった。







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